「今日から長期任務だったよね」




　いつものように二人で朝食を食べ、食後のコーヒーを味わっていると、唐突にヒロインが切り出した。


「長くて１週間ぐらいだぞ、と」



　深く考えず受け答えしたレノの言葉に、小さく溜息をついたヒロインがフォークを置いた。




　コーヒーカップを持ち上げながらその様子を見ていたレノは、にやりと意地の悪い顔になる。



　しかし、しばらく会えないのに険悪な雰囲気は作りたくない。



　そう考えたレノは、すぐに澄ました顔を作って、コーヒーカップに口を付けた。




「私、友達もいないし…レノがいないと寂しいな」



　そう言って憂欝そうに目を伏せたヒロインが、カップを両手で包み込んだ。




　さらりと『寂しい』と口にされ、逆にレノは驚いて目を丸くする。



（こんなに素直なヒロインは初めてだな）



　珍しいものでも見るように、レノはまじまじとヒロインを観察した。




　少し俯き加減にし、そのふっくらした唇が僅かに動き、吐息を零すヒロインの姿が妙に色っぽい。



　珍しく１週間以上ご無沙汰しているレノにはちょっとの刺激さえ、過剰な反応になってしまう。



　できるだけそのことを意識しないようにし、気を紛らわせようと、すっかりぬるくなったコーヒーをすすった。





「早く帰ってきてね」




　心配そうな顔で殊勝なことを言うヒロインがたまらなく愛しく、抱き締めたい衝動に駆られたが、なんとか思い止まった。



　その代わりに格好をつけにやっと笑う。




「ヒロインが約束してくれたら、頑張って早く帰ってきてもいいぞ、と」



「何？約束って…」



　案の定興味を示したヒロインにレノはほくそ笑んだ。






「早く帰ってきたら、ヒロインとエッチしたいぞ、と」


「え！？」



　思いもよらなかったのか、ヒロインは目を大きく見開いて驚き、言葉を詰まらせた。



　あまりに素直な反応にレノはククッと笑うと、冗談だとヒロインに言った。



「もう！からかわないで！」



　ヒロインはまたからかわれたと知り、腹を立ててその形のいい眉を吊り上げた。




（実はかなり本気なんだけどな）





「行ってくるぞ、と」



　立ち上がったレノは、キッチンに置かれたテーブルをわざわざ回り込み、ヒロインの唇に軽くキスを落とした。



　突然のことにぽかんとするヒロインに苦笑し、本音を隠したままレノはひと足早く家を出た。



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