立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花 8
ヒロイン
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「もしかして、他に好きな奴できたとか?例えば、警備部の――」
いつぞや仲良く話していた男を思い出し、レノは自分で言いながら苛立ちを感じ、顔をしかめた。
「はぁ!?何でそいつが出てくんの!?わっけわかんない」
ヒロインがあからさまに不機嫌そうな顔をした。
「あんまりしつこいから、この前『彼氏に言いつける』って言って、やっと言い寄られなくなったとこなの!」
それを聞いて、レノは目を丸くした。レノがヒロインを目で追っていたのはオフィスにいるときだけ。普段のヒロインはウータイの忍者のごとくレノを避け、隠れていたため、オフィス外のことは全く把握していなかった。今、元気に悪態をついているということは、何もなかったのだろうが、前の事件のことを思うと心配になる。
「そういうときはオレに言えよ。一人じゃ危ないかもしれねぇだろ」
「別に、いつものことだし…って、あの、彼氏がレノだとか、名前は出してないから!その、あれ!架空の、空想上の、嘘の彼氏だから!彼氏もいないから、大丈夫!」
しどろもどろになり、何を言っても墓穴を掘る結果にしかならないヒロインが面白く、レノは思わず吹き出した。そんなヒロインを見ていると、いつもの悪癖が疼き出す。思わず冗談でからかいたくなるが、今はそれよりも伝えたいことがあった。
「オレは別に彼氏でも構わないぞ、と」
なぜこんなにも苛立っているのか、ようやくレノの中で答えが出た。ヒロインのことが気になるのだ。まさに『意識している』状態だ。当のヒロインは、レノの発言が予想していないものだったせいか、完全にフリーズしてしまっていた。
「おーい、ヒロイン?」
名前を呼んでみると、ようやく思考が動きだしたのか、呆然としていたヒロインの顔が一気に赤くなった。
「はああああああ!?バカなの!?何言ってんの!?あ、頭おかしいんじゃないの!?だって、私、前にレノに口説かれたとき断ったし、それにレノにひどいこと言ったし、男の人と付き合ったことないし!!」
ヒロインが一息で言い放った。さらに言葉を吐き出そうと、その前にヒロインが一呼吸置いたタイミングで、レノはそっとヒロインの手を取った。
「ほら、落ち着けって。深呼吸しろ」
一緒に呼吸をしてみせると、肩で息をしていたヒロインも段々と落ち着いていく。それと同時に、ヒロインの表情がわずかに陰った。
「私、レノのこと好きなのか、まだよくわからないし…なのに彼氏なんて…」
そんな憂いた顔もまた美しく、何をしても絵になるな、などと思わずレノは考えた。
「てか、レノも別に私のこと好きじゃないでしょ!」
レノはきょとんとして目を瞬いた。そして、あの病室で『好きだ』と言ったことを思い出した。当時は恋愛感情としての『好き』ではなかったが、今は――
「好きの一歩手前ぐらい?」
「なにそれ。もしかして、キスした責任取るとか考えてる?」
疑り深く、慎重になっているヒロインがおかしく、レノは吹き出すのをこらえつつも、口元を緩ませた。いつもはあまり考えずに思ったことを口に出す癖に、こと恋愛に関しては奥手というか臆病というか。だから今まで彼氏がいなかったのだろうが、それもまた新たな発見だった。
「ま、それもきっかけっつーか…とにかく、他の男にヒロインを取られたくないんだぞ、と。それじゃダメか?」
またしてもヒロインの顔がぼっと赤くなった。
「なっ…な、なにそれ!!もう、どうしてそんなこと…もおおおおおおお!わかった!付き合うから!これ以上、恥ずかしいこと言うのやめて!!」
吸った息と同時に思っていることを一息に吐き出すと、ヒロインは踵を返して一目散に走り去っていった。
一方、残されたレノは、ヒロインを止めることすらできずに、その背中を見送った。
「付き合う、ってことでいいのか…?」
本格的に付き合い始めたなら、今の恥ずかしさなど序の口であることをヒロインは知ることだろう。そうなったとき、ヒロインがどんな反応を見せるかは楽しみであった。早くその時が来ないかと、レノは軽い足取りでオフィスに戻った。
まずはブランケットを返すときに、もう少し色気のあることを耳元で囁いてみようか。
レノはその時を想像してニヤリと笑った。
END?
