5:任務終了
ヒロイン
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
冗談を言い合ったり、他愛のない話をしたり、二人で過ごす最後の時間はあっという間に過ぎていった。
もうすぐ閉店というところで、レノはタバコを吸いに外に出た。
ヒロインを一人にする不安はあったが、店内には人も少なく、大丈夫だろうと判断した。
しかし、1本タバコを吸い終わって店内に戻ると、ヒロインが数人の若い男に囲まれていた。
「ほら、俺の奢り。少し話すぐらいいいだろ?」
ヒロインが目の前に置かれた酒を男の方に押しやった。
「奢ってもらう理由もないし、生憎、彼がいるから」
『彼』という単語に、レノは敏感に反応した。
体の良い断り文句だとわかっていながらも、胸が高鳴る。
「あんたのこと一人残して外行く奴より、俺の方がいいって」
男の言葉に、ヒロインは満面の笑みで答えた。
「今まで会った中で一番いい男だから、彼。あんたたちが足元にも及ばないぐらいね。わかったら、他の若い子ナンパしに行きなさい」
しっしと手を振って男たちを追い払うと、ヒロインが伝票を持って立ち上がった。
レノはなんとなくこのまま戻るのが気恥ずかしくなり、店の外に出た。
ヒロインの言葉がぐるぐると頭を巡る。
決して自分のことを言っているのではないし、若い男たちを追い払うために言ったのだとわかってはいても、それがヒロインの本心だったらと思わずにはいられない。
それぐらい、気づけばヒロインのことが気になり、好きになっていた。
年上ぶって世話を焼くところも、時折見せる可愛げのある表情や仕草も、男を追い詰めたあの冷酷な表情、口調も、ヒロインの全てが愛おしい。
初めて心から守りたいと思う人ができた。
それなのに、この思いを告げたい相手の心は遥か遠く。
近づきたいのに、そばに行くのは怖かった。
また、傷つけてしまったら?
今度こそ、心が離れてしまうかもしれない。
それならばいっそ、今の関係のまま、何事もなく仕事を終える方がいい。
レノがそう心を決めると、ヒロインがバーから出てきた。
「お待たせ。さ、帰ろっか」
「あ、悪い。支払い任せちまった」
「今日は奢り。言ったでしょ?」
約束を守ってくれたお礼だと、ヒロインが片目を瞑って言った。
「じゃあ遠慮なく、先輩」
レノは気取った仕草でヒロインに頭を下げた。
「やっと後輩らしくなった」
そう言ってヒロインが明るく笑った。
帰ってアパートの始末をした二人は、そのままアパートを出て神羅の輸送船に乗り込んだ。
行きとは打って変わって寝心地の悪いベッドで何度も寝返りを打ちながら、ヒロインは眠れない時間を過ごしていた。
――今まで会った中で一番いい男だから
ナンパを断るはずの口からでまかせのはずだった。
しかしあのとき、ヒロインの頭に浮かんだのは、レノの姿だった。
あのときのことを思い出すと、自然と顔が熱くなり、胸がドキドキする。
レノは後輩の一人。
それをしっかりと意識すると、胸の鼓動も収まっていく。
それなのに、レノに『先輩』と呼ばれたとき、胸がきゅっと締め付けられるような苦しさを感じた。
(どうしよう、私――)
今まで生きてきて、初めて芽生えた感情。
知識として知っていただけのそれ。
(これが恋、なのかな…)
ヒロインはぎゅっと胸に手を当てた。
感情に名前をつけると、それはざわざわと落ち着きがなかった心にぴったりと収まった。
それと同時に、7年前に彼に抱いていたのが『恋愛感情』ではなかったのだと知ってしまった。
当時は人生経験の浅い子供だったと言ってしまえばそれまでだが、彼の心を踏みにじってしまったようで、ヒロインはレノに対する感情を素直に喜ぶことができなかった。
だからヒロインは、先輩と後輩という関係が一番いいのだと自分に言い聞かせた。
(ほら、少し楽に――)
横向きになっていたヒロインの目から零れ落ちた涙が、枕に小さな染みを作った。
To be continued...
