「レノ…‥」





　消え入りそうなヒロインの声。





　突然圧迫感から解放されたレノは目を開いた。






「…ノっ」









　そこにいたのは、レノの知るヒロイン。





「ヒロイン！」




　つい今し方、再び空気を通し始めた喉を懸命に震わせ、レノは叫んだ。





　両眼から涙を流すヒロインが、苦しげに顔をしかめた。




「もうやめて！出てこないでっ！」



　胸が痛むのか、ヒロインはその辺りを服ごと握ると、絶叫して身体を折る。




　前のめりに倒れそうになったヒロインを、レノは必死に腕を伸ばして受けとめた。




　やっとこの腕にヒロインを抱くことができ、レノは放すまいときつく抱き締める。






「レノっ…お願、い…‥早…殺してぇっ！」




　泣きながらレノの服を掴み懇願するヒロインに、レノの顔が曇る。





　せっかく会えたというのに――






「ヒロイン！俺との約束は？」




　研究員の声にヒロインが身体をびくつかせた。




　研究員の射るような視線に、レノにもわかるほどヒロインの体温が上昇した。





「研究員っ…いやぁぁ！レノっ、レノぉ！」




　我を失って、叫びながら縋りつくヒロインを抱き寄せる。




「お前、いい加減に――」




　眉を吊り上げ、再び電磁ロッドを取り出したレノを、研究員が血走った目で睨む。




「途中まで上手くいっていた…俺の精神操作は完璧だった！」




　先程までの冷静さはどこへ行ったのか。




　気が狂ったように叫ぶ研究員が突然不気味な笑みを浮かべた。







「そうだ。俺は間違ってない！お前さえいなければ、ヒロインは俺の完璧な作品になれたんだ！！――許さない…‥」




　深淵から絞りだしたような暗い声色に、不覚にもレノは寒気を感じた。




「死ね！！」




　研究員は気でも触れたのか、満面の笑みのまま、ブリザガを唱えた。





　すぐそこまで迫った無数の氷の矢。










（間に合わない――！）





　レノはヒロインを庇うように研究員に背を向けた。



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