「休み？」



　ヒロインはレノが帰ってくると、すぐさまルーファウスの提案をレノに伝えた。



　初めは不思議そうな顔をしていたレノだったが、得心がいったのか、にやりと笑った。



「ヒロイン様々だな」



　レノが言った意味が分からず、ヒロインは首を傾げた。



「社長もヒロインには甘いってことだぞ、と」



「そんなことないと思うけど…」



　レノの脱ぎ捨てた服を拾い、ヒロインは困り顔で答えた。



「なぁんか妬けるぞ、と」



　突然、至近距離で顔を覗き込まれ、ヒロインはびくっとして身体を引いた。



　それに合わせ、レノの身体も迫る。



　ぎゅっと胸にレノの服を抱いたまま後退りしたヒロインの背中が壁に当たった。



　意地の悪い笑みを浮かべるレノは危険だ。



　絶対によからぬことを考えている。



　本能的に危機を察知したヒロインは、伸ばされたレノの腕を擦り抜けた。



　まさかレノも避けられると思っていなかっただろう。



　目を丸くしたレノに対し、ヒロインは鼻を鳴らした。



「どう？イリーナに習ったのよ、護身術」



　得意気に拳を握って構え、ヒロインは笑った。



　その途端、抱えていたレノの服がぼとっと床に落ちた。



「あ…」



　ヒロインの注意が完全にレノから逸れた。



　屈んで服を拾おうとしたヒロインは、呆気なくレノに捕まり、後ろから抱き竦められた。



「甘いな」



　勝ち誇ったようにレノが笑う。



　ヒロインは小さく溜息をついた。



　まだまだレノには適わない。



「次は簡単にいかないんだから」



　そんな負け惜しみを口にしても、レノは「はいはい」と軽くあしらうばかりだ。



　なんだか悔しい。



　むうっと頬を膨らませたヒロインは、次こそレノに勝つ！、と変な決意を胸に、またイリーナと練習をしようと決めた。



.