恋人契約 - 保留 -
ヒロイン
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「悪かったな、急に」
「ううん、大丈夫。怪我の具合は?」
レノが飲み終わったコップを棚に置き、ヒロインは近くにあった丸椅子を引き寄せて座った。そして、レノの手をそっと握った。それを力なく握り返されたのが悲しく、ヒロインはわずかに顔を曇らせた。
「そんな顔するなよ。これでもよくなったんだぞ、と」
今日から面会が許可されたのだと、レノは笑った。それは裏を返せば、昨日まで面会謝絶になるぐらい重症だったということだ。自然と握る手に力がこもった。
「で、ヒロインに会いたくて、ルードに伝言頼んで――来てくれてうれしかった」
「今日は、約束の日だったから…」
レノが心配で、急いで駆けつけた。会いたかった。会えなくて寂しかった。
ヒロインは本当に言いたかったことを飲み込んだ。明確な理由はなかったが、なぜか言葉にできなかった。どうしてこんなに心が落ち着かないのだろう。
「怪我してなかったら、そんな困った顔させずに済んだのにな」
「別に、困ってなんか――」
「ヒロイン、オレのこと好きだって思い込もうとしてるだろ?」
レノの青い瞳に真っ直ぐ見つめられ、ヒロインは息を呑んだ。病院に来るまでに答えは決めたはずだった。こんなに心配で、会いたいと思うのは、レノのことが好きなのだとそう思っていたが、レノの一言で気持ちが落ち着かない理由がわかった。
「同情なのか憐れみなのかわかんねぇけどよ、そういう中途半端な優しさはいらないぞ、と」
その言葉はヒロインの心にぐさりと刺さった。ヒロインはレノの目を見られずに俯いた。レノの言っていることは正しい。この状況で気持ちが動いたのは確かだ。
「フェアじゃないだろ、こんなの。この状況で気持ち聞かれたら、相手の求める答えを言うに決まってる。だから――」
レノの手がゆっくり伸ばされ、いつのまにか流れていた涙が優しく拭われた。
「退院したら一番最初に連絡する。そしたら、あの店で答え聞かせてくれ」
レノが指定したのは、初めて二人で食事した店だった。
ヒロインは頬に触れるレノの手に自分の手を重ねた。
「今逃したら、答えが変わっちゃうかもしれないよ」
「それならそれで仕方ないぞ、と」
オレの力不足だとレノが笑った。それは、いつもの自信に満ちたレノの顔だった。その顔を見ているとほっとする。大胆不敵、自信満々のレノが戻ってきてくれたことがうれしかった。まだ本調子には程遠いようだったが、レノはヒロインに気を遣ってか、辛さなど微塵も見せなかった。そういうところは素直にかっこいいと思うのだが、無理をして退院が延びてしまっては意味がない。
「今はしっかり休んで。連絡、待ってるから」
ヒロインが椅子から立ち上がると、名残惜しそうにレノの手が離れていった。少し寂しそうなレノの顔を見て、ヒロインの中に悪戯心が芽生えてくる。出会ってから散々からかわれてきたが、レノが動けない今、それをやり返すチャンスだ。ヒロインは少し意地の悪い顔をしてみせた。
「じゃあ、今日は帰るね。おやすみなさい」
ヒロインはレノが動けないのをいいことに、軽く覆いかぶさると、頬に音を立ててキスをした。唇を離すと、レノの頬に赤い口紅の痕がはっきりと残っていた。そして、それに負けずにレノの顔も赤くなっていた。
「…いいのかよ、好きかどうかはっきりしない男にキスして」
「レノも出会った次の日に私にキスしたでしょ。その仕返し」
珍しく照れた様子のレノを見て、ヒロインは小さく声を出して笑った。
「レノのことをまた好きになれたなら、今度は別のところに、ね?」
ヒロインは自分の唇を指差し、片目を瞑ってみせた。
To be continued...?
