悩める彼女に愛の手を 4
ヒロイン
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珍しく定時に仕事を終えたレノは、友人たちに誘われ、駅前の飲み屋に来ていた。友人たちの他愛も無い話を聞いて相槌を打ちながらも、意識の半分ぐらいは自分の携帯に向いていた。ヒロインからの連絡はまだない。前回も1週間以上悩んで連絡できなかったと言っていたから、今回もきっと時間がかかるのだろう。そんなヒロインの可愛らしさを思うと口元が自然と緩んだ。
「ニヤニヤ携帯ばっか見て、彼女でもできたか?」
酔っ払って真っ赤な顔をした友人の一人がレノの携帯を覗き込んできた。レノはさっと携帯を胸ポケットにしまい、友人を押し返した。
「近すぎだぞ、と」
「誤魔化すなよー。彼女だろ?」
「仕事」
レノはそっけなく言うと、グラスに残った最後の酒を喉に流し込んだ。
「ほら、お前らそろそろ出るぞ、と」
このままでは友人たちの介抱をさせられることになると思ったレノは、友人たちを追い立て店を出た。ヒロインなら喜んで介抱するが、男はごめんだ。友人たちが駅の改札をくぐるところまで見届けたレノは、駅前のタクシー乗り場に引き返した。
タクシー乗り場は週末でもないのに、やや行列ができていた。駅前のロータリーにはタクシーが数台停まっているからすぐに自分の順番は回ってくるだろうが、できることなら行列には並びたくなかった。
どうしたものかと辺りを見回すと、タクシー乗り場から少し離れた街灯の近くに見知った女性が立っていた。その女性――ヒロインは、携帯を険しい表情で見ていたかと思えば、頭を抱え始める。コロコロ変わる表情を見て笑っていると、携帯がメールの着信を知らせてきた。ヒロインの行動に合点がいき、レノの頬が緩んだ。
が、それも一瞬だけ。ヒロインから離れてはいたが、一人の男性がじっとヒロインを見ていることに気づいたレノは、急ぎ足でヒロインに近づくと男の視線を遮るように立ち、ヒロインには不意打ちで悪いと思ったが、親しく見えるようにその肩を抱いた。
「よ、待たせて悪かったな」
「レ…レノさ――」
レノは男から見えないように、口の前で人差し指を立ててみせた。そして、目を白黒させて今にも倒れそうなヒロインに小声で言った。
「オレの後ろの方にいる男、ずっとヒロインのこと見てたぞ、と。知り合いか?――っと、見るときはさりげなーく、な」
ヒロインが何度か頷いたのを確認し、レノは少しだけ身体の位置を変えた。
「あ…さっきまで一緒に仕事してた、同僚の人…一人で帰れるって言ったのに…」
「同僚、ねぇ」
あの男は同僚としてではなく、女としてヒロインのことを見ていた。嫌なものを感じ取っていたレノは、男を牽制するようにヒロインの顔に自分の顔を近づけた。ヒロインがこの場で卒倒しないことを願いつつ。すぐ近くにあったヒロインの喉が大きく上下した。
「悪ぃけど、すこーしだけこのままな」
傍目から見えれば、キスをしているように見えるだろう。たっぷり時間を掛けてから、レノはヒロインから離れて背後を確認した。元の場所に男の姿はなく、どうやら諦めて帰っていったようだった。
そして、ヒロインの方を見ると、身体を強張らせ、その瞳と同じぐらい真っ赤な顔をしていた。倒れていないのが不思議なぐらいだった。
「頑張ったな」
抱いていた肩を離すと、ヒロインはその場で立ち尽くしていた。そのふっくらとした唇がわずかに動く。何かを言おうとしているのかとそれを見守っていると、突然糸の切れた操り人形のようにヒロインが膝から崩れ落ちた。危うく地面にぶつかる寸前、レノはさっとヒロインの腰を抱き、ヒロインの身体を支えた。
予期していてよかったと思う反面、またしても自分のせいでヒロインが気絶したことに、レノは溜息をついた。
さてどうしたものかとレノが悩んでいると、タイミングよく黒塗りの車が目の前に停まった。様子を伺っていると、運転席から一人の女性が降りてきた。短い髪の似合う凛々しい女性だった。しかし、ただの女性ではないようだった。身のこなし、立ち方一つとっても、しかるべき訓練を受けていることは明らかだった。レノはヒロインを守るように、わずかに身体の位置を変えた。
「彼女を離してもらえるか?」
「あんたは?」
「お前に名乗る必要はない」
むっとしたレノだったが、ここで言い争いをするのは得策ではないと判断し、先に折れることにした。
「オレはタークスのレノ。あんた、社長の関係者か?」
「タークスの…私は彼女を迎えに来た。とにかく乗れ。送る」
