2-13:欠落
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ヒロインは途中で購入した花束を片手に、ニブル山を登った。
5年前、導かれるように進んだ道は、不思議と覚えている。
あの時の自分を重ねながら、ヒロインは無言で歩を進めた。
迷うこともなく、1時間ほどで目的の場所に辿り着いた。
「何も、残っていないのね」
ヒロインがやってきたのは、白の研究所が建っていた場所。
しかし、そこに研究所があったという痕跡は何一つ残っていなかった。
きれいに更地に変えられている。
そこに建造物があったことを知るためか、山肌に拓けたその空間が、ヒロインにはとても奇妙に映った。
「確かに、私たちはここにいたのに――」
忌まわしい実験から生まれた狂気と悲劇。
ここで、一人の女が生き残り、一人の男が死んだ。
その証となるものは、もうない。
「こうやって、皆忘れられていくのね」
ヒロインは研究所があった、その中心に立った。
吹き荒ぶ風になぶられた髪がまとわりつく。
ヒロインは空いている手で髪を払い、耳に掛けた。
「研究員…」
ヒロインはしゃがみ、そこに手にしていた花束をそっと置いた。
「お別れを、言いに来たわ――」
コスモキャニオンにいたときから決めていた。
ニブルヘイムに立ち寄ることがあったなら、ここに来ようと。
「5年間逃げて、やっと向き合うことができた」
研究員の死に対して。
ヒロインは自嘲気味に笑った。
「遅すぎよね、本当」
ヒロインは花束から手を放し、立ち上がった。
「もう忘れないわ。あなたが生きていたこと――あなたを好きだったこと」
ヒロインはふわりと微笑んだ。
「さよなら――ありがとう、研究員」
一段と強い風が吹き抜けた。
ヒロインの置いた花束から、真っ白い花弁が舞い上がる。
雪のようなそれは、風に乗ってニブル山を静かに降りていった。
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5年前、導かれるように進んだ道は、不思議と覚えている。
あの時の自分を重ねながら、ヒロインは無言で歩を進めた。
迷うこともなく、1時間ほどで目的の場所に辿り着いた。
「何も、残っていないのね」
ヒロインがやってきたのは、白の研究所が建っていた場所。
しかし、そこに研究所があったという痕跡は何一つ残っていなかった。
きれいに更地に変えられている。
そこに建造物があったことを知るためか、山肌に拓けたその空間が、ヒロインにはとても奇妙に映った。
「確かに、私たちはここにいたのに――」
忌まわしい実験から生まれた狂気と悲劇。
ここで、一人の女が生き残り、一人の男が死んだ。
その証となるものは、もうない。
「こうやって、皆忘れられていくのね」
ヒロインは研究所があった、その中心に立った。
吹き荒ぶ風になぶられた髪がまとわりつく。
ヒロインは空いている手で髪を払い、耳に掛けた。
「研究員…」
ヒロインはしゃがみ、そこに手にしていた花束をそっと置いた。
「お別れを、言いに来たわ――」
コスモキャニオンにいたときから決めていた。
ニブルヘイムに立ち寄ることがあったなら、ここに来ようと。
「5年間逃げて、やっと向き合うことができた」
研究員の死に対して。
ヒロインは自嘲気味に笑った。
「遅すぎよね、本当」
ヒロインは花束から手を放し、立ち上がった。
「もう忘れないわ。あなたが生きていたこと――あなたを好きだったこと」
ヒロインはふわりと微笑んだ。
「さよなら――ありがとう、研究員」
一段と強い風が吹き抜けた。
ヒロインの置いた花束から、真っ白い花弁が舞い上がる。
雪のようなそれは、風に乗ってニブル山を静かに降りていった。
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