2021/03/09
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「ううん、大丈夫。怪我の具合は?」
レノが飲み終わったコップを棚に置き、ヒロインは近くにあった丸椅子を引き寄せて座った。そして、レノの手をそっと握った。それを力なく握り返されたのが悲しく、ヒロインはわずかに顔を曇らせた。
「そんな顔するなよ。これでもよくなったんだぞ、と」
今日から面会が許可されたのだと、レノは笑った。それは裏を返せば、昨日まで面会謝絶になるぐらい重症だったということだ。自然と握る手に力がこもった。
「で、ヒロインに会いたくて、ルードに伝言頼んで――来てくれてうれしかった」
「今日は、約束の日だったから…」
レノが心配で、急いで駆けつけた。会いたかった。会えなくて寂しかった。
ヒロインは本当に言いたかったことを飲み込んだ。明確な理由はなかったが、なぜか言葉にできなかった。どうしてこんなに心が落ち着かないのだろう。
「怪我してなかったら、そんな困った顔させずに済んだのにな」
「別に、困ってなんか――」
「ヒロイン、オレのこと好きだって思い込もうとしてるだろ?」
レノの青い瞳に真っ直ぐ見つめられ、ヒロインは息を呑んだ。病院に来るまでに答えは決めたはずだった。こんなに心配で、会いたいと思うのは、レノのことが好きなのだとそう思っていたが、レノの一言で気持ちが落ち着かない理由がわかった。
「同情なのか憐れみなのかわかんねぇけどよ、そういう中途半端な優しさはいらないぞ、と」
その言葉はヒロインの心にぐさりと刺さった。ヒロインはレノの目を見られずに俯いた。レノの言っていることは正しい。この状況で気持ちが動いたのは確かだ。
「フェアじゃないだろ、こんなの。この状況で気持ち聞かれたら、相手の求める答えを言うに決まってる。だから――」
レノの手がゆっくり伸ばされ、いつのまにか流れていた涙が優しく拭われた。
「退院したら一番最初に連絡する。そしたら、あの店で答え聞かせてくれ」
レノが指定したのは、初めて二人で食事した店だった。
ヒロインは頬に触れるレノの手に自分の手を重ねた。
「今逃したら、答えが変わっちゃうかもしれないよ」
「それならそれで仕方ないぞ、と」
オレの力不足だとレノが笑った。それは、いつもの自信に満ちたレノの顔だった。その顔を見ているとほっとする。大胆不敵、自信満々のレノが戻ってきてくれたことがうれしかった。まだ本調子には程遠いようだったが、レノはヒロインに気を遣ってか、辛さなど微塵も見せなかった。そういうところは素直にかっこいいと思うのだが、無理をして退院が延びてしまっては意味がない。
「今はしっかり休んで。連絡、待ってるから」
ヒロインが椅子から立ち上がると、名残惜しそうにレノの手が離れていった。少し寂しそうなレノの顔を見て、ヒロインの中に悪戯心が芽生えてくる。出会ってから散々からかわれてきたが、レノが動けない今、それをやり返すチャンスだ。ヒロインは少し意地の悪い顔をしてみせた。
「じゃあ、今日は帰るね。おやすみなさい」
ヒロインはレノが動けないのをいいことに、軽く覆いかぶさると、頬に音を立ててキスをした。唇を離すと、レノの頬に赤い口紅の痕がはっきりと残っていた。そして、それに負けずにレノの顔も赤くなっていた。
「…いいのかよ、好きかどうかはっきりしない男にキスして」
「レノも出会った次の日に私にキスしたでしょ。その仕返し」
珍しく照れた様子のレノを見て、ヒロインは小さく声を出して笑った。
「レノのことをまた好きになれたなら、今度は別のところに、ね?」
ヒロインは自分の唇を指差し、片目を瞑ってみせた。
To be continued...?
2021/03/09
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