2022/09/17
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いつぞや仲良く話していた男を思い出し、レノは自分で言いながら苛立ちを感じ、顔をしかめた。
「はぁ!?何でそいつが出てくんの!?わっけわかんない」
ヒロインがあからさまに不機嫌そうな顔をした。
「あんまりしつこいから、この前『彼氏に言いつける』って言って、やっと言い寄られなくなったとこなの!」
それを聞いて、レノは目を丸くした。レノがヒロインを目で追っていたのはオフィスにいるときだけ。普段のヒロインはウータイの忍者のごとくレノを避け、隠れていたため、オフィス外のことは全く把握していなかった。今、元気に悪態をついているということは、何もなかったのだろうが、前の事件のことを思うと心配になる。
「そういうときはオレに言えよ。一人じゃ危ないかもしれねぇだろ」
「別に、いつものことだし…って、あの、彼氏がレノだとか、名前は出してないから!その、あれ!架空の、空想上の、嘘の彼氏だから!彼氏もいないから、大丈夫!」
しどろもどろになり、何を言っても墓穴を掘る結果にしかならないヒロインが面白く、レノは思わず吹き出した。そんなヒロインを見ていると、いつもの悪癖が疼き出す。思わず冗談でからかいたくなるが、今はそれよりも伝えたいことがあった。
「オレは別に彼氏でも構わないぞ、と」
なぜこんなにも苛立っているのか、ようやくレノの中で答えが出た。ヒロインのことが気になるのだ。まさに『意識している』状態だ。当のヒロインは、レノの発言が予想していないものだったせいか、完全にフリーズしてしまっていた。
「おーい、ヒロイン?」
名前を呼んでみると、ようやく思考が動きだしたのか、呆然としていたヒロインの顔が一気に赤くなった。
「はああああああ!?バカなの!?何言ってんの!?あ、頭おかしいんじゃないの!?だって、私、前にレノに口説かれたとき断ったし、それにレノにひどいこと言ったし、男の人と付き合ったことないし!!」
ヒロインが一息で言い放った。さらに言葉を吐き出そうと、その前にヒロインが一呼吸置いたタイミングで、レノはそっとヒロインの手を取った。
「ほら、落ち着けって。深呼吸しろ」
一緒に呼吸をしてみせると、肩で息をしていたヒロインも段々と落ち着いていく。それと同時に、ヒロインの表情がわずかに陰った。
「私、レノのこと好きなのか、まだよくわからないし…なのに彼氏なんて…」
そんな憂いた顔もまた美しく、何をしても絵になるな、などと思わずレノは考えた。
「てか、レノも別に私のこと好きじゃないでしょ!」
レノはきょとんとして目を瞬いた。そして、あの病室で『好きだ』と言ったことを思い出した。当時は恋愛感情としての『好き』ではなかったが、今は――
「好きの一歩手前ぐらい?」
「なにそれ。もしかして、キスした責任取るとか考えてる?」
疑り深く、慎重になっているヒロインがおかしく、レノは吹き出すのをこらえつつも、口元を緩ませた。いつもはあまり考えずに思ったことを口に出す癖に、こと恋愛に関しては奥手というか臆病というか。だから今まで彼氏がいなかったのだろうが、それもまた新たな発見だった。
「ま、それもきっかけっつーか…とにかく、他の男にヒロインを取られたくないんだぞ、と。それじゃダメか?」
またしてもヒロインの顔がぼっと赤くなった。
「なっ…な、なにそれ!!もう、どうしてそんなこと…もおおおおおおお!わかった!付き合うから!これ以上、恥ずかしいこと言うのやめて!!」
吸った息と同時に思っていることを一息に吐き出すと、ヒロインは踵を返して一目散に走り去っていった。
一方、残されたレノは、ヒロインを止めることすらできずに、その背中を見送った。
「付き合う、ってことでいいのか…?」
本格的に付き合い始めたなら、今の恥ずかしさなど序の口であることをヒロインは知ることだろう。そうなったとき、ヒロインがどんな反応を見せるかは楽しみであった。早くその時が来ないかと、レノは軽い足取りでオフィスに戻った。
まずはブランケットを返すときに、もう少し色気のあることを耳元で囁いてみようか。
レノはその時を想像してニヤリと笑った。
END?
2022/09/17
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