「何してるのよ、レノ」




　女は苛立たしげに言うと、いささか強くレノの腕を引いた。



　レノは聞こえないよう、小さく舌打ちをした。




　あの女性の目を見て以来、今隣にいる女に全く興味がなくなっている。




　いっそ女を放って追い掛けようか。




　そんなことを考えていると。






　トゥルルルル…






　ズボンのポケットに無造作に突っ込んでおいた携帯が鳴った。



　背面ディスプレイには《本部》と出ている。



　本部から掛かってくる電話はろくな用事ではない。

　大抵は緊急任務だ。



　やれやれ、と溜息をついて電話をとった。




「はい、レノです」



『緊急任務だ。現在地は？』




　上司のツォンからだ。



　口調からして、かなり急を要する任務らしい。



「今はステーション前です、と」




『好都合だ。任務は、ある女性と彼女が持つディスクの保護だ。最悪、ディスクさえ手に入ればいい』




　どうやら、今日ディスクを受け取る予定だったようだ。



　しかし、作戦に障害が発生し、女性はディスクと共に追手から逃れようとしているらしい。



　そして、先程女性がステーション近くで目撃された。




「了解、と。ところで、女性の特徴は？」




『黒のロングヘアーに群青の瞳だ』



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