すると、突然レノの眉が吊り上がり、真っ直ぐヒロイン目がけて手が伸びてきた。



　その手が、ヒロインの喉に掛かる。



　レノが少しでも力を加えれば、簡単に潰されてしまいそうだった。




　ヒロインはごくっと唾を飲み込んだ。



　恐らくレノの手にもその動きは伝わっただろう。



　僅かにレノの指に力が入った。




　ヒロインはゆっくりとレノを見上げた。



　レノの表情からは怒りが消えている。




　そして、これから起こるだろうことは、容易に想像できた。




　愛や慈しみなど微塵もない、ただ軽蔑するように見下ろされたヒロインは、レノが全て知ったのだと悟った。




　研究員のことも、コスタ・デル・ソルでのことも、何もかも全て。




　レノが自分を憎んでいるのは、もっともなことだった。



　誰よりも自分を愛し、信じてくれた人を裏切ったのだから。





　ヒロインは、ゆっくりと目を瞑った。








　レノの細く長い指が、ヒロインの喉に食い込んだ。























「言い訳も、しないのか？」



　静まり返った部屋にレノの声が響く。



　その声は、震えていた。




「あいつとは何もない、違うって、どうして言わないんだよ！」



　喉にかかる力が、僅かに弱まる。



「頼むから…否定してくれ」



　レノの手が、ヒロインから離れた。



「ヒロイン…」





　レノの悲痛な声に、ヒロインの胸が軋んだ。



　嘘だと言って、また辛いことから逃げてしまいたかった。



　目を背け、偽るのは簡単だった。




　しかし、ヒロインは否定できなかった。



　これ以上誤魔化して、偽ることはできない。



　偽りを重ね、逃げて傷つくのは自分ではない。



　ヒロイン以上にレノが欺かれていたことに苦しみ、傷を負う。




　ヒロインは意を決して目を開けた。



「…私、研究員のこと、好きだった」



　レノがきつく拳を握り、顔を背けた。



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