立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花 4
ヒロイン
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ヒロイン、わかるか?」
「…レノ?」
掠れた声を出したヒロインがゆっくりと左右に首を振った。
「見え、ない…レノ、本当にいるの?」
いつもと違い、不安を顕にするヒロインを落ち着かせようと、レノはそっとヒロインの手を握った。
「あぁ、ここにいるぞ、と」
握った手にぎゅっと力を入れると、ヒロインはそれを握り返してきた。
「何で、見えないの?」
ひどく腫れた瞼のせいで、上手く目が開けられないようだ。それを無理にこじ開けようとヒロインが目の辺りに手を伸ばしたが、それをレノが既のところで止めた。
「時期に良くなるから、しばらくの我慢だぞ、と」
「…鏡、貸して」
「持ってないぞ、と」
「そうじゃなくて!部屋にあるでしょ!?」
ヒロインが苛立たしげに声を荒らげた。
「今はやめとけよ」
「じゃあ、レノが教えて。私が今、どんなひどい顔してるのか!」
怪我のせいでヒロインの表情から感情は読み取れなかった。ただ、口調には苛立ちと不安がはっきりと表れていた。怪我をする前、ヒロインはそれはもう美人だった。自分でもその自覚はあったはずだ。しかし、今はその面影がない。それを知ったらヒロインはきっと深く傷つき、前とは別人になってしまうだろう。そんな予感があった。
レノが返事に窮していると、ヒロインの口元が歪んだ。
「ざまあみろって思ってるでしょ?顔の良さだけで生きてきて、散々相手を見下してこき下ろして――なのに、何の取り柄もなくなって、今度は私がバカにされる番になったんだから!」
「そんなこと、思ってるわけないだろ」
ヒロインを落ち着かせようと、レノは殊更ゆっくりと穏やかな口調で言ったが、それぐらいで落ち着くほど甘くはなく、ヒロインは更に大声を上げ、手を振り上げた。
「嘘つき!美人だからみんな私に構うだけでしょ!?」
恐らくレノを殴ろうとしたのだろうが、はっきりと見えていない中で、さらにタークス相手にそれは無謀というもの。レノは難なくヒロインの手を捕まえた。そして、きつく握られたヒロインの拳を自分の手で包み込んだ。
「オレも、他の奴らも、美人だろうがなかろうが、ヒロインのことが好きなんだぞ、と」
「はあ!?」
「だから、そんな悲観的な考え方すんなよ」
ヒロインの方を見ると、何やら口をパクパクと動かしていた。
「…じゃないの」
「ん?」
「バッカじゃないの!?」
顔が腫れていることを差し引いても、ヒロインの顔は興奮で真っ赤になっているのがわかった。
「バカレノ!あんたがいると落ち着かない!一人にして!寝る!」
一気にそうまくし立てると、ヒロインはレノの返事も待たずに背を向けて布団に潜り込んだ。
「おやすみ、ヒロイン」
レノは苦笑しながら、ベッドを仕切るカーテンを引いて個室に置かれている簡易ベッドに横になった。
ヒロインを襲った犯人たちは、その日のうちにイリーナが確保した。女一人と男二人だった。朝の出勤時間を狙い、男がヒロインを無理矢理路地裏に連れ込み、女が抵抗できないヒロインを殴ったとのことだった。
イリーナが鬼の形相で犯人たちに迫ると、男は「自分たちは殴っていない」と言ったようだが、怒りで頭が沸騰したイリーナにそんな言い訳が通じるはずもない。死にたくなければかかってこいとイリーナは言ったというが、男たちは抵抗する暇もなく一瞬で地に伏した。それを見ていた主犯の女は必死にイリーナに許しを乞うたようだが、イリーナは問答無用でその顔面に鋭い右ストレートを見舞った。
と、ヒロインが入院してから数日後にやってきたイリーナが楽しそうにヒロインに話していた。
「お前、見舞いに来て血なまぐさい話やめとけよ。もっと女らしい話しろ」
レノが呆れて言うと、イリーナがキッと睨みつけてきた。
「女性差別!セクハラ!」
「…めんどくせえ奴」
レノは肩を竦めると、ベッドから離れてソファに座った。
入院してすぐは笑うことがなかったヒロインにも、今日は笑顔が戻っている。イリーナと話しているときのヒロインはいつものようにリラックスしていて、表情も柔らかい。イリーナの話は大袈裟にも思えたが、身振り手振りを交えた大捕物の話はヒロインに受けているようだったので、レノは黙ってそれを聞いていた。
.
