5:任務終了
ヒロイン
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日、レノとヒロインはアパートで男を見張っていた。
今までは退屈だった監視任務だが、今日はそれが重要な役割を果たす。何も見逃すまいと、二人は一瞬たりとも男から目を離さなかった。
男が動いたのは夕方だった。
レノがツォンに連絡を入れ、二人は男のあとを付けるためにアパートを出た。
「男が路地に入る。レノ、お願い。私は次の路地を曲がるから、あとでそっちから指示を」
「了解、と」
レノはヒロインの指示通り、男から少し遅れて路地に入った。
ヒロインは本当に周囲と対象の動きをよく見ている。その舌を巻く技術のおかげで、二人は男を見失うことなく、港の外れの倉庫街まで男をつけることができた。
「ツォンさん、予定通り男は二番倉庫の方に向かったぞ、と」
『あぁ、こちらからも見えている。奴らが接触し、武器を確認したら確保だ。殺すなよ』
「「了解」、と」
監視をツォンとルードに引き継ぎ、レノとヒロインは港の入口の方に目を向け、もう一人の男がやってくるのを待った。
日も落ちた倉庫街は行き交う人もなく静かだった。
聞こえるのは、切れかかった蛍光灯が鳴らすカチカチという音ぐらいだった。
それに混ざって、カタカタと何かが鳴る音が聞こえた。
レノは横目でヒロインを見た。
ヒロインの視線は真っ直ぐ入口の方に向かっていたが、歯の根が合わないほど震えていた。
覚悟を決めて今回の任務に志願しただろうが、いざここにきて怖くなるのも仕方ない話だった。今から来るであろう男は、ヒロインのトラウマだ。
レノは驚かさないようにそっと、銃にかけられたヒロインの手を握った。
ヒロインが強張った表情のまま、レノの方を見た。
「なぁ、ヒロイン。心配しなくても、あいつには一切手を出させないぞ、と」
レノは少しだけ握る手に力をこめた。
自分の決意を少しでもヒロインに伝えたくて。
それでもヒロインの表情は固いままだった。
「わかってる…レノを、信じてるけど…みんなが、レノが、捕まったり傷つけられたりしたら――また、あのときみたいに、選択を迫られたら――」
同僚と恋人のどちらを殺すか。
今回は、誰から殺すか。
あのときのことを思い出しているのか、ヒロインの顔色が少し悪くなった。
「それもないから、心配しなくていいぞ、と」
「どうして?あのときも、私はあんなことが起こるなんて想像してなかった。だから、最悪のことも考えて――」
「もしそうなったら、オレがヒロインを殺して、オレも死ぬ」
レノは真っ直ぐヒロインの目を見た。
ヒロインは恐れと戸惑いが入り混じったような顔をしていた。
「何言って――」
「ヒロインに言われてから考えたんだぞ、と。オレは、どっちも選べない。自分が死んだあとにヒロインがされることを考えたら、自分が死ぬのも耐えられない。なら、大切な人を自分で殺して自分も死ねば、あとの心配しなくていいだろ?」
ヒロインが何度か目を瞬かせ、そして、思い切り吹き出した。
「それは、考えなかったな。そっか、それもいいかもしれない」
ヒロインが吹っ切れた表情で言った。
「じゃあ、私もレノを殺してから死ぬことにする」
「オレは簡単には死なないぞ、と」
「私が殺そうとしたときは、すぐ諦めてよ」
二人は顔を見合わせて笑った。
最後まで生きることを諦めない。
それでももし、二人で生きる道が無いのならそのときは。
(一緒に死ねるなら、それも悪くない)
そんな事態にならないことを祈りつつ、レノは男が港にやってくるのを待った。
.
今までは退屈だった監視任務だが、今日はそれが重要な役割を果たす。何も見逃すまいと、二人は一瞬たりとも男から目を離さなかった。
男が動いたのは夕方だった。
レノがツォンに連絡を入れ、二人は男のあとを付けるためにアパートを出た。
「男が路地に入る。レノ、お願い。私は次の路地を曲がるから、あとでそっちから指示を」
「了解、と」
レノはヒロインの指示通り、男から少し遅れて路地に入った。
ヒロインは本当に周囲と対象の動きをよく見ている。その舌を巻く技術のおかげで、二人は男を見失うことなく、港の外れの倉庫街まで男をつけることができた。
「ツォンさん、予定通り男は二番倉庫の方に向かったぞ、と」
『あぁ、こちらからも見えている。奴らが接触し、武器を確認したら確保だ。殺すなよ』
「「了解」、と」
監視をツォンとルードに引き継ぎ、レノとヒロインは港の入口の方に目を向け、もう一人の男がやってくるのを待った。
日も落ちた倉庫街は行き交う人もなく静かだった。
聞こえるのは、切れかかった蛍光灯が鳴らすカチカチという音ぐらいだった。
それに混ざって、カタカタと何かが鳴る音が聞こえた。
レノは横目でヒロインを見た。
ヒロインの視線は真っ直ぐ入口の方に向かっていたが、歯の根が合わないほど震えていた。
覚悟を決めて今回の任務に志願しただろうが、いざここにきて怖くなるのも仕方ない話だった。今から来るであろう男は、ヒロインのトラウマだ。
レノは驚かさないようにそっと、銃にかけられたヒロインの手を握った。
ヒロインが強張った表情のまま、レノの方を見た。
「なぁ、ヒロイン。心配しなくても、あいつには一切手を出させないぞ、と」
レノは少しだけ握る手に力をこめた。
自分の決意を少しでもヒロインに伝えたくて。
それでもヒロインの表情は固いままだった。
「わかってる…レノを、信じてるけど…みんなが、レノが、捕まったり傷つけられたりしたら――また、あのときみたいに、選択を迫られたら――」
同僚と恋人のどちらを殺すか。
今回は、誰から殺すか。
あのときのことを思い出しているのか、ヒロインの顔色が少し悪くなった。
「それもないから、心配しなくていいぞ、と」
「どうして?あのときも、私はあんなことが起こるなんて想像してなかった。だから、最悪のことも考えて――」
「もしそうなったら、オレがヒロインを殺して、オレも死ぬ」
レノは真っ直ぐヒロインの目を見た。
ヒロインは恐れと戸惑いが入り混じったような顔をしていた。
「何言って――」
「ヒロインに言われてから考えたんだぞ、と。オレは、どっちも選べない。自分が死んだあとにヒロインがされることを考えたら、自分が死ぬのも耐えられない。なら、大切な人を自分で殺して自分も死ねば、あとの心配しなくていいだろ?」
ヒロインが何度か目を瞬かせ、そして、思い切り吹き出した。
「それは、考えなかったな。そっか、それもいいかもしれない」
ヒロインが吹っ切れた表情で言った。
「じゃあ、私もレノを殺してから死ぬことにする」
「オレは簡単には死なないぞ、と」
「私が殺そうとしたときは、すぐ諦めてよ」
二人は顔を見合わせて笑った。
最後まで生きることを諦めない。
それでももし、二人で生きる道が無いのならそのときは。
(一緒に死ねるなら、それも悪くない)
そんな事態にならないことを祈りつつ、レノは男が港にやってくるのを待った。
.