立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花 6
ヒロイン
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『軽薄な男』。
そう言われて、ただただ腹が立った。
言われたタイミングも最悪だった。ヒロインのために買ってきたケーキがまだ残っていたなら、迷うことなくゴミ箱に叩き込んでいただろう。知り合いに頼んでまでヒロインを喜ばせようとした結果がこれだ。何もかもバカバカしくなって、その日レノはヒロインが評した通りの『軽薄な男』らしい夜を過ごした。
それからしばらくは平和な日々が続いた。レノからヒロインに話しかける用事もなく、ヒロインから話しかけてくることもなかった。毎月恒例となっている書類提出の催促も、今月に限ってはチャットで来たため、あの日から一言も話すことなく、早くも一月が経とうとしていた。
「ヒロインに言われなくても期限を守るようになったな」
そう言ったツォンはいつもより少し機嫌が良さそうだった。わざわざチャットで催促されたことを言って自分の評価を下げることもないと思い、レノは黙っていた。
どうやら誰もレノとヒロインの間に何かあったことは気づいていないようだ。と思っていたが、付き合いの長い相棒ルードだけは違っていた。
「ヒロインと何かあったな。どうせ怒らせたんだろう?」
久しぶりに二人で外の任務になったとき、移動中の車内でルードが話しかけてきた。普段は無口なくせに、どうしてそういうことだけしっかりは聞いてくるのか。しかも、ルードはレノが悪いと思っている。
「別に。何もねーよ」
レノは少し不機嫌になり、ルードの方ではなく窓の方を向いて言った。
「謝ったのか?」
「何でオレが謝んだよ」
謝罪すべきはヒロインの方だ。あの日あのタイミングで、あんな暴言を吐いてきたヒロインが悪い。レノはあの日のことを思い出し、更に眉間の皺を深めた。
「着いたら起こしてくれ」
レノは車のシートを倒すと、腕を頭の後ろに回して目を閉じた。
一方ヒロインは、あの日からレノに謝る機会を窺っていた。しかし、なかなかオフィスで二人になる機会がなく、ただ気まずい日々だけが過ぎていった。
機会がないならメールかチャットで。対面だとまた余計なことを言いそうだったのでいい思いつきに思えたが、言い訳がましい長文が出来上がってしまったことでその案は却下となった。対面で話せば言葉がきつくなり、メールやチャットになると自己弁護と言い訳ばかりで、本当に言いたいことが伝わらなくなる。ただシンプルに「ごめん」と謝ればいいだけなのに、それができない自分に嫌気が差し、ヒロインは誰もいないオフィスで溜息をついた。
謝れないまま迎えた月末恒例のレノへの書類提出催促のチャットはシンプルな文面になり、それがますますヒロインを落ち込ませた。
そこから更に数週間経ったが一向にレノと話す機会は訪れなかった。しかもレノはしばらくルードと外勤のようだ。ますます謝る機会が遠のき、ヒロインの胃に重たいものが落ちてくる。ヒロインは胃の辺りをぎゅっと手で抑えた。
「ヒロイン」
「は、はいっ!」
どうしようかと悩んでいるところに突然ツォンから声を掛けられ、ヒロインは思わず飛び上がった。振り返るとツォンが目を大きく見開いて固まっていたため、ヒロインは小さな声で謝った。
「あー…悪いが明日から警備部の事務処理サポートに行ってもらえないか?書類提出が滞っているらしくてな」
警備部は神羅ビルやミッドガルの警備をしている社員が所属している部署だ。一つ上のフロアにあり、ヒロインは全く関わりのない部署ではあったが、事務担当のストレス度が高い部署だという噂だけは聞いていた。ただでさえ痛い胃が更に悪くなりそうな予感にヒロインは小さく溜息をついた。
「わかりました」
レノと顔を合わせるのとどちらが胃に悪いだろうか。ヒロインはその日、憂鬱な気分で会社を出た。
翌日、警備部に顔を出すと、朝の交代時間だったのかオフィスには警備部所属の神羅兵が大勢詰めていた。オフィスというよりは休憩室と呼ぶのが相応しいかもしれない。テーブルセットが所狭しと置かれ、神羅兵たちがくつろいでいる。ヒロインは神羅兵たちの好奇に満ちた視線を浴びながら、オフィスの奥へと進んだ。そして、奥の奥の隅に置かれた小さな執務机に座るスーツ姿の男性に声をかけた。
「タークスから応援に来ました」
「助かるよ!早速だけどやってほしいのは――」
ものすごい勢いで立ち上がった男性は挨拶もそこそこにヒロインにして欲しい仕事を説明し始めた。どうやら、神羅兵たちの提出した勤怠を承認すればいいらしい。が、肝心の勤怠が提出されていないとのことだった。
先の思いやられる仕事に、ヒロインは大きく溜息をついた。
