4:二人の約束
ヒロイン
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盗聴器を回収し、ヒロインの元に戻ったレノは眉をひそめた。先程までの青白い顔が嘘のように、ヒロインの頬に赤みがさしていた。
テーブルの上に置かれた2つの空のグラス。
理由を察したレノは顔をしかめた。
「レノ、ありがとう。さ、戻って報告しよう」
ヒロインはまたわざとらしい笑顔を作って、何でもない様子を見せた。
通り過ぎた痛みから目を背けて、きっとヒロインはまたどこかで限界に達したときに泣くのだろう。
今晩のように。
レノは唇を噛み、ヒロインから目を背けた。
自分がヒロインにしてやれることはない。ヒロインも慰めや優しさを必要としていない。
何もなかった、何も起きなかった。
だから、何もしなくていい。
レノは自分にそう言い聞かせたが、胸が締め付けられるように痛かった。
アパートに戻っても二人は無言だった。
お互いに何もなかったふりをして、仕事に没頭した。
レノは音声データのアップロードを、ヒロインは報告書の作成をそれぞれ担当し、一通りの作業が終わる頃には深夜3時を回っていた。
その間、男の部屋に動きはなかった。
二人は交代でシャワーと仮眠をとることにし、先にヒロインがシャワーを使うことになった。
ヒロインがシャワーを浴びている間、レノは換気扇の下でタバコを吸っていた。
シャワーの音を聞きながら、レノは数時間前のことを思い返していた。
あのとき、不用意にヒロインの過去を聞かなければ、報告書を見なければ、ナイトクラブに男が来なければ、ヒロインは壁を作らなかったかもしれない。
今まで通り他愛ない話をして、一緒にご飯を食べて、一緒に笑っていられたかもしれない。
普段は『もしも』なんて考えない。考えても無駄だから。
しかし今日は、無意味だとしても『もしも』を考えずにはいられなかった。
(重症だな…)
こんなに誰かのことを考えたことはない。
自分の行動を後悔したこともない。
ただ今は、間違いだらけの自分の言動を後悔せずにはいられなかった。
「レノ、灰落ちるよ」
いつの間にシャワーを終えたのか、ヒロインがすぐ近くにいた。
手元に視線を感じたレノは、タバコを乱暴に灰皿に押し付けた。
「ごめんね、気を使わせて。私は、大丈夫だから」
ヒロインは苦笑しつつ、冷凍庫からアイスを取り出していた。
「ありがとう、約束守ってくれて」
ヒロインの言う『約束』が、レノには何のことなのかわからなかった。
「アイス。2つ買ってきてって約束、守ってくれてありがとう」
「あー…」
数日前の約束。二人で笑っていられた頃の、些細な出来事。
「そうだったな」
それが遠い昔のようで、レノは自然と下を向いて顔を曇らせた。
「それ!その顔!」
「つめたっ!」
突然ヒロインがアイスをレノの頬に押し付けた。
レノは驚いて飛び上がった。
「心配、してくれてるんでしょ?でも、どうしていいかわからないって顔」
ヒロインの指がレノの方に伸ばされた。頬に触れた指は冷たかったが、ぬくもりも感じた。
「私も、わからないんだけど…どうしよっか」
「は?」
レノは思いもしなかったヒロインの言葉に目を丸くした。
アイスを片手に困ったように笑うヒロインを見ていると、悩んでいたのがばからしくなり、今度は少し腹が立ってきた。
「誰のせいで、こうなってると思ってるんだよ!」
レノは指でヒロインの額を弾いた。
「痛い!」
思った以上に力が入ってしまったのか、ヒロインの目が潤む。
額を押さえたヒロインの眉が吊り上がった。
「可愛くない後輩!」
「そっちこそ、意地っ張りで、年上ぶって、強いふりばっかで、全部一人で抱え込んで可愛げなさすぎだぞ、と!」
「レノの方が悪口多い!ひどい!」
「子供かよ…」
可愛げがないと言い放った直後の可愛げのある発言に、レノは思わず吹き出した。
「そう、その顔。レノは笑ってる方が素敵」
「なっ…」
唐突な褒め言葉にレノは体温が上がるのを感じていた。
ヒロインの少し不安に揺れる目が、こちらに真っ直ぐ向けられた。
「ナイトクラブで『オレがついてる』って言ってくれたから、大丈夫だって思えた。レノが一緒にいてくれるなら、あいつと向き合っても怖くないと思う。だから、絶対に私を一人にしないで」
もうヒロインの瞳に不安はなかった。
強い決意に満ちたヒロインは美しく、今すぐにでも抱きしめたかったが、レノは理性でそれを押し留めた。
その代わり不敵な笑みを浮かべ、レノは頷いた。
「あぁ、約束するぞ、と」
「じゃあ、はい」
ヒロインが右の小指を差し出してきた。
レノがきょとんとしていると、ヒロインが唇を尖らせ、レノの小指に自分の指を絡ませてきた。
「指切り。嘘ついたら…は、考えとく。ほら、見張りは私がしておくから、少し休んで」
ヒロインに背を押されてキッチンから追いやられたので、レノはシャワーを浴びることにした。
(『一人にしないで』か…)
熱いシャワーを頭から浴びながら、レノは口元を手で押さえた。
「あんなの、反則だろ…」
.
