どんっ、と誰かとぶつかった。




「おっと！」




　ぼーっとしていたため、反応が一瞬遅れた。



　相手の方は、ぶつかった弾みにバランスを崩し、よろめいた。



　危うく転びそうになっていたのを、レノが腕を引っ張ってなんとか支えた。




「あ、ごめんなさい！急いでて…」




　よく見ると、商売女のようだった。


　露出が多く、際どいスリットの入ったワインレッドのドレスを身につけた女性だった。



　その格好を見て、レノはその女性に興味をなくし、掴んでいた腕を離した。




　商売女は好かない。




　しかし、目が合ったそのとき。


　レノの気持ちは一転した。



　黒髪に隠れた、神秘的な群青の瞳に目を奪われた。


　群青の瞳自体は珍しくないが、深海を思わせる瞳に胸が高鳴るのを覚えた。




「本当にごめんなさい」




　深々と頭を垂れると、女性は慌てた様子で背後を気にしながら走って行った。


　声を掛ける暇さえなかった。




（誰かに追われてんのか）



　何よあれ！と、眉を吊り上げた女性の声は、レノの耳には届いていなかった。


　しばらくの間、女性が走り去った方を見ていた。



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