カツカツカツッとヒールを鳴らして女が近づいてきた。



　急にむっときつい香水の匂いで満たされ、不機嫌な表情で女を見た。




　派手な化粧に、派手な服。




　昨日一緒にいた、あの秘書室の女だった。





　既にレノは、この女性に対し何の興味も持っていないので、自然と突き放すような口調になる。





「何か用か？」




　他人事のように言うレノに、女がキッと眉を釣り上げた。



「『何か用』じゃないわよ！昨日あれから全く連絡くれなかったじゃない！どういうことよ！！」




　すごい剣幕で怒りだした女性に、レノは目を伏せ、大きな溜息をついた。






「用がないから連絡しなかった。ただそれだけだぞ、と」





　至極当然のように言い放たれた言葉に、女性が色を失う。




「ど…どういうことよ、それ…」




　強ばった表情で女性はレノに問うた。





「だから、用がないって言ってるだろ」




　言っていることを理解しない女性に苛立ち、やや強く言うと、女性は目に涙を浮かべた。




「私と別れるって言うの！？ひどい…私とは遊びだったのね！！」




　店中に響き渡る大声で女性が泣き叫んだが、レノは涼しい顔をする。



　これが、周りの同情を引き、男を狼狽えさせる作戦であることを、百戦錬磨のレノは知っている。




　常套手段に訴える女性に愛想が尽きたので、はっきり言ってやることにした。




「お前とは付き合うも何も、身体の関係で遊びだった。それにももう飽きたから、用がない。ここまで言えば満足か？」




　にやっと笑うレノに、頬を紅潮させた女性が思い切り振りかぶった平手を食らわせた。




「最っ低！」



　捨て台詞のようにそれだけ言うと、肩を怒らせ女性は去っていった。






「レノ最低ー」



　いつのまにか目を覚ましていたザックスが、にやにや笑ってレノの打たれた頬を見ている。




「なんだ、聞いてたのか、と」




　平然とレノは受け答えし、顔色一つ変えない。




「次はもっと上手く遊べよ」




「あぁ、気を付ける」




　赤くなっているだけで特に怪我はしていないが、女に殴られたとあっては格好がつかないので、レノは自分の頬にケアルをかけた。



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