テーブルの上に置かれた2つの空のグラス。
理由を察したレノは顔をしかめた。
「レノ、ありがとう。さ、戻って報告しよう」
ヒロインはまたわざとらしい笑顔を作って、何でもない様子を見せた。
通り過ぎた痛みから目を背けて、きっとヒロインはまたどこかで限界に達したときに泣くのだろう。
今晩のように。
レノは唇を噛み、ヒロインから目を背けた。
自分がヒロインにしてやれることはない。ヒロインも慰めや優しさを必要としていない。
何もなかった、何も起きなかった。
だから、何もしなくていい。
レノは自分にそう言い聞かせたが、胸が締め付けられるように痛かった。
アパートに戻っても二人は無言だった。
お互いに何もなかったふりをして、仕事に没頭した。
レノは音声データのアップロードを、ヒロインは報告書の作成をそれぞれ担当し、一通りの作業が終わる頃には深夜3時を回っていた。
その間、男の部屋に動きはなかった。
二人は交代でシャワーと仮眠をとることにし、先にヒロインがシャワーを使うことになった。
ヒロインがシャワーを浴びている間、レノは換気扇の下でタバコを吸っていた。
シャワーの音を聞きながら、レノは数時間前のことを思い返していた。
あのとき、不用意にヒロインの過去を聞かなければ、報告書を見なければ、ナイトクラブに男が来なければ、ヒロインは壁を作らなかったかもしれない。
今まで通り他愛ない話をして、一緒にご飯を食べて、一緒に笑っていられたかもしれない。
普段は『もしも』なんて考えない。考えても無駄だから。
しかし今日は、無意味だとしても『もしも』を考えずにはいられなかった。
(重症だな…)
こんなに誰かのことを考えたことはない。
自分の行動を後悔したこともない。
ただ今は、間違いだらけの自分の言動を後悔せずにはいられなかった。
「レノ、灰落ちるよ」
いつの間にシャワーを終えたのか、ヒロインがすぐ近くにいた。
手元に視線を感じたレノは、タバコを乱暴に灰皿に押し付けた。
「ごめんね、気を使わせて。私は、大丈夫だから」
ヒロインは苦笑しつつ、冷凍庫からアイスを取り出していた。
「ありがとう、約束守ってくれて」
ヒロインの言う『約束』が、レノには何のことなのかわからなかった。
「アイス。2つ買ってきてって約束、守ってくれてありがとう」
「あー…」
数日前の約束。二人で笑っていられた頃の、些細な出来事。
「そうだったな」
それが遠い昔のようで、レノは自然と下を向いて顔を曇らせた。
「それ!その顔!」
「つめたっ!」
突然ヒロインがアイスをレノの頬に押し付けた。
レノは驚いて飛び上がった。
「心配、してくれてるんでしょ?でも、どうしていいかわからないって顔」
ヒロインの指がレノの方に伸ばされた。頬に触れた指は冷たかったが、ぬくもりも感じた。
「私も、わからないんだけど…どうしよっか」
「は?」
レノは思いもしなかったヒロインの言葉に目を丸くした。
アイスを片手に困ったように笑うヒロインを見ていると、悩んでいたのがばからしくなり、今度は少し腹が立ってきた。
「誰のせいで、こうなってると思ってるんだよ!」
レノは指でヒロインの額を弾いた。
「痛い!」
思った以上に力が入ってしまったのか、ヒロインの目が潤む。
額を押さえたヒロインの眉が吊り上がった。
「可愛くない後輩!」
「そっちこそ、意地っ張りで、年上ぶって、強いふりばっかで、全部一人で抱え込んで可愛げなさすぎだぞ、と!」
「レノの方が悪口多い!ひどい!」
「子供かよ…」
可愛げがないと言い放った直後の可愛げのある発言に、レノは思わず吹き出した。
「そう、その顔。レノは笑ってる方が素敵」
「なっ…」
唐突な褒め言葉にレノは体温が上がるのを感じていた。
ヒロインの少し不安に揺れる目が、こちらに真っ直ぐ向けられた。
「ナイトクラブで『オレがついてる』って言ってくれたから、大丈夫だって思えた。レノが一緒にいてくれるなら、あいつと向き合っても怖くないと思う。だから、絶対に私を一人にしないで」
もうヒロインの瞳に不安はなかった。
強い決意に満ちたヒロインは美しく、今すぐにでも抱きしめたかったが、レノは理性でそれを押し留めた。
その代わり不敵な笑みを浮かべ、レノは頷いた。
「あぁ、約束するぞ、と」
「じゃあ、はい」
ヒロインが右の小指を差し出してきた。
レノがきょとんとしていると、ヒロインが唇を尖らせ、レノの小指に自分の指を絡ませてきた。
「指切り。嘘ついたら…は、考えとく。ほら、見張りは私がしておくから、少し休んで」
ヒロインに背を押されてキッチンから追いやられたので、レノはシャワーを浴びることにした。
(『一人にしないで』か…)
熱いシャワーを頭から浴びながら、レノは口元を手で押さえた。
「あんなの、反則だろ…」
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