悩める彼女に愛の手を 5
ヒロイン
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レノと結ばれてから1週間。ヒロインは一人自宅のキッチンで項垂れていた。
目の前には焦げ付いた鍋とその中の無惨にも炭と化した元は野菜だった何か。今ほど自分の不器用さを恨んだことはない。ヒロインは溜息とともに中身をゴミ箱に捨て、鍋に水を入れてシンクに置いた。
もう一度挑戦してみるかと、横に置いていた料理本に視線を落としたとき、ベッドに放り投げていた携帯が鳴った。
ディスプレイに名前が表示されていないのを確認し、ヒロインは小さく溜息をついて電話に出た。
「何か御用ですか、お兄様」
電話の相手はルーファウスだ。ヒロインとルーファウスが血縁関係にあることは、親しいものしか知らない。ルーファウスはヒロインを実の妹のように思い、知られたなら知られたときと考えているが、当然周囲はそうは考えていない。ヒロイン自身もルーファウスによからぬ噂が立つことは望んでいないし、何より自分が弱点となり、ルーファウスの足を引っ張ることだけは避けたかったので、できる限り二人の関係を隠そうとしていた。
『何をそんなに苛ついている』
「べ、別にイライラしてない――」
自然と視線はシンクの鍋に向かう。焦げたそれを見てヒロインは苛立ちを自覚し、溜息とともにそれを吐き出した。
「確かに、ちょーーーーっとイライラしてるかも」
『話してみろ』
ルーファウスに促され、ヒロインは数日前の自分の過ちを話し出した。
数日前、ヒロインは夜にレノと一緒にファストフード店でハンバーガーを食べていた。ハンバーガーを食べたいと言い出したのも、店を選んだのもヒロインだ。今思えば、初めてレノと食事に行ったときとは似ても似つかない店で、その差を考えると恥ずかしくて穴があったら入りたいレベルだが、それは今抱えている問題に比べればまだ軽い問題だ。ただ、その話をしたときに、電話越しでもルーファウスが呆れているのは大いに伝わってきた。
そして、問題が起きたのはお腹が満足してきた頃だった。
「そういや、ヒロインは料理とかするのか?」
「えっ…あー…たまに、その…少しだけど」
「なら、いつか作ってくれよ」
「あ、うん…もちろん、いつでも」
レノはこの歯切れの悪さを、いつものヒロインの人見知りと捉えたようだったが、実は違う。ヒロインは料理ができないのだ。正直にできないと言えばいいものを、それが恥ずかしくて言い出せず、より悪い結果に向かっていくのはとても彼女らしいのだが、今回に限って言えば、大きな失態だった。
今更『料理ができない』とはレノには言えない。しかし、挑戦してみても料理は全くできない。八方塞がりだった。
『本当にお前は…』
電話の向こうで、ルーファウスが頭を抱えているのは容易に想像できた。
『背伸びをするなと、前に言っただろう』
「でも、料理できないなんて…恥ずかしいし…」
再びスピーカーがルーファウスの溜息をヒロインに伝えてきた。
『見栄を張って、あとで恥をかくほうが恥ずかしいに決まっている』
これでもかというレベルの正論に、ヒロインは言葉に詰まった。ルーファウスには反論の言葉一言すら見つからず、レノには今更実は料理ができないと言う勇気もなく、ヒロインは暗い顔をして俯いた。
『…仕方ない。また手を貸してやろう』
突然差し伸べられた救いの手に、ヒロインは弾かれたように顔を上げた。もし今、目の前にルーファウスがいたならば、跪き、指を組んで感謝の祈りを捧げていたことだろう。
「本当に!?ありがとう!」
『その代わり、私の頼みも聞いてもらうぞ」
ルーファウスはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべていることだろう。どんな交換条件が提示されるか少し恐ろしいが、この際、背に腹は代えられない。ヒロインは腹を括り、了承した。
その電話の1時間後、インターホンが鳴った。いつもなら電話で車を停めている場所を連絡してくるのだが、何か特別な事情でもあるのだろうか。ヒロインは全く警戒せず、玄関の扉を開けた。
自分の不注意と危険を察知したときには既に遅く、腹部に鈍い痛みを感じたと同時に意識を失った。
