恋人契約 - 保留 -
ヒロイン
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賭けの期限となるホワイトデー。この日に結果を伝えるのが約束だった。しかし、まだ気持ちは揺れ動いていた。
レノといるのは楽しいが、好きだと認めるのはまだ怖い。もし、1ヶ月間一緒に過ごしていたら、恐れはなくなっていたかもしれないが、レノは数週間前から姿を見せていない。仕事なのか、賭けがどうでもよくなったのか、それとも――
一番最悪の想像をしてしまい、ヒロインの胸がきゅっと痛んだ。
一度浮かんだ悪い考えは消えることなく、ヒロインの頭の中に留まり続けた。そのせいで落ち着かない一日を過ごし、定時になっても会社を出る気にならなかった。
もしかしたら、レノが戻ってくるかもしれない。戻ってきてほしい。
そう願いながら、ヒロインはリフレッシュフロアで一人、コーヒーを飲んでいた。
真冬に比べて長くなった日も落ち、リフレッシュフロアの電気もところどころ消え始めている。フロアを閉めようとスタッフたちが忙しく動き回っているのを見て、ヒロインも腰を上げた。
あっけない幕切れだったと、ヒロインは自虐的な笑みを浮かべた。今回もいつもと同じ。明確な終わりが宣言されないまま、なし崩しで関係が終わる。
今回だけは違うと思っていたのに。そう思うと、鼻の奥がツンとし、目が潤み始めた。
会社で泣くわけにはいかないとヒロインは腹に力を込めたが、無理だった。ぽろりと一粒涙が溢れた。
「…ヒロインか?」
突然低い男の声で名前を呼ばれ、ヒロインは慌てて涙を拭うと振り返った。そこには、大柄なスキンヘッドの男性が立っていた。一度、年末に見かけたことがある。確か、レノが相棒と呼んでいた人だ。
その男性は、無言で一枚の半分に折りたたまれた紙を差し出してきた。
「これは?」
それを受け取ったヒロインは、紙を開いた。そこには、病院の名前と部屋番号と思しき数字が書かれていた。紙を持つ手が震える。何とか唾を喉に通し、ヒロインは声を絞り出した。
「もしかして、レノが?」
「あぁ、レノに頼まれた。どうしても今日会いたいそうだ」
約束を覚えていてくれたことはうれしいが、レノは無事なのだろうか。焦りと不安で今にも吐きそうだ。ヒロインは男に礼を言うのも忘れ、早足でリフレッシュフロアを出た。
会社の前からタクシーに乗って、ヒロインは紙に書かれた病院に向かった。夜間通用口から中に入って警備員に事情を話すと、あっさりと中に通してくれた。
静かな病院に響く自分の不規則な足音を聞きながら、病室に向かった。会いたい、でも会いたくない。会うのが怖い。ひどい怪我を負っていたら?今際の際だったら?思考は悪い方にばかり進んでいき、病室の前に立っても扉を開く勇気が出なかった。
しばらく扉の前に立って逡巡していると、一人の女性看護師が通りがかった。
「レノさんのお見舞いですか?聞いてますよ。どうぞ」
看護師は柔らかい笑みを浮かべると、ヒロインが制止するより早く扉を開け放った。
「レノさん、お見舞いの方いらっしゃいましたよ…あら、寝てますね。私は仕事がありますから、どうぞごゆっくり」
促されるがまま病室に足を踏み入れると、背後の扉が閉められた。退路を絶たれ、ヒロインは小さく溜息をついた。ここまで来てしまったら、覚悟を決めるしかないと思い、ヒロインはゆっくりとベッドの方に足を踏み出した。
先程の看護師が言っていたように、レノは眠っているようだった。その表情は穏やかで、どうやら危ない状態ではないらしい。ヒロインはほっと胸を撫で下ろした。
安心すると、今度はもやもやとした気持ちが沸き上がってくる。
「どうしても今日会いたいんじゃなかったの?」
人を呼んでおいて寝ているとは。やっぱり帰ってやろうかと思ったとき、レノの目がぱちっと開いた。
「…起きてるぞ、と」
その声はいつもと違って張りがなく、掠れていた。あまり調子はよくなさそうだった。
「ごめん。そんなに調子悪いと思わなくて…」
どうしていつも大切な言葉が最初に出てこないのだろう。心配していたのに、出てくるのは皮肉や嫌味ばかりで自分でも嫌になる。それでも、レノは優しく笑っていた。
「いや、ヒロインらしくてうれしかったぞ、と。悪ぃけど、水取ってくんねーか」
「うん」
ベッドのそばの棚においてあったペットボトルを開け、ヒロインはコップに半分ほど水を注いだ。レノはベッドを動かし、起き上がっていた。
「どうぞ」
コップをレノに差し出したものの、あまりにコップを持つ手が不安定だったので、ヒロインはレノが水を飲むまでコップを支えていた。触れたレノの手はいつものように温かかった。