「…レノ?」
掠れた声を出したヒロインがゆっくりと左右に首を振った。
「見え、ない…レノ、本当にいるの?」
いつもと違い、不安を顕にするヒロインを落ち着かせようと、レノはそっとヒロインの手を握った。
「あぁ、ここにいるぞ、と」
握った手にぎゅっと力を入れると、ヒロインはそれを握り返してきた。
「何で、見えないの?」
ひどく腫れた瞼のせいで、上手く目が開けられないようだ。それを無理にこじ開けようとヒロインが目の辺りに手を伸ばしたが、それをレノが既のところで止めた。
「時期に良くなるから、しばらくの我慢だぞ、と」
「…鏡、貸して」
「持ってないぞ、と」
「そうじゃなくて!部屋にあるでしょ!?」
ヒロインが苛立たしげに声を荒らげた。
「今はやめとけよ」
「じゃあ、レノが教えて。私が今、どんなひどい顔してるのか!」
怪我のせいでヒロインの表情から感情は読み取れなかった。ただ、口調には苛立ちと不安がはっきりと表れていた。怪我をする前、ヒロインはそれはもう美人だった。自分でもその自覚はあったはずだ。しかし、今はその面影がない。それを知ったらヒロインはきっと深く傷つき、前とは別人になってしまうだろう。そんな予感があった。
レノが返事に窮していると、ヒロインの口元が歪んだ。
「ざまあみろって思ってるでしょ?顔の良さだけで生きてきて、散々相手を見下してこき下ろして――なのに、何の取り柄もなくなって、今度は私がバカにされる番になったんだから!」
「そんなこと、思ってるわけないだろ」
ヒロインを落ち着かせようと、レノは殊更ゆっくりと穏やかな口調で言ったが、それぐらいで落ち着くほど甘くはなく、ヒロインは更に大声を上げ、手を振り上げた。
「嘘つき!美人だからみんな私に構うだけでしょ!?」
恐らくレノを殴ろうとしたのだろうが、はっきりと見えていない中で、さらにタークス相手にそれは無謀というもの。レノは難なくヒロインの手を捕まえた。そして、きつく握られたヒロインの拳を自分の手で包み込んだ。
「オレも、他の奴らも、美人だろうがなかろうが、ヒロインのことが好きなんだぞ、と」
「はあ!?」
「だから、そんな悲観的な考え方すんなよ」
ヒロインの方を見ると、何やら口をパクパクと動かしていた。
「…じゃないの」
「ん?」
「バッカじゃないの!?」
顔が腫れていることを差し引いても、ヒロインの顔は興奮で真っ赤になっているのがわかった。
「バカレノ!あんたがいると落ち着かない!一人にして!寝る!」
一気にそうまくし立てると、ヒロインはレノの返事も待たずに背を向けて布団に潜り込んだ。
「おやすみ、ヒロイン」
レノは苦笑しながら、ベッドを仕切るカーテンを引いて個室に置かれている簡易ベッドに横になった。
ヒロインを襲った犯人たちは、その日のうちにイリーナが確保した。女一人と男二人だった。朝の出勤時間を狙い、男がヒロインを無理矢理路地裏に連れ込み、女が抵抗できないヒロインを殴ったとのことだった。
イリーナが鬼の形相で犯人たちに迫ると、男は「自分たちは殴っていない」と言ったようだが、怒りで頭が沸騰したイリーナにそんな言い訳が通じるはずもない。死にたくなければかかってこいとイリーナは言ったというが、男たちは抵抗する暇もなく一瞬で地に伏した。それを見ていた主犯の女は必死にイリーナに許しを乞うたようだが、イリーナは問答無用でその顔面に鋭い右ストレートを見舞った。
と、ヒロインが入院してから数日後にやってきたイリーナが楽しそうにヒロインに話していた。
「お前、見舞いに来て血なまぐさい話やめとけよ。もっと女らしい話しろ」
レノが呆れて言うと、イリーナがキッと睨みつけてきた。
「女性差別!セクハラ!」
「…めんどくせえ奴」
レノは肩を竦めると、ベッドから離れてソファに座った。
入院してすぐは笑うことがなかったヒロインにも、今日は笑顔が戻っている。イリーナと話しているときのヒロインはいつものようにリラックスしていて、表情も柔らかい。イリーナの話は大袈裟にも思えたが、身振り手振りを交えた大捕物の話はヒロインに受けているようだったので、レノは黙ってそれを聞いていた。
.