「愚かなことを…」



　セフィロスがヒロインを見下ろし、嘲笑った。



「男一人のために、命を捨てる気か？」



　地面に横たわったまま、ヒロインはセフィロスを睨んだ。



「大切な、人のために…命を懸けて…何、が悪いの…！」



「そのせいで、お前は死ぬ」



　セフィロスが冷たく言い放った。





　死ぬ？



　私が？





　力の入らない身体と霞み出した視界が、セフィロスの言葉を裏付けた。





（似てる…）



　ヒロインは何年か前に研究員と研究所を逃げ出した時のことを思い出していた。



　あの時も、死を目前にしていた。



　そして、差し出された手を取り、ジェノバを受け入れることで命を繋いだ。





「ヒロイン、私がお前を救ってやろう」



　にやりと、セフィロスが笑ったのが見えた。



　生きるために、セフィロスに縋るのか？



　しかし、今回は――



「目当ては、ジェノバの、力――でしょう？あなたに、渡すぐらいなら…！」



「死ぬ、か？そうだな…そんな死にかけの身体なら、必要ないな」



　セフィロスが下から上へと線を描くように指を動かした。



　すると、ヒロインの身体がふわりと起き上がった。



　見えない糸で吊られ、引っ張られているような不快感がヒロインを支配した。



「興味があって生かしておいたが、俗人に成り下がったお前に用はない」



　返してもらうぞ。



　途端に、腰に鋭い痛みが走った。



　それは、ちょうど刺青の辺り。



「…うっ！」



　身体に無理矢理何かを押し込まれているかのような圧迫感のせいで、満足に声も上げられない。



「お前は、器に相応しくない」



　ずるり。



　何かが、身体から出た。



　セフィロスから解放され、倒れる瞬間、ヒロインは見た。



　緑色の半液体状の何かが、セフィロスに取り込まれるのを。





　既に身体に痛みはなかった。



　周りの音も遠い。





　死ぬ。



　何もできないまま。





　ヒロインは一筋涙を流した。



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