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そう言われて、ただただ腹が立った。
言われたタイミングも最悪だった。ヒロインのために買ってきたケーキがまだ残っていたなら、迷うことなくゴミ箱に叩き込んでいただろう。知り合いに頼んでまでヒロインを喜ばせようとした結果がこれだ。何もかもバカバカしくなって、その日レノはヒロインが評した通りの『軽薄な男』らしい夜を過ごした。
それからしばらくは平和な日々が続いた。レノからヒロインに話しかける用事もなく、ヒロインから話しかけてくることもなかった。毎月恒例となっている書類提出の催促も、今月に限ってはチャットで来たため、あの日から一言も話すことなく、早くも一月が経とうとしていた。
「ヒロインに言われなくても期限を守るようになったな」
そう言ったツォンはいつもより少し機嫌が良さそうだった。わざわざチャットで催促されたことを言って自分の評価を下げることもないと思い、レノは黙っていた。
どうやら誰もレノとヒロインの間に何かあったことは気づいていないようだ。と思っていたが、付き合いの長い相棒ルードだけは違っていた。
「ヒロインと何かあったな。どうせ怒らせたんだろう?」
久しぶりに二人で外の任務になったとき、移動中の車内でルードが話しかけてきた。普段は無口なくせに、どうしてそういうことだけしっかりは聞いてくるのか。しかも、ルードはレノが悪いと思っている。
「別に。何もねーよ」
レノは少し不機嫌になり、ルードの方ではなく窓の方を向いて言った。
「謝ったのか?」
「何でオレが謝んだよ」
謝罪すべきはヒロインの方だ。あの日あのタイミングで、あんな暴言を吐いてきたヒロインが悪い。レノはあの日のことを思い出し、更に眉間の皺を深めた。
「着いたら起こしてくれ」
レノは車のシートを倒すと、腕を頭の後ろに回して目を閉じた。
一方ヒロインは、あの日からレノに謝る機会を窺っていた。しかし、なかなかオフィスで二人になる機会がなく、ただ気まずい日々だけが過ぎていった。
機会がないならメールかチャットで。対面だとまた余計なことを言いそうだったのでいい思いつきに思えたが、言い訳がましい長文が出来上がってしまったことでその案は却下となった。対面で話せば言葉がきつくなり、メールやチャットになると自己弁護と言い訳ばかりで、本当に言いたいことが伝わらなくなる。ただシンプルに「ごめん」と謝ればいいだけなのに、それができない自分に嫌気が差し、ヒロインは誰もいないオフィスで溜息をついた。
謝れないまま迎えた月末恒例のレノへの書類提出催促のチャットはシンプルな文面になり、それがますますヒロインを落ち込ませた。
そこから更に数週間経ったが一向にレノと話す機会は訪れなかった。しかもレノはしばらくルードと外勤のようだ。ますます謝る機会が遠のき、ヒロインの胃に重たいものが落ちてくる。ヒロインは胃の辺りをぎゅっと手で抑えた。
「ヒロイン」
「は、はいっ!」
どうしようかと悩んでいるところに突然ツォンから声を掛けられ、ヒロインは思わず飛び上がった。振り返るとツォンが目を大きく見開いて固まっていたため、ヒロインは小さな声で謝った。
「あー…悪いが明日から警備部の事務処理サポートに行ってもらえないか?書類提出が滞っているらしくてな」
警備部は神羅ビルやミッドガルの警備をしている社員が所属している部署だ。一つ上のフロアにあり、ヒロインは全く関わりのない部署ではあったが、事務担当のストレス度が高い部署だという噂だけは聞いていた。ただでさえ痛い胃が更に悪くなりそうな予感にヒロインは小さく溜息をついた。
「わかりました」
レノと顔を合わせるのとどちらが胃に悪いだろうか。ヒロインはその日、憂鬱な気分で会社を出た。
翌日、警備部に顔を出すと、朝の交代時間だったのかオフィスには警備部所属の神羅兵が大勢詰めていた。オフィスというよりは休憩室と呼ぶのが相応しいかもしれない。テーブルセットが所狭しと置かれ、神羅兵たちがくつろいでいる。ヒロインは神羅兵たちの好奇に満ちた視線を浴びながら、オフィスの奥へと進んだ。そして、奥の奥の隅に置かれた小さな執務机に座るスーツ姿の男性に声をかけた。
「タークスから応援に来ました」
「助かるよ!早速だけどやってほしいのは――」
ものすごい勢いで立ち上がった男性は挨拶もそこそこにヒロインにして欲しい仕事を説明し始めた。どうやら、神羅兵たちの提出した勤怠を承認すればいいらしい。が、肝心の勤怠が提出されていないとのことだった。
先の思いやられる仕事に、ヒロインは大きく溜息をついた。
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