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目の前には焦げ付いた鍋とその中の無惨にも炭と化した元は野菜だった何か。今ほど自分の不器用さを恨んだことはない。ヒロインは溜息とともに中身をゴミ箱に捨て、鍋に水を入れてシンクに置いた。
もう一度挑戦してみるかと、横に置いていた料理本に視線を落としたとき、ベッドに放り投げていた携帯が鳴った。
ディスプレイに名前が表示されていないのを確認し、ヒロインは小さく溜息をついて電話に出た。
「何か御用ですか、お兄様」
電話の相手はルーファウスだ。ヒロインとルーファウスが血縁関係にあることは、親しいものしか知らない。ルーファウスはヒロインを実の妹のように思い、知られたなら知られたときと考えているが、当然周囲はそうは考えていない。ヒロイン自身もルーファウスによからぬ噂が立つことは望んでいないし、何より自分が弱点となり、ルーファウスの足を引っ張ることだけは避けたかったので、できる限り二人の関係を隠そうとしていた。
『何をそんなに苛ついている』
「べ、別にイライラしてない――」
自然と視線はシンクの鍋に向かう。焦げたそれを見てヒロインは苛立ちを自覚し、溜息とともにそれを吐き出した。
「確かに、ちょーーーーっとイライラしてるかも」
『話してみろ』
ルーファウスに促され、ヒロインは数日前の自分の過ちを話し出した。
数日前、ヒロインは夜にレノと一緒にファストフード店でハンバーガーを食べていた。ハンバーガーを食べたいと言い出したのも、店を選んだのもヒロインだ。今思えば、初めてレノと食事に行ったときとは似ても似つかない店で、その差を考えると恥ずかしくて穴があったら入りたいレベルだが、それは今抱えている問題に比べればまだ軽い問題だ。ただ、その話をしたときに、電話越しでもルーファウスが呆れているのは大いに伝わってきた。
そして、問題が起きたのはお腹が満足してきた頃だった。
「そういや、ヒロインは料理とかするのか?」
「えっ…あー…たまに、その…少しだけど」
「なら、いつか作ってくれよ」
「あ、うん…もちろん、いつでも」
レノはこの歯切れの悪さを、いつものヒロインの人見知りと捉えたようだったが、実は違う。ヒロインは料理ができないのだ。正直にできないと言えばいいものを、それが恥ずかしくて言い出せず、より悪い結果に向かっていくのはとても彼女らしいのだが、今回に限って言えば、大きな失態だった。
今更『料理ができない』とはレノには言えない。しかし、挑戦してみても料理は全くできない。八方塞がりだった。
『本当にお前は…』
電話の向こうで、ルーファウスが頭を抱えているのは容易に想像できた。
『背伸びをするなと、前に言っただろう』
「でも、料理できないなんて…恥ずかしいし…」
再びスピーカーがルーファウスの溜息をヒロインに伝えてきた。
『見栄を張って、あとで恥をかくほうが恥ずかしいに決まっている』
これでもかというレベルの正論に、ヒロインは言葉に詰まった。ルーファウスには反論の言葉一言すら見つからず、レノには今更実は料理ができないと言う勇気もなく、ヒロインは暗い顔をして俯いた。
『…仕方ない。また手を貸してやろう』
突然差し伸べられた救いの手に、ヒロインは弾かれたように顔を上げた。もし今、目の前にルーファウスがいたならば、跪き、指を組んで感謝の祈りを捧げていたことだろう。
「本当に!?ありがとう!」
『その代わり、私の頼みも聞いてもらうぞ」
ルーファウスはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべていることだろう。どんな交換条件が提示されるか少し恐ろしいが、この際、背に腹は代えられない。ヒロインは腹を括り、了承した。
その電話の1時間後、インターホンが鳴った。いつもなら電話で車を停めている場所を連絡してくるのだが、何か特別な事情でもあるのだろうか。ヒロインは全く警戒せず、玄関の扉を開けた。
自分の不注意と危険を察知したときには既に遅く、腹部に鈍い痛みを感じたと同時に意識を失った。
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