久々にバイクで出社したレノは、地下駐車場にバイクを停めた。




　起きてからタバコを吸っていなかったことに気付き、バイクのシートに軽く寄り掛かってタバコを吹かした。






「おはよーさん！」






　バチーン！





　不意打ちで背中に思い切り平手を食らい、一瞬息が止まる。


　さらにタバコの煙が変な所に入ってしまい、涙目になりながら咳き込む。




「ってぇな、このバカ力！」




　やっと落ち着いたレノは、背後に立つ人物を睨み付けた。


　犯人はわかっている。



「ザックス…！」



「よ、よぉ…」



　殺気立つレノに、右手を上げ半笑いで後退るザックス。



　鋭い視線を向けていたレノだったが、すぐににっと意地悪く笑った。




「今日はお前の奢りな」




「おっ、色男のレノさんが珍しいですねー」



　ザックスはわざとらしく驚いてみせた。


　最近女ばかりで、自分とは遊びにも行ってくれなかったのに、と嫌味混じりでザックスが言った。


　レノは苦虫を噛み潰したような顔でそっぽを向く。



「さては振られたな」



　にやにやと嬉しそうにザックスが笑った。



「はっ！このレノ様が振られるわけないだろ、と」



　レノはザックスの言ったことを鼻で笑い飛ばし、格好をつけて髪を掻き上げた。


　それを白けた顔でザックスが見ていた。




「そういや、どうだったんだよ、秘書室の女」



　レノの肩に腕を回し、興味津々といった表情でザックスが聞いてきた。



「お前…俺の話は無視か」



　あっさり話題を変えられたレノは当然面白くない。



「な、どうなんだよ？色男！」



　レノの言葉をあっさり無視したザックスが、さも楽しそうにレノの顔を覗き込んでくる。




「さぁな」




　素っ気なく言うと、吸い終わったタバコを捨てて、レノはさっさとエレベーターに向かった。



「おい、待てって！」



　レノに置いていかれたザックスは、慌てて跡を追って行った。



.