彼女は端的に言うと、後部座席の扉を開いた。レノは大人しくそれに従った。二人が乗り込むと、車は静かに走り出した。
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「ニヤニヤ携帯ばっか見て、彼女でもできたか?」
酔っ払って真っ赤な顔をした友人の一人がレノの携帯を覗き込んできた。レノはさっと携帯を胸ポケットにしまい、友人を押し返した。
「近すぎだぞ、と」
「誤魔化すなよー。彼女だろ?」
「仕事」
レノはそっけなく言うと、グラスに残った最後の酒を喉に流し込んだ。
「ほら、お前らそろそろ出るぞ、と」
このままでは友人たちの介抱をさせられることになると思ったレノは、友人たちを追い立て店を出た。ヒロインなら喜んで介抱するが、男はごめんだ。友人たちが駅の改札をくぐるところまで見届けたレノは、駅前のタクシー乗り場に引き返した。
タクシー乗り場は週末でもないのに、やや行列ができていた。駅前のロータリーにはタクシーが数台停まっているからすぐに自分の順番は回ってくるだろうが、できることなら行列には並びたくなかった。
どうしたものかと辺りを見回すと、タクシー乗り場から少し離れた街灯の近くに見知った女性が立っていた。その女性――ヒロインは、携帯を険しい表情で見ていたかと思えば、頭を抱え始める。コロコロ変わる表情を見て笑っていると、携帯がメールの着信を知らせてきた。ヒロインの行動に合点がいき、レノの頬が緩んだ。
が、それも一瞬だけ。ヒロインから離れてはいたが、一人の男性がじっとヒロインを見ていることに気づいたレノは、急ぎ足でヒロインに近づくと男の視線を遮るように立ち、ヒロインには不意打ちで悪いと思ったが、親しく見えるようにその肩を抱いた。
「よ、待たせて悪かったな」
「レ…レノさ――」
レノは男から見えないように、口の前で人差し指を立ててみせた。そして、目を白黒させて今にも倒れそうなヒロインに小声で言った。
「オレの後ろの方にいる男、ずっとヒロインのこと見てたぞ、と。知り合いか?――っと、見るときはさりげなーく、な」
ヒロインが何度か頷いたのを確認し、レノは少しだけ身体の位置を変えた。
「あ…さっきまで一緒に仕事してた、同僚の人…一人で帰れるって言ったのに…」
「同僚、ねぇ」
あの男は同僚としてではなく、女としてヒロインのことを見ていた。嫌なものを感じ取っていたレノは、男を牽制するようにヒロインの顔に自分の顔を近づけた。ヒロインがこの場で卒倒しないことを願いつつ。すぐ近くにあったヒロインの喉が大きく上下した。
「悪ぃけど、すこーしだけこのままな」
傍目から見えれば、キスをしているように見えるだろう。たっぷり時間を掛けてから、レノはヒロインから離れて背後を確認した。元の場所に男の姿はなく、どうやら諦めて帰っていったようだった。
そして、ヒロインの方を見ると、身体を強張らせ、その瞳と同じぐらい真っ赤な顔をしていた。倒れていないのが不思議なぐらいだった。
「頑張ったな」
抱いていた肩を離すと、ヒロインはその場で立ち尽くしていた。そのふっくらとした唇がわずかに動く。何かを言おうとしているのかとそれを見守っていると、突然糸の切れた操り人形のようにヒロインが膝から崩れ落ちた。危うく地面にぶつかる寸前、レノはさっとヒロインの腰を抱き、ヒロインの身体を支えた。
予期していてよかったと思う反面、またしても自分のせいでヒロインが気絶したことに、レノは溜息をついた。
さてどうしたものかとレノが悩んでいると、タイミングよく黒塗りの車が目の前に停まった。様子を伺っていると、運転席から一人の女性が降りてきた。短い髪の似合う凛々しい女性だった。しかし、ただの女性ではないようだった。身のこなし、立ち方一つとっても、しかるべき訓練を受けていることは明らかだった。レノはヒロインを守るように、わずかに身体の位置を変えた。
「彼女を離してもらえるか?」
「あんたは?」
「お前に名乗る必要はない」
むっとしたレノだったが、ここで言い争いをするのは得策ではないと判断し、先に折れることにした。
「オレはタークスのレノ。あんた、社長の関係者か?」
「タークスの…私は彼女を迎えに来た。とにかく乗れ。送る」
彼女は端的に言うと、後部座席の扉を開いた。レノは大人しくそれに従った。二人が乗り込むと、車は静かに走り出した。
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