立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花 6
ヒロイン
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「おまたせ」
レノより数分遅れて店外に出てきたヒロインの持つ紙袋は、レノの持っているものより大きめだった。その視線に気づいたのか、少しヒロインが頬を赤くした。
「その…他にも美味しそうなお菓子あったから、つい…あの、待たせてごめん」
「別に文句を言おうとしたわけじゃないぞ、と」
ヒロインの機嫌を伺うような態度がどうにもこうにも鼻につく。今まではこちらのことなどお構いなしに言葉をぶつけてきたくせに。昨日吐き出したはずのどす黒い感情が再び胸の内に生じるのをレノは感じた。ヒロインといると、苛立ちばかりが募っていく。全部吐き出してしまえば気分はすっきりすることだろう。しかし、外でそれを自制しようと思えるぐらいにはまだ冷静だった。
「さっさと帰ろうぜ」
レノはヒロインから視線を逸し、神羅ビルに向かって歩き出した。これ以上、ヒロインの辛気臭い顔を見ていると余計なことを言いそうだった。
「あの、ちょっと待って」
そんなレノの心の内などお構いなしにヒロインに呼び止められ、レノは小さく舌打ちをした。
「何だよ、戻ってからでいいだろ?」
歩みを止めず、振り返ることもなく突き放して見せれば諦めるかと思ったが、ヒロインは追いすがってきた。大股で歩くレノを追い越そうと、高いヒールにも関わらず走ってきたヒロインが目の前に立ちふさがった。
「戻ってからじゃダメなの。今、言わせて」
先程よりはおどおどした様子は鳴りを潜めたが、まだその目には迷いが浮かんでいる。レノは顔をしかめつつも、ヒロインが続きを話すのを待った。
「この前の退院祝い、うれしかった。あと、失礼なこと言ってごめんなさい!」
勢いよく頭を下げたヒロインと頭を下げられたレノ。事情を知らない者からすれば、公衆の場で女に謝らせているレノが悪者に見えることだろう。さすがにきまり悪くなる。
「わかったから、こんなところでやめろよ」
「でも、どうしても謝らなきゃって――」
いつになく真摯な態度を見せるヒロインを見て、レノの加虐心がむくむくと頭をもたげた。いつもきついことを言われているお返しだ。レノはにやりと笑った。
「じゃあ、その詫びってことで」
レノは一歩前に踏み出すと、ヒロインの腰に手を回して抱き寄せた。その瞬間、ヒロインの目が大きく見開かれたが、レノは構わずその唇を奪った。ヒロインの唇は柔らかかった。できることならその薄く開いた唇の中も犯してしまいたかったが、さすがに場所が場所だけに唇に触れるだけに留めた。
どさり、と何かが地面に落ちた音がした。
「…何で」
キスの後のヒロインの第一声は震えていた。しかしレノは、そのヒロインの声音より、細い指で自分が触れた唇をなぞっている色気のあるヒロインの姿の方に関心を寄せていた。
「どうして、こんな――」
「あ?別にいいだろ、キスぐらい」
何を狼狽えているのかと、レノは眉をひそめた。
「初めて、だったのに…」
しゃくり上げたヒロインの目から大粒の涙がぽろぽろと溢れた。周囲がざわつき始め、これにはさすがのレノもたじろいだ。
「お、おい…何も泣くこと――」
宥めようとしたレノの言葉を聞くことなく、ヒロインは足元に落とした紙袋を放置して早足で去っていった。
レノは呆然とその後姿を見送った。
To be continued...?
2022/06/06
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レノより数分遅れて店外に出てきたヒロインの持つ紙袋は、レノの持っているものより大きめだった。その視線に気づいたのか、少しヒロインが頬を赤くした。
「その…他にも美味しそうなお菓子あったから、つい…あの、待たせてごめん」
「別に文句を言おうとしたわけじゃないぞ、と」
ヒロインの機嫌を伺うような態度がどうにもこうにも鼻につく。今まではこちらのことなどお構いなしに言葉をぶつけてきたくせに。昨日吐き出したはずのどす黒い感情が再び胸の内に生じるのをレノは感じた。ヒロインといると、苛立ちばかりが募っていく。全部吐き出してしまえば気分はすっきりすることだろう。しかし、外でそれを自制しようと思えるぐらいにはまだ冷静だった。
「さっさと帰ろうぜ」
レノはヒロインから視線を逸し、神羅ビルに向かって歩き出した。これ以上、ヒロインの辛気臭い顔を見ていると余計なことを言いそうだった。
「あの、ちょっと待って」
そんなレノの心の内などお構いなしにヒロインに呼び止められ、レノは小さく舌打ちをした。
「何だよ、戻ってからでいいだろ?」
歩みを止めず、振り返ることもなく突き放して見せれば諦めるかと思ったが、ヒロインは追いすがってきた。大股で歩くレノを追い越そうと、高いヒールにも関わらず走ってきたヒロインが目の前に立ちふさがった。
「戻ってからじゃダメなの。今、言わせて」
先程よりはおどおどした様子は鳴りを潜めたが、まだその目には迷いが浮かんでいる。レノは顔をしかめつつも、ヒロインが続きを話すのを待った。
「この前の退院祝い、うれしかった。あと、失礼なこと言ってごめんなさい!」
勢いよく頭を下げたヒロインと頭を下げられたレノ。事情を知らない者からすれば、公衆の場で女に謝らせているレノが悪者に見えることだろう。さすがにきまり悪くなる。
「わかったから、こんなところでやめろよ」
「でも、どうしても謝らなきゃって――」
いつになく真摯な態度を見せるヒロインを見て、レノの加虐心がむくむくと頭をもたげた。いつもきついことを言われているお返しだ。レノはにやりと笑った。
「じゃあ、その詫びってことで」
レノは一歩前に踏み出すと、ヒロインの腰に手を回して抱き寄せた。その瞬間、ヒロインの目が大きく見開かれたが、レノは構わずその唇を奪った。ヒロインの唇は柔らかかった。できることならその薄く開いた唇の中も犯してしまいたかったが、さすがに場所が場所だけに唇に触れるだけに留めた。
どさり、と何かが地面に落ちた音がした。
「…何で」
キスの後のヒロインの第一声は震えていた。しかしレノは、そのヒロインの声音より、細い指で自分が触れた唇をなぞっている色気のあるヒロインの姿の方に関心を寄せていた。
「どうして、こんな――」
「あ?別にいいだろ、キスぐらい」
何を狼狽えているのかと、レノは眉をひそめた。
「初めて、だったのに…」
しゃくり上げたヒロインの目から大粒の涙がぽろぽろと溢れた。周囲がざわつき始め、これにはさすがのレノもたじろいだ。
「お、おい…何も泣くこと――」
宥めようとしたレノの言葉を聞くことなく、ヒロインは足元に落とした紙袋を放置して早足で去っていった。
レノは呆然とその後姿を見送った。
To be continued...?
2022/06/06
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