2021/02/22
.
もうすぐ閉店というところで、レノはタバコを吸いに外に出た。
ヒロインを一人にする不安はあったが、店内には人も少なく、大丈夫だろうと判断した。
しかし、1本タバコを吸い終わって店内に戻ると、ヒロインが数人の若い男に囲まれていた。
「ほら、俺の奢り。少し話すぐらいいいだろ?」
ヒロインが目の前に置かれた酒を男の方に押しやった。
「奢ってもらう理由もないし、生憎、彼がいるから」
『彼』という単語に、レノは敏感に反応した。
体の良い断り文句だとわかっていながらも、胸が高鳴る。
「あんたのこと一人残して外行く奴より、俺の方がいいって」
男の言葉に、ヒロインは満面の笑みで答えた。
「今まで会った中で一番いい男だから、彼。あんたたちが足元にも及ばないぐらいね。わかったら、他の若い子ナンパしに行きなさい」
しっしと手を振って男たちを追い払うと、ヒロインが伝票を持って立ち上がった。
レノはなんとなくこのまま戻るのが気恥ずかしくなり、店の外に出た。
ヒロインの言葉がぐるぐると頭を巡る。
決して自分のことを言っているのではないし、若い男たちを追い払うために言ったのだとわかってはいても、それがヒロインの本心だったらと思わずにはいられない。
それぐらい、気づけばヒロインのことが気になり、好きになっていた。
年上ぶって世話を焼くところも、時折見せる可愛げのある表情や仕草も、男を追い詰めたあの冷酷な表情、口調も、ヒロインの全てが愛おしい。
初めて心から守りたいと思う人ができた。
それなのに、この思いを告げたい相手の心は遥か遠く。
近づきたいのに、そばに行くのは怖かった。
また、傷つけてしまったら?
今度こそ、心が離れてしまうかもしれない。
それならばいっそ、今の関係のまま、何事もなく仕事を終える方がいい。
レノがそう心を決めると、ヒロインがバーから出てきた。
「お待たせ。さ、帰ろっか」
「あ、悪い。支払い任せちまった」
「今日は奢り。言ったでしょ?」
約束を守ってくれたお礼だと、ヒロインが片目を瞑って言った。
「じゃあ遠慮なく、先輩」
レノは気取った仕草でヒロインに頭を下げた。
「やっと後輩らしくなった」
そう言ってヒロインが明るく笑った。
帰ってアパートの始末をした二人は、そのままアパートを出て神羅の輸送船に乗り込んだ。
行きとは打って変わって寝心地の悪いベッドで何度も寝返りを打ちながら、ヒロインは眠れない時間を過ごしていた。
――今まで会った中で一番いい男だから
ナンパを断るはずの口からでまかせのはずだった。
しかしあのとき、ヒロインの頭に浮かんだのは、レノの姿だった。
あのときのことを思い出すと、自然と顔が熱くなり、胸がドキドキする。
レノは後輩の一人。
それをしっかりと意識すると、胸の鼓動も収まっていく。
それなのに、レノに『先輩』と呼ばれたとき、胸がきゅっと締め付けられるような苦しさを感じた。
(どうしよう、私――)
今まで生きてきて、初めて芽生えた感情。
知識として知っていただけのそれ。
(これが恋、なのかな…)
ヒロインはぎゅっと胸に手を当てた。
感情に名前をつけると、それはざわざわと落ち着きがなかった心にぴったりと収まった。
それと同時に、7年前に彼に抱いていたのが『恋愛感情』ではなかったのだと知ってしまった。
当時は人生経験の浅い子供だったと言ってしまえばそれまでだが、彼の心を踏みにじってしまったようで、ヒロインはレノに対する感情を素直に喜ぶことができなかった。
だからヒロインは、先輩と後輩という関係が一番いいのだと自分に言い聞かせた。
(ほら、少し楽に――)
横向きになっていたヒロインの目から零れ落ちた涙が、枕に小さな染みを作った。
To be continued...
2021/02/22
.