立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花 7
ヒロイン
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「ヒロイン、本当に今日のことは――」
「気にしてない!外でそのことは言わないで!!」
玄関の敷居を跨ごうともしないレノの手を強く引くと、レノがつんのめるように足を一歩前に出した。ヒロインはレノの身体越しにドアノブを掴み、強引にドアを閉めた。
「デリカシーなさすぎ!初めてだったってこと、絶対に誰にも言わないで!」
ヒロインはレノを見上げて思い切り睨みつけた。
「いや、言うつもりなんてないぞ、と」
少し驚いたようなレノを見て、ヒロインはようやく冷静に頭を働かせることができるようになっていた。もしこのことを吹聴したなら、レノは無理矢理女性のファーストキスを奪った卑劣な男になってしまう。自分の評判を落としてまで、言いふらすようなことはしないだろう。
「…ならいい」
「オレが言うのもどうかと思うけど、別に経験ないのは恥ずかしいことじゃないだろ」
どうしてこの男は人のコンプレックスを刺激するようなことを言うのか。再びヒロインの顔が羞恥で赤くなる。
「私にとっては恥ずかしいことなの!いい年してキスもセックスも経験ないとか、格好悪いじゃない!」
「格好の問題じゃないだろ」
少し呆れたようなレノの表情が余計に心に刺さる。経験者の風格を見せつけられているようで、逆にヒロインからはどんどん余裕が失われていく。
「男で経験豊富で相手に困ったことないレノにはわかんないでしょ!?この歳で初めての彼氏ができたとして、そのときに処女だってわかったら、絶対ドン引きされるに決まってる!!」
「いや、オレは逆にうれしいぞ、と」
「はぁ!?」
思いもよらないレノの言葉にヒロインの声が裏返る。そして、『うれしい』という言葉だけが何度も頭の中で繰り返された。レノの話はヒロイン個人に宛てたものではないのだが、あの病院でのことのように、なぜだか気恥ずかしくなってしまう。ほんの僅かに残った冷静な自分が、何を意識しているのかと呆れたように言う。これで動揺することこそ、経験がない証ではないか。
ヒロインは唇を噛み、拳をきつく握って俯いた。何もかもが恥ずかしく、そしてぐらぐら不安定に揺れる自分の心が煩わしい。その原因であるレノも。
「…いい加減なこと言って、振り回さないでよ!」
「いい加減って…」
「私が勝手に勘違いして意識して、空回りしてることぐらいわかってるの!経験ないからレノの言葉真に受けてドキドキしてるの、本当にバカみたいって思ってるでしょ!?ちゃんとわかってるから!だからレノも変なこと言わないで!ケーキありがと!」
そう一気にまくし立て、ヒロインはレノから紙袋を奪い取った。そして、先程とは逆に自らドアを開け、ヒロインの精一杯の力でレノの胸を押した。レノは呆然とした様子で抵抗することもなく、そのまま後ずさり、完全に外に出たのを確認して、ヒロインは勢いよくドアを閉めた。
「何で余計なことまで言ってるの…バカじゃないの…」
さらに恥の上塗りをしてしまい、ヒロインは再び頭を抱えてその場に突っ伏した。『気にしてない』とは程遠い対応に思わず叫びだしそうになったが、まだ近くにレノがいる可能性を考えて、何とか声だけは我慢した。
ますます明日が憂鬱になり、ヒロインは今すぐ体調が悪くならないかと、バカなことを考え始めるのだった。
一方レノは、押し出されたヒロインの部屋の扉の前に立ち尽くしていた。反論する余地すらなく、一方的に言い放たれたのは全く想定していなかったことばかりで、レノは混乱の只中にいた。
意識していた?ドキドキしてる?
「マジか」
レノはまたもや頭を抱える羽目になった。何もかも自業自得なのだが。
イリーナやヒロインに言われたことをふまえると、ヒロインが久しぶりに出社したあの日、自分が如何にデリカシーのないことを言ってしまったのか、ようやく理解できた。
もう一つ謝らなければならないことが増えてしまい、今すぐにでもヒロインに謝りたかったが、目の前のドアはしっかりと閉められており、レノを阻んでいた。さすがに女性の家に無理矢理押し入るわけも行かず、レノはその場を後にした。
「明日からどんな顔したらいいんだよ…」
レノはちらりとヒロインの部屋の方を振り返り、大きな溜息をついた。
To be continued...?
