旧拍手小説集
ヒロイン
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恋人期間中(恋人契約 - 終了後 -)
喧嘩の理由は覚えてない。
でも、破局の理由は覚えている。
「もう疲れた」
勢い余って口から出た言葉は関係を粉々に砕くには十分だった。
「わかった、別れよう」
レノはそう言って出て行った。
碌でもない噂は広がるのが早い。レノが「別れよう」と言った次の日には、私たちが別れたのは皆が知るところとなった。どうせ出て行った足で飲みに行って、酔っ払って吹聴したのだろう。
レノの周りにはすぐに女性だらけの人だかりができ、その中心で本人は満更でもない顔をしていた。別れてすぐにそんな顔できるなら、もう私のことなど綺麗さっぱり忘れたのだろう。その日は寂しさよりも、呆れが上回った。
今は寂しくなくても、いつか一人でいるふとした瞬間に寂しくなるかも――
そんな不安は頭の片隅にあったが、杞憂だった。
ことあるごとにハーレム状態を見せつけられ、私の苛立ちは頂点に達していた。
わざわざ私の方が普段の行動を変えていたのに、毎日必ずと行っていいほど私の行く先にレノがいる。一人ではなく、大勢の女性を引き連れて。時には過度なスキンシップを取るところを見せつけ、聞こえるように女性を褒める。次第に周りにいる女性も当てつけのような行動を取り始めていた。
「ねえ、レノ。そろそろ二人きりで飲みに行かない?」
「ちょっと、抜け駆けはなし!」
そう言った女性がレノに抱きつき、一瞬確かに私の方を見て勝ち誇ったように笑った。元カノと張り合っても意味がないのに。
何もかもがバカバカしくてうざったくて、この場で怒りを爆発させてレノも取り巻きも罵倒してやろうかと破滅的なことも考えたが、それを実行できるほど子供ではなく、残された自制心でその場は耐えた。
去り際、視界の端でレノがつまらなそうな顔をしていた。
「そろそろ寂しくなったかと思ったけど、平気そうだな」
その日の夜。行きつけのバーで一人飲んでいたところに、レノがやってきた。ちょうど空いていた隣のカウンター席に座り、いつものウィスキーを頼んでいる。
「取り巻きと飲みに行くんじゃなかったの?」
チクリと嫌味を言ってみても、レノは気に障った素振りも見せなかった。むしろ私の反撃を予期していたようだった。涼しい顔でストレートのウィスキーが入ったグラスを傾けている。
「あそこでキレてくれたら、話は簡単だったんだけどなぁ」
私が眉をひそめると、レノがこちらを向いてにやりと笑った。
「嫉妬した?」
「何に」
「オレが他の女構ってることに」
「…別に」
「ホント、素直じゃねえなぁ」
ここまでの会話でようやくレノがわざと私の先回りをしていたことに気づき、私は苦虫を噛み潰した。
「嫉妬させようとして当てつけみたいなことしてるレノが子供なんでしょ」
「かもなぁ。でも、ちょっとは効いただろ?」
ちょっとどころではない。爆発寸前までは追い込まれていた。何もかもレノに見透かされているようで、私は無言でそっぽを向いた。
「オトナなヒロインも嫌いじゃねぇけど、もっと外でも肩の力抜けよ」
そうだった。これが喧嘩の発端だ。
レノに相応しい彼女であるために、外ではそれらしい振る舞いをしていたのに、当の本人のレノはそんなことしなくていいと言った。私の努力が否定されたような気になって、言い合いの末、行き着いたのは破局。
「オレは家にいるときのゆる~いヒロインも魅力的だと思うぞ、と」
あぁ、ダメだ泣きそう。そんなに優しくされたら、ぷつりと糸が切れてしまう。
「ま、すぐには無理でも、少しずつ、な」
涙をこらえようと無理に顔に力を入れて、怒った顔をしている私を見てレノは笑った。
「ほら、帰ろうぜ」
私はレノが差し出してきた手を取った。話すと泣いてしまいそうだから、私は口をへの字にしたまま頷いた。
「悪かったな、嫌な思いさせて」
私もごめんなさい。いつか外でもありのままの自分でいられるようになりたい。
家に帰ったら、必ずレノに伝えよう。でも今だけは、あと少しだけオトナでいさせてよ。まだ格好悪いところはレノにしか見せたくないから。
