「これ以上ないぐらいに醜態を晒しているな」

　電話越しにルーファウスの笑い声が聞こえてきた。
　他人事だと思って、とヒロインは怒りを覚えたが、ルーファウスの言っていることは正しい。男へのハイキック、怪我をして介抱される、話していて気絶する、飲みすぎて介抱される――これ以上となると、最早数えるぐらいしかないだろう。レノに会うたびに失態を重ねるヒロインの気分はどん底だった。

「いい加減、自分がダメでどうしようもないことを認めろ。背伸びするから、毎回失敗するんだ」

「ひどい…」

　いくら異母兄妹とはいえ、あまりに遠慮がなさすぎる。

「私とツォンには普通に接しているだろう。レノとも同じようにしろ」

「でも…」

　気になる人に対しては、多少は背伸びしたくなるものではないか。
　そう言うと、ルーファウスが大きく嘆息した。

「今更伸ばす背もないだろう。いいか？まずは話して慣れろ。私とツォンともそうしてきただろう」

　ルーファウスの指摘は辛辣だが、的を射ている。

「…そうします」

　ヒロインは憂鬱な溜息をつきながら、電話を切った。

「まずは話をする…」

　前回の反省を活かし、ヒロインは即レノに連絡しようと決めた。そうしないと、前回のように1週間悩んだ挙げ句、ルーファウスの介入を許すことになってしまう。
　携帯にレノの番号は表示した。あとは通話ボタンを押すだけ――

「あああああ！！無理！！」

　ヒロインはベッドに飛び込んだ。そして、携帯を放り投げようとして、思いとどまる。このままではこの前と一緒だ。起き上がったヒロインはベッドに腰掛けると、メールアプリを起動した。
　直接離すのは無理だ、しかし、メールならば。

　1時間文面を悩み、ようやく納得のいく文章になった。
　ヒロインは一つ深呼吸した後、送信ボタンを押した。これで後には引けない。

「やった…！送れた…！」

　自分を褒めてやりたい気分だ。朝のうちに一仕事終えたヒロインは、そのままベッドに横になろうとして気づく。

「仕事行かなきゃ！」

　うっかり仕事に行くのを忘れそうになったが、慌てて鞄を掴んで家を飛び出した。



　職場についていつものように事務作業をしていたヒロインは、なぜかそわそわすることに気づいた。そう、メールの返事が来るか気になるのだ。しかし、普段から仕事が遅いヒロインに、仕事中、携帯をチェックする余裕はない。不安と期待に揺れる心をなんとか鎮めながら、ヒロインは今日の分の仕事をこなした。
　本日最後の仕事、発注書のメール送信を終え、ヒロインはようやくほっと息をついた。どうにか定時に仕事を終えることができた。鞄を手に取り、帰ろうと腰を上げようとしたとき、男性の同僚がこちらにやってきた。

「ヒロインさん、ちょっと悪いんだけど、明日のプレゼン資料のチェック手伝ってくれませんか？」

「はい、私でよければ…」

　ヒロインは気付かれないように小さく溜息をつくと、もう一度パソコンの電源を入れた。



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