「嫌っ！」



　ルーファウスの手が胸元に差し掛かる寸前、ヒロインはルーファウスの胸板を渾身の力で押した。



　しかしそれは行為を中断させただけで、逃れるには至らなかった。



　ルーファウスの身体でソファに縫い止められたヒロインは、うっすら涙を浮かべたままルーファウスを見上げ、睨み付けた。



「何をそんなに嫌がることがある？初めてというわけではないだろう」



　面白そうににやりと笑ったルーファウスの言葉に、ヒロインは怒りで顔を赤くした。



「いい加減にしないと――」



「どうするんだ？悲鳴でも上げてみるか？」



　にやりと、ルーファウスの口角が上がる。



「ここにレノはいないぞ。もちろん、クラウドたちもだ」



　ルーファウスの顔が近づく。



「誰も、助けてはくれないぞ」



　ルーファウスが嘲笑を浮かべた。



「さぁ、どうする？」



　ヒロインはルーファウスから顔を背け、きつく唇を噛んだ。




















「――冗談だ」



　ルーファウスの放った意外な一言に、ヒロインは目を瞬いた。



「ふっ…嫌がる女を無理矢理抱くほど堕ちてはいない」



　そう言ったルーファウスはヒロインから離れ、髪を掻き上げた。



「ましてや君は大事な客人だ。――コスタ・デル・ソルまでゆっくりするといい」



　ルーファウスはふっと笑うと、そのまま部屋を出ていった。




　ヒロインは、脱力してソファに身体を預けた。




「…どうして…」



　ルーファウスは冗談だと言ったが、少なくともヒロインを真っ直ぐに見つめたあの目は本気だった。



　なぜルーファウスがあのような行動を取ったのか、ヒロインには全く理解できなかった。



　自分が普通の女性ではないことは嫌というほど自覚している。



　興味本位や戯れで抱こうなどとは、普通なら考えない。



　また、冗談だと態度を翻したこと、客人扱いされていること――



「何を、考えてるの…？」



　ルーファウスの本意が見えず、ヒロインは右手で頭を押さえた。



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