理想と現実
ヒロイン
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現実は残酷で、夢であってほしいことが夢であったためしがない。
今回も例に漏れず、ヒロインは死んだ。
ホテルを出てツォンさんに連絡すると、怒鳴られることもなく、ただただ静かに状況を説明された。昨日の夜から今朝にかけて起きたことを。
昨日の夕方、ヒロインたちが会議をしていた会場がテロリストに占拠され、神羅カンパニーに身代金の要求がきた。が、当然会社は払う気などなく、しびれを切らしたテロリストがネットで人質を殺すところをライブ配信し始めた。一番初めの生贄に選ばれたのがヒロインだった。その後しばらくして軍が突入し、社員数名が犠牲にはなったものの、テロリストは殲滅できたようだ。
「この映像、しっかり見ておけ」
無感情な声で言ったツォンさんから送られてきたのは、モザイク無しの動画だった。ヒロインが殺される瞬間の。
「誰のせいでこうなったのか、よく考えろ」
そう言ってツォンさんは電話を切った。
オレは震える手で動画の再生ボタンを押した。
後ろ手に縛られたヒロインがテロリストに言われるがままカメラの前に跪いた。
俯いていた顔が無理矢理上げられ、はっきりとそのときの表情が映し出される。ヒロインは今までに見たことがないぐらい怯えていて、その顔は恐怖で凍りついていた。それでも自分を落ち着かせようと何度も短い呼吸を繰り返していたが、鈍く光るナイフが首元に当てられた途端、ヒロインが息を飲んだのがわかった。
金を払うなら今しかないぞ、とテロリストが言う。テロリストが要求を言う間、ヒロインの身体は小刻みに震えていた。
そして――
テロリストが首元に当てたナイフを引いたのに一瞬遅れ、ヒロインの首に赤い線が走った。その赤い線は段々と太くなり、首から下を真っ赤に染めた。
ヒロインの身体が傾いでカメラからフェードアウトし、そこで映像は終わった。
まだ現実のこととは思えなかった。ヒロインはジュノンに会議に行っただけで、明日には帰ってくるはずだった。帰ってきたらきっといつものように、『私がいない間、楽しかった?』と少し寂しそうな顔で聞いてきただろう。オレはそれに『別に何もない』と答えて終わるはずだったのに。
今回は、どんな話をしたらいい?教えてくれよ、ヒロイン――
事件の知らせを聞いた翌日――皮肉なことに、ヒロインが帰ってくる予定だったその日、ヒロインがミッドガルに帰ってきた。粗末な使い回しの遺体袋に入れられて。
遺体安置所はひんやりとしていて、そこに横たわるヒロインもただただ冷たかった。首にははっきりと1本の赤黒い線が残っていた。着ている服も血で赤黒くなっていて、ようやくあの映像が現実だったという実感がやってきた。
寂しい。
もう、会えない。話もできない。
ヒロインは一人きりで死んでしまった。オレが他所のどうでもいい女に現を抜かしていたせいで。
「ヒロイン…」
悪かった。と、口にはできなかった。
ヒロインは、きっとオレが助けに来るのを信じて待っていたはずだ。その信頼を裏切っておいて、ヒロインに届かない謝罪を口にして自分だけ楽になるのは許されない気がした。
ずっと抱えて行くしかない。それがどんなに重くても、苦しくても。
あの事件から数ヶ月が経った。
オレは今でもあのときの動画を見返している。自分の犯した愚かな罪を忘れないように。
なにより、ヒロインを忘れないように。
何もかもボロボロになっていつかオレが死んだとき、もしその先でまた会えたら、ヒロインは笑ってくれるだろうか?それとも、助けに行かなかったことを怒るだろうか。
「ヒロイン…会いたいぞ、と」
携帯の小さな画面の中で、ヒロインの身体が傾いだ。
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今回も例に漏れず、ヒロインは死んだ。
ホテルを出てツォンさんに連絡すると、怒鳴られることもなく、ただただ静かに状況を説明された。昨日の夜から今朝にかけて起きたことを。
昨日の夕方、ヒロインたちが会議をしていた会場がテロリストに占拠され、神羅カンパニーに身代金の要求がきた。が、当然会社は払う気などなく、しびれを切らしたテロリストがネットで人質を殺すところをライブ配信し始めた。一番初めの生贄に選ばれたのがヒロインだった。その後しばらくして軍が突入し、社員数名が犠牲にはなったものの、テロリストは殲滅できたようだ。
「この映像、しっかり見ておけ」
無感情な声で言ったツォンさんから送られてきたのは、モザイク無しの動画だった。ヒロインが殺される瞬間の。
「誰のせいでこうなったのか、よく考えろ」
そう言ってツォンさんは電話を切った。
オレは震える手で動画の再生ボタンを押した。
後ろ手に縛られたヒロインがテロリストに言われるがままカメラの前に跪いた。
俯いていた顔が無理矢理上げられ、はっきりとそのときの表情が映し出される。ヒロインは今までに見たことがないぐらい怯えていて、その顔は恐怖で凍りついていた。それでも自分を落ち着かせようと何度も短い呼吸を繰り返していたが、鈍く光るナイフが首元に当てられた途端、ヒロインが息を飲んだのがわかった。
金を払うなら今しかないぞ、とテロリストが言う。テロリストが要求を言う間、ヒロインの身体は小刻みに震えていた。
そして――
テロリストが首元に当てたナイフを引いたのに一瞬遅れ、ヒロインの首に赤い線が走った。その赤い線は段々と太くなり、首から下を真っ赤に染めた。
ヒロインの身体が傾いでカメラからフェードアウトし、そこで映像は終わった。
まだ現実のこととは思えなかった。ヒロインはジュノンに会議に行っただけで、明日には帰ってくるはずだった。帰ってきたらきっといつものように、『私がいない間、楽しかった?』と少し寂しそうな顔で聞いてきただろう。オレはそれに『別に何もない』と答えて終わるはずだったのに。
今回は、どんな話をしたらいい?教えてくれよ、ヒロイン――
事件の知らせを聞いた翌日――皮肉なことに、ヒロインが帰ってくる予定だったその日、ヒロインがミッドガルに帰ってきた。粗末な使い回しの遺体袋に入れられて。
遺体安置所はひんやりとしていて、そこに横たわるヒロインもただただ冷たかった。首にははっきりと1本の赤黒い線が残っていた。着ている服も血で赤黒くなっていて、ようやくあの映像が現実だったという実感がやってきた。
寂しい。
もう、会えない。話もできない。
ヒロインは一人きりで死んでしまった。オレが他所のどうでもいい女に現を抜かしていたせいで。
「ヒロイン…」
悪かった。と、口にはできなかった。
ヒロインは、きっとオレが助けに来るのを信じて待っていたはずだ。その信頼を裏切っておいて、ヒロインに届かない謝罪を口にして自分だけ楽になるのは許されない気がした。
ずっと抱えて行くしかない。それがどんなに重くても、苦しくても。
あの事件から数ヶ月が経った。
オレは今でもあのときの動画を見返している。自分の犯した愚かな罪を忘れないように。
なにより、ヒロインを忘れないように。
何もかもボロボロになっていつかオレが死んだとき、もしその先でまた会えたら、ヒロインは笑ってくれるだろうか?それとも、助けに行かなかったことを怒るだろうか。
「ヒロイン…会いたいぞ、と」
携帯の小さな画面の中で、ヒロインの身体が傾いだ。
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