数カ月後、ヒーリンにて。

　イリーナはダイニングの椅子に座ってコーヒーを飲みながら、キッチンで楽しそうに料理をするヒロインの背中をぼんやり眺めていた。
　キッチンからいい匂いが漂ってくる。

（お腹すいたなぁ…）

　今にもお腹が鳴り出しそうだ。
　あとどれぐらい掛かるか聞いてみようかと思ったそのとき、背後から同じことを言う声が降ってきた。

「ヒロイン～、腹減ったぞ、と。あとどんぐらいだ？」

「気になるなら手伝って！」

　ヒロインが振り返りもせず、少し怒った口調でぴしゃりと言った。
　それを聞いて、口に出さなくてよかった、とイリーナは心底思った。

「おい、イリーナ。手伝えってよ」

　隣に座ったレノが悪びれもせず言う。
　イリーナは思わず顔をしかめた。

「先輩が手伝ったらいいじゃないですか」

「あーお前、料理ダメだったな」

　レノがけらけらと笑う。

「先輩はできるんですか？」

　イリーナは思わずムッとした。自分もできないくせに、と。

「タークスのエースなめんなよ。お前よりは上手いぞ、と」

「えー！絶対に嘘！」

「嘘じゃないぞ、と。ヒロインに聞いてみろよ」

　絶対に嘘だと、イリーナは思った。見た目からして、これほど料理と縁遠い男もいない。

「ヒロイン、レノ先輩、本当に料理できるの？」

　ヒロインが料理の手を止め、振り返って考える様子を見せた。

「んー…あ！そういえば一回だけ、目玉焼き作ってくれた」

「目玉焼き！？」

　隣でレノが勝ち誇ったような笑みを浮かべている。無性に腹が立った。

「目玉焼きぐらい、私でも作れます！いい勝負じゃないですか！」

「あ？オレは他にも作れるぞ、と」

　イリーナとレノが不毛な口論をしていると、パン！と手を叩く音が聞こえた。
　二人は同時に音のした方を振り返った。

「二人とも、暇みたいだから手伝ってくれる？レノもイリーナも、料理できるんでしょ？」

　珍しく語気を強めたヒロインの顔から笑顔が消えていた。

「「はい…」」

　二人は大人しくヒロインに従い、料理の手伝いをするのだった。



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