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喧嘩の理由は覚えてない。
でも、破局の理由は覚えている。
「もう疲れた」
勢い余って口から出た言葉は関係を粉々に砕くには十分だった。
「わかった、別れよう」
レノはそう言って出て行った。
碌でもない噂は広がるのが早い。レノが「別れよう」と言った次の日には、私たちが別れたのは皆が知るところとなった。どうせ出て行った足で飲みに行って、酔っ払って吹聴したのだろう。
レノの周りにはすぐに女性だらけの人だかりができ、その中心で本人は満更でもない顔をしていた。別れてすぐにそんな顔できるなら、もう私のことなど綺麗さっぱり忘れたのだろう。その日は寂しさよりも、呆れが上回った。
今は寂しくなくても、いつか一人でいるふとした瞬間に寂しくなるかも――
そんな不安は頭の片隅にあったが、杞憂だった。
ことあるごとにハーレム状態を見せつけられ、私の苛立ちは頂点に達していた。
わざわざ私の方が普段の行動を変えていたのに、毎日必ずと行っていいほど私の行く先にレノがいる。一人ではなく、大勢の女性を引き連れて。時には過度なスキンシップを取るところを見せつけ、聞こえるように女性を褒める。次第に周りにいる女性も当てつけのような行動を取り始めていた。
「ねえ、レノ。そろそろ二人きりで飲みに行かない?」
「ちょっと、抜け駆けはなし!」
そう言った女性がレノに抱きつき、一瞬確かに私の方を見て勝ち誇ったように笑った。元カノと張り合っても意味がないのに。
何もかもがバカバカしくてうざったくて、この場で怒りを爆発させてレノも取り巻きも罵倒してやろうかと破滅的なことも考えたが、それを実行できるほど子供ではなく、残された自制心でその場は耐えた。
去り際、視界の端でレノがつまらなそうな顔をしていた。
「そろそろ寂しくなったかと思ったけど、平気そうだな」
その日の夜。行きつけのバーで一人飲んでいたところに、レノがやってきた。ちょうど空いていた隣のカウンター席に座り、いつものウィスキーを頼んでいる。
「取り巻きと飲みに行くんじゃなかったの?」
チクリと嫌味を言ってみても、レノは気に障った素振りも見せなかった。むしろ私の反撃を予期していたようだった。涼しい顔でストレートのウィスキーが入ったグラスを傾けている。
「あそこでキレてくれたら、話は簡単だったんだけどなぁ」
私が眉をひそめると、レノがこちらを向いてにやりと笑った。
「嫉妬した?」
「何に」
「オレが他の女構ってることに」
「…別に」
「ホント、素直じゃねえなぁ」
ここまでの会話でようやくレノがわざと私の先回りをしていたことに気づき、私は苦虫を噛み潰した。
「嫉妬させようとして当てつけみたいなことしてるレノが子供なんでしょ」
「かもなぁ。でも、ちょっとは効いただろ?」
ちょっとどころではない。爆発寸前までは追い込まれていた。何もかもレノに見透かされているようで、私は無言でそっぽを向いた。
「オトナなヒロインも嫌いじゃねぇけど、もっと外でも肩の力抜けよ」
そうだった。これが喧嘩の発端だ。
レノに相応しい彼女であるために、外ではそれらしい振る舞いをしていたのに、当の本人のレノはそんなことしなくていいと言った。私の努力が否定されたような気になって、言い合いの末、行き着いたのは破局。
「オレは家にいるときのゆる~いヒロインも魅力的だと思うぞ、と」
あぁ、ダメだ泣きそう。そんなに優しくされたら、ぷつりと糸が切れてしまう。
「ま、すぐには無理でも、少しずつ、な」
涙をこらえようと無理に顔に力を入れて、怒った顔をしている私を見てレノは笑った。
「ほら、帰ろうぜ」
私はレノが差し出してきた手を取った。話すと泣いてしまいそうだから、私は口をへの字にしたまま頷いた。
「悪かったな、嫌な思いさせて」
私もごめんなさい。いつか外でもありのままの自分でいられるようになりたい。
家に帰ったら、必ずレノに伝えよう。でも今だけは、あと少しだけオトナでいさせてよ。まだ格好悪いところはレノにしか見せたくないから。
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