2022/07/03
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「気にしてない!外でそのことは言わないで!!」
玄関の敷居を跨ごうともしないレノの手を強く引くと、レノがつんのめるように足を一歩前に出した。ヒロインはレノの身体越しにドアノブを掴み、強引にドアを閉めた。
「デリカシーなさすぎ!初めてだったってこと、絶対に誰にも言わないで!」
ヒロインはレノを見上げて思い切り睨みつけた。
「いや、言うつもりなんてないぞ、と」
少し驚いたようなレノを見て、ヒロインはようやく冷静に頭を働かせることができるようになっていた。もしこのことを吹聴したなら、レノは無理矢理女性のファーストキスを奪った卑劣な男になってしまう。自分の評判を落としてまで、言いふらすようなことはしないだろう。
「…ならいい」
「オレが言うのもどうかと思うけど、別に経験ないのは恥ずかしいことじゃないだろ」
どうしてこの男は人のコンプレックスを刺激するようなことを言うのか。再びヒロインの顔が羞恥で赤くなる。
「私にとっては恥ずかしいことなの!いい年してキスもセックスも経験ないとか、格好悪いじゃない!」
「格好の問題じゃないだろ」
少し呆れたようなレノの表情が余計に心に刺さる。経験者の風格を見せつけられているようで、逆にヒロインからはどんどん余裕が失われていく。
「男で経験豊富で相手に困ったことないレノにはわかんないでしょ!?この歳で初めての彼氏ができたとして、そのときに処女だってわかったら、絶対ドン引きされるに決まってる!!」
「いや、オレは逆にうれしいぞ、と」
「はぁ!?」
思いもよらないレノの言葉にヒロインの声が裏返る。そして、『うれしい』という言葉だけが何度も頭の中で繰り返された。レノの話はヒロイン個人に宛てたものではないのだが、あの病院でのことのように、なぜだか気恥ずかしくなってしまう。ほんの僅かに残った冷静な自分が、何を意識しているのかと呆れたように言う。これで動揺することこそ、経験がない証ではないか。
ヒロインは唇を噛み、拳をきつく握って俯いた。何もかもが恥ずかしく、そしてぐらぐら不安定に揺れる自分の心が煩わしい。その原因であるレノも。
「…いい加減なこと言って、振り回さないでよ!」
「いい加減って…」
「私が勝手に勘違いして意識して、空回りしてることぐらいわかってるの!経験ないからレノの言葉真に受けてドキドキしてるの、本当にバカみたいって思ってるでしょ!?ちゃんとわかってるから!だからレノも変なこと言わないで!ケーキありがと!」
そう一気にまくし立て、ヒロインはレノから紙袋を奪い取った。そして、先程とは逆に自らドアを開け、ヒロインの精一杯の力でレノの胸を押した。レノは呆然とした様子で抵抗することもなく、そのまま後ずさり、完全に外に出たのを確認して、ヒロインは勢いよくドアを閉めた。
「何で余計なことまで言ってるの…バカじゃないの…」
さらに恥の上塗りをしてしまい、ヒロインは再び頭を抱えてその場に突っ伏した。『気にしてない』とは程遠い対応に思わず叫びだしそうになったが、まだ近くにレノがいる可能性を考えて、何とか声だけは我慢した。
ますます明日が憂鬱になり、ヒロインは今すぐ体調が悪くならないかと、バカなことを考え始めるのだった。
一方レノは、押し出されたヒロインの部屋の扉の前に立ち尽くしていた。反論する余地すらなく、一方的に言い放たれたのは全く想定していなかったことばかりで、レノは混乱の只中にいた。
意識していた?ドキドキしてる?
「マジか」
レノはまたもや頭を抱える羽目になった。何もかも自業自得なのだが。
イリーナやヒロインに言われたことをふまえると、ヒロインが久しぶりに出社したあの日、自分が如何にデリカシーのないことを言ってしまったのか、ようやく理解できた。
もう一つ謝らなければならないことが増えてしまい、今すぐにでもヒロインに謝りたかったが、目の前のドアはしっかりと閉められており、レノを阻んでいた。さすがに女性の家に無理矢理押し入るわけも行かず、レノはその場を後にした。
「明日からどんな顔したらいいんだよ…」
レノはちらりとヒロインの部屋の方を振り返り、大きな溜息をついた。
To be continued...?
2022/07/03
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