ヒロインの口が軽く開いた。



　レノはヒロインの口元を凝視する。





　一体ヒロインはどう答えるのか。






　妙な緊張感が二人を包んだ。

















「…もう！からかわないで！」



　一度開いたヒロインの口は、レノの期待に反して尖ってしまった。



　肩を落としたレノを置いて、ヒロインは一人さっさと駅に向かって歩いて行く。




「まったく…素直じゃないな」



　頭を掻いたレノは、溜息をつきながらヒロインのあとを追った。










　お膳立てをしたにも関わらず、結局ヒロインから聞きたかった言葉も聞けず仕舞。


　追えば逃げられ、気紛れに誘ってくる。



　肝心なところでいつも距離を置くヒロインは、まるで猫のようだとレノは感じた。




　そして、気難しい猫をつい気に掛け、構ってしまう自分。




　いつもなら、こんなに女に振り回されることもない。


　こんなに必死にもならない。




「重症だな…」




　ルードが昨日『浮気癖が治る』と言っていた意味がやっとわかり、レノは複雑な顔になる。




　本気で好きになるとは思ってもみなかった。





　だからこそ、今の関係を崩したくないが、もっと近づきたい。




　贅沢な悩みだと、レノは自嘲気味に笑った。










　プレート上に戻り、直帰の許可を得た二人は、特に目指す場所があるわけでもなく、のんびりと散歩を楽しんでいた。



　少し西に日が傾いていたが、暖かく降り注ぐ光が眠気を誘う。




「レノ、お腹減らない？」




　ぐぅ～。




　ヒロインから聞こえたやや遠慮がちな音に、レノはぷっと吹き出した。



　一方ヒロインは真っ赤な顔をして、自分のお腹を押さえている。




「じゃあヒロインちゃんのリクエストにお答えして、ご飯食べに行きますか」



　恥じらうヒロインに苦笑し、レノはヒロインの手を取って歩き出した。



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