「確かに、これだけ大事になったからには、ヒロインに潜入捜査をさせるわけにはいかないな…」


　ヴェルドは溜息混じりに呟いた。


「しかし、何もタークスじゃなくても！」


　ツォンが立ち上がって、必死で反論する。

　考え直したら、とヒロインを説得するが、ヒロインの意志は固い。


「無理ですよ、私に日の光が当たる仕事は」


　ずっと裏稼業ばかりだったから、とヒロインは悲しげに笑った。




　ふとレノは、こいつも俺と同じだ、と感じた。


　一度裏の仕事に手を染めてしまえば、二度と表の世界で生きていけないことを知っている。

　背負ってしまった闇から逃げず、戦いもせず、諦めて闇の中でじっとしているのが一番楽だと本能的に感じているのだ。



　レノはちらっとヒロインの横顔を覗き見る。


　長い睫毛。
　すっと通った鼻。
　ふっくらとした唇。



　ヒロインをもっとよく知りたい。



　ぼんやりそう思っていると、ヒロインの群青の瞳が自分を見ていることに気付き、レノは決まりが悪く、そっぽを向いた。





「ヒロインがそこまで言うなら、タークスとして働いてもらうか」


　渋々といった感じでヴェルドは言った。


「ありがとうございます」


　ヒロインはふわりと微笑んだ。


「と言うことです。改めて、よろしくね」


　ヒロインは華奢な手をレノにそっと差し出した。


「えっ…あ、あぁ」


　いきなり話を振られたレノは、訳が分からないまま、とりあえず握手をしておいた。



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