旧拍手小説集
ヒロイン
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チョコレートは嫌い
バレンタインの日、カフェテリアのサービスで手作りチョコレートを貰った。でも私はチョコレートが嫌いで、どうせ食べないからと近くにいた男性になんの気なしにそのチョコレートを渡した。
「さっきもらったからあげる」
両手で抱えていたチョコレートの山のてっぺんに置いた私のチョコレートは高級そうな箱ばかりの中で浮いていたのは覚えている。相手は見なかった。
その数日後、一人カフェテリアでコーヒーを飲んでいた私の向かいに一人の男性が座った。訝しみながら顔を上げると、そこには満面の笑みを浮かべた男性が座っていた。赤毛、額のゴーグルでそれが誰なのかはすぐにわかった。タークスのレノ。
「この前はチョコレート、ありがとな」
レノにチョコレートをあげた記憶が一切ない私は、ただただ眉をひそめるしかなかった。
「あー…覚えてない?まぁ、素っ気なかったしなぁ」
そこまで言われて、あのバレンタインの日に誰にチョコレートを渡したのかわかった。よりにもよって遊び人と名高いこの男とは。相手を確かめなかったのを少しだけ後悔しつつも、その遊び人でチョコレートの山を抱えていたこの男が何故自分のところに来たのかがわからなかった。
「話しかける相手、間違ってません?」
「いや、合ってるぞ、と」
ますますわけがわからない。困惑していると、レノがにこりと笑った。
「オレ、カフェテリアで配ってるチョコ好きなんだぞ、と」
だからくれたお礼をしに来た、と言った。高級チョコレートがたくさんあったにも関わらず、その中から一番安いチョコレートが好きとは変わっている。
「あんたはチョコレート好きなのか?」
「嫌い。だからあげたの」
「へぇ、珍しいな」
「そっちこそ、高級チョコレート差し置いてカフェテリアのチョコレートが好きなんて変わってると思うけど」
レノが少し恥ずかしそうな顔をしながら頭を掻いた。
「なんつーか、懐かしい味っていうのか…母の味?」
『母の味』と言われ、もらったチョコレートをぞんざいに他人にあげた罪悪感でわずかに心がチクリと痛んだ。レノのお母さんは息子のためにチョコレートを手作りしていたのだろうか。
「素敵なお母さんね」
私としては素直な気持ちを口に出したつもりだが、レノは喜ぶのではなく、予想に反して非常に驚いたように目を丸くしていた。
「えっと…私、変なこと言った?」
「いや、この話して笑われなかったの初めてだからびっくりしたんだぞ、と」
これが私とレノの出会い。
それから一緒にいることが増えて、気づいたら自然と付き合うことになった。
今日は付き合ってから初めてのバレンタイン。カフェテリアでは今年も手作りチョコレートを配っている。
私は一つだけそれをもらった。仕事が終わったら、今年もこれをレノに渡そうと思う。ただ、今度はしっかりとレノの顔を見て。
Happy Valentine’s Day!
.
バレンタインの日、カフェテリアのサービスで手作りチョコレートを貰った。でも私はチョコレートが嫌いで、どうせ食べないからと近くにいた男性になんの気なしにそのチョコレートを渡した。
「さっきもらったからあげる」
両手で抱えていたチョコレートの山のてっぺんに置いた私のチョコレートは高級そうな箱ばかりの中で浮いていたのは覚えている。相手は見なかった。
その数日後、一人カフェテリアでコーヒーを飲んでいた私の向かいに一人の男性が座った。訝しみながら顔を上げると、そこには満面の笑みを浮かべた男性が座っていた。赤毛、額のゴーグルでそれが誰なのかはすぐにわかった。タークスのレノ。
「この前はチョコレート、ありがとな」
レノにチョコレートをあげた記憶が一切ない私は、ただただ眉をひそめるしかなかった。
「あー…覚えてない?まぁ、素っ気なかったしなぁ」
そこまで言われて、あのバレンタインの日に誰にチョコレートを渡したのかわかった。よりにもよって遊び人と名高いこの男とは。相手を確かめなかったのを少しだけ後悔しつつも、その遊び人でチョコレートの山を抱えていたこの男が何故自分のところに来たのかがわからなかった。
「話しかける相手、間違ってません?」
「いや、合ってるぞ、と」
ますますわけがわからない。困惑していると、レノがにこりと笑った。
「オレ、カフェテリアで配ってるチョコ好きなんだぞ、と」
だからくれたお礼をしに来た、と言った。高級チョコレートがたくさんあったにも関わらず、その中から一番安いチョコレートが好きとは変わっている。
「あんたはチョコレート好きなのか?」
「嫌い。だからあげたの」
「へぇ、珍しいな」
「そっちこそ、高級チョコレート差し置いてカフェテリアのチョコレートが好きなんて変わってると思うけど」
レノが少し恥ずかしそうな顔をしながら頭を掻いた。
「なんつーか、懐かしい味っていうのか…母の味?」
『母の味』と言われ、もらったチョコレートをぞんざいに他人にあげた罪悪感でわずかに心がチクリと痛んだ。レノのお母さんは息子のためにチョコレートを手作りしていたのだろうか。
「素敵なお母さんね」
私としては素直な気持ちを口に出したつもりだが、レノは喜ぶのではなく、予想に反して非常に驚いたように目を丸くしていた。
「えっと…私、変なこと言った?」
「いや、この話して笑われなかったの初めてだからびっくりしたんだぞ、と」
これが私とレノの出会い。
それから一緒にいることが増えて、気づいたら自然と付き合うことになった。
今日は付き合ってから初めてのバレンタイン。カフェテリアでは今年も手作りチョコレートを配っている。
私は一つだけそれをもらった。仕事が終わったら、今年もこれをレノに渡そうと思う。ただ、今度はしっかりとレノの顔を見て。
Happy Valentine’s Day!
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