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レノといるのは楽しいが、好きだと認めるのはまだ怖い。もし、1ヶ月間一緒に過ごしていたら、恐れはなくなっていたかもしれないが、レノは数週間前から姿を見せていない。仕事なのか、賭けがどうでもよくなったのか、それとも――
一番最悪の想像をしてしまい、ヒロインの胸がきゅっと痛んだ。
一度浮かんだ悪い考えは消えることなく、ヒロインの頭の中に留まり続けた。そのせいで落ち着かない一日を過ごし、定時になっても会社を出る気にならなかった。
もしかしたら、レノが戻ってくるかもしれない。戻ってきてほしい。
そう願いながら、ヒロインはリフレッシュフロアで一人、コーヒーを飲んでいた。
真冬に比べて長くなった日も落ち、リフレッシュフロアの電気もところどころ消え始めている。フロアを閉めようとスタッフたちが忙しく動き回っているのを見て、ヒロインも腰を上げた。
あっけない幕切れだったと、ヒロインは自虐的な笑みを浮かべた。今回もいつもと同じ。明確な終わりが宣言されないまま、なし崩しで関係が終わる。
今回だけは違うと思っていたのに。そう思うと、鼻の奥がツンとし、目が潤み始めた。
会社で泣くわけにはいかないとヒロインは腹に力を込めたが、無理だった。ぽろりと一粒涙が溢れた。
「…ヒロインか?」
突然低い男の声で名前を呼ばれ、ヒロインは慌てて涙を拭うと振り返った。そこには、大柄なスキンヘッドの男性が立っていた。一度、年末に見かけたことがある。確か、レノが相棒と呼んでいた人だ。
その男性は、無言で一枚の半分に折りたたまれた紙を差し出してきた。
「これは?」
それを受け取ったヒロインは、紙を開いた。そこには、病院の名前と部屋番号と思しき数字が書かれていた。紙を持つ手が震える。何とか唾を喉に通し、ヒロインは声を絞り出した。
「もしかして、レノが?」
「あぁ、レノに頼まれた。どうしても今日会いたいそうだ」
約束を覚えていてくれたことはうれしいが、レノは無事なのだろうか。焦りと不安で今にも吐きそうだ。ヒロインは男に礼を言うのも忘れ、早足でリフレッシュフロアを出た。
会社の前からタクシーに乗って、ヒロインは紙に書かれた病院に向かった。夜間通用口から中に入って警備員に事情を話すと、あっさりと中に通してくれた。
静かな病院に響く自分の不規則な足音を聞きながら、病室に向かった。会いたい、でも会いたくない。会うのが怖い。ひどい怪我を負っていたら?今際の際だったら?思考は悪い方にばかり進んでいき、病室の前に立っても扉を開く勇気が出なかった。
しばらく扉の前に立って逡巡していると、一人の女性看護師が通りがかった。
「レノさんのお見舞いですか?聞いてますよ。どうぞ」
看護師は柔らかい笑みを浮かべると、ヒロインが制止するより早く扉を開け放った。
「レノさん、お見舞いの方いらっしゃいましたよ…あら、寝てますね。私は仕事がありますから、どうぞごゆっくり」
促されるがまま病室に足を踏み入れると、背後の扉が閉められた。退路を絶たれ、ヒロインは小さく溜息をついた。ここまで来てしまったら、覚悟を決めるしかないと思い、ヒロインはゆっくりとベッドの方に足を踏み出した。
先程の看護師が言っていたように、レノは眠っているようだった。その表情は穏やかで、どうやら危ない状態ではないらしい。ヒロインはほっと胸を撫で下ろした。
安心すると、今度はもやもやとした気持ちが沸き上がってくる。
「どうしても今日会いたいんじゃなかったの?」
人を呼んでおいて寝ているとは。やっぱり帰ってやろうかと思ったとき、レノの目がぱちっと開いた。
「…起きてるぞ、と」
その声はいつもと違って張りがなく、掠れていた。あまり調子はよくなさそうだった。
「ごめん。そんなに調子悪いと思わなくて…」
どうしていつも大切な言葉が最初に出てこないのだろう。心配していたのに、出てくるのは皮肉や嫌味ばかりで自分でも嫌になる。それでも、レノは優しく笑っていた。
「いや、ヒロインらしくてうれしかったぞ、と。悪ぃけど、水取ってくんねーか」
「うん」
ベッドのそばの棚においてあったペットボトルを開け、ヒロインはコップに半分ほど水を注いだ。レノはベッドを動かし、起き上がっていた。
「どうぞ」
コップをレノに差し出したものの、あまりにコップを持つ手が不安定だったので、ヒロインはレノが水を飲むまでコップを支えていた。触れたレノの手はいつものように温かかった。
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