恋人契約 - 契約変更 -
ヒロイン
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ストレートに気持ちをぶつけられたヒロインは息を呑んだ。今思えば、レノはずっと思ったことを言葉や態度に示していた。明確な好意は隠していたが、その言葉も、態度も、何もかもが優しかったのをどうして忘れてしまっていたのだろう。怒りで曇ってしまった目は、大事なことを何一つ見ていなかった。
しかし、ヒロインは素直にレノの言葉を喜べなかった。まだ、心についた黒いシミが取れない。
「もしその言葉をもっと前に聞いていたら、賭けのことがあったとしてもレノのことを信じられたかもしれない。でも、そうはならなかった」
素直にレノの気持ちを受け入れることができたなら、どんなによかっただろう。だが、ヒロインにはそれができなかった。
また――もしかしたら今も、騙そうとしているのかもしれない。
その小さな不安は、ヒロインの開きかけた心の扉を縛った。随分と臆病になったものだと思うが、あんな辛い思いは一度で十分だった。
「同じ気持ちだったのにね…でも、私はまだ、信じることが怖い。きっと時間が経っても変わらないと思う」
ヒロインは窓越しではなく、正面に座るレノを真っ直ぐ見つめて微笑んだ。いつもの作り笑いではなく、今は自然と笑みが溢れた。ただそれは喜びからくるものではなく、きちんと気持ちに決着をつけたが故の、別れのための笑顔だった。
「だから、今日でちゃんと終わりにしよう。明日から、レノと私は何の関係もない者同士。出会う前に戻るだけ」
「そんな器用なことできるなら、会いに来てないぞ、と。オレはヒロインのことが好きなんだ」
レノに真剣な顔で見つめられ、わずかにヒロインの心が揺らいだ。それを察したのか、レノが手を伸ばし、コーヒーカップを持つヒロインの手に触れた。レノの手は温かく、更に気持ちがぐらぐらと不安定に揺れた。
「なぁ、ヒロイン」
手の甲をなぞるレノの指の感触が、あの日のことを想起させる。ホテルで何度も抱き合ったことを。レノの指は的確にヒロインの気持ちいいところを探り当て、何度も攻めた。それを思い出すと、全身がかっと熱くなる。このまま身を任せれば、きっと身体は満足するだろう。でも、今のままでは心は絶対に満足しない。
ヒロインはそっと手を引くと、手をテーブルの下に隠した。
「身体だけの関係なら、他を当たって。レノと、そういう関係にはなりたくない」
「悪ぃ、そういうつもりじゃ…」
机の上に取り残されていたレノの手がきつく握られた。
「このまま話してても平行線。お互い傷つくだけだと思う。だから――」
元々今日が契約の期限だったのだから、とレノを説得しようとしたが、それより先にレノが口を開いた。
「なぁ、ヒロイン。オレと賭けしないか?」
「は?」
ヒロインは思い切り顔をしかめた。レノが賭けをしていたからここまでこじれたというのに、まだ賭けを持ち出すのか。ヒロインは怒りを通して呆れていた。
一方のレノは、にやりと不敵な笑みを浮かべていた。
「ヒロインがオレのことをまた好きになったらオレの勝ち。そうならなかったら、ヒロインの勝ち。もうヒロインには関わらない。期限は今日から1ヶ月、でどうだ?」
レノの顔には自信が満ち溢れていた。どこからそんな自信が湧いてくるのか、ヒロインには不思議だった。今のままではレノに到底勝ち目はないというのに。
「勝算、あるの?」
「さぁな。やってみないとわからないぞ、と」
レノが肩を竦めた。口ではわからないといいつつも、自信があるとその顔に書いてあった。
「いいよ、その賭けのってあげる」
駆け引きは嫌いじゃない。それに、ヒロインにも勝つ自信があった。圧倒的にこちらが有利な状況で、レノにそれをひっくり返すほどの手札はない。勝ちはほぼ決まりと言っていい状況だが、レノがそれをどう覆そうとしているのかは興味があった。
久しぶりに胸が躍った。
ヒロインはふと今日の昼にもらったチョコの包を思い出し、カバンから取り出すと、それをレノの前に置いた。
「私から最初で最後のバレンタインのプレゼント。もらいものだけど。1ヶ月後、お返し待ってるから。そのときに賭けの結果も教えてあげる」
「もう一度、オレのこと好きになってもらうぞ、と」
今回は手加減しないとレノが笑う。
「受けて立つよ」
あと1ヶ月ですっきりと終われるなら、賭けも悪くない。できるものならやってみろと、ヒロインも強気で応じた。
To be continued...?
2021/02/13
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しかし、ヒロインは素直にレノの言葉を喜べなかった。まだ、心についた黒いシミが取れない。
「もしその言葉をもっと前に聞いていたら、賭けのことがあったとしてもレノのことを信じられたかもしれない。でも、そうはならなかった」
素直にレノの気持ちを受け入れることができたなら、どんなによかっただろう。だが、ヒロインにはそれができなかった。
また――もしかしたら今も、騙そうとしているのかもしれない。
その小さな不安は、ヒロインの開きかけた心の扉を縛った。随分と臆病になったものだと思うが、あんな辛い思いは一度で十分だった。
「同じ気持ちだったのにね…でも、私はまだ、信じることが怖い。きっと時間が経っても変わらないと思う」
ヒロインは窓越しではなく、正面に座るレノを真っ直ぐ見つめて微笑んだ。いつもの作り笑いではなく、今は自然と笑みが溢れた。ただそれは喜びからくるものではなく、きちんと気持ちに決着をつけたが故の、別れのための笑顔だった。
「だから、今日でちゃんと終わりにしよう。明日から、レノと私は何の関係もない者同士。出会う前に戻るだけ」
「そんな器用なことできるなら、会いに来てないぞ、と。オレはヒロインのことが好きなんだ」
レノに真剣な顔で見つめられ、わずかにヒロインの心が揺らいだ。それを察したのか、レノが手を伸ばし、コーヒーカップを持つヒロインの手に触れた。レノの手は温かく、更に気持ちがぐらぐらと不安定に揺れた。
「なぁ、ヒロイン」
手の甲をなぞるレノの指の感触が、あの日のことを想起させる。ホテルで何度も抱き合ったことを。レノの指は的確にヒロインの気持ちいいところを探り当て、何度も攻めた。それを思い出すと、全身がかっと熱くなる。このまま身を任せれば、きっと身体は満足するだろう。でも、今のままでは心は絶対に満足しない。
ヒロインはそっと手を引くと、手をテーブルの下に隠した。
「身体だけの関係なら、他を当たって。レノと、そういう関係にはなりたくない」
「悪ぃ、そういうつもりじゃ…」
机の上に取り残されていたレノの手がきつく握られた。
「このまま話してても平行線。お互い傷つくだけだと思う。だから――」
元々今日が契約の期限だったのだから、とレノを説得しようとしたが、それより先にレノが口を開いた。
「なぁ、ヒロイン。オレと賭けしないか?」
「は?」
ヒロインは思い切り顔をしかめた。レノが賭けをしていたからここまでこじれたというのに、まだ賭けを持ち出すのか。ヒロインは怒りを通して呆れていた。
一方のレノは、にやりと不敵な笑みを浮かべていた。
「ヒロインがオレのことをまた好きになったらオレの勝ち。そうならなかったら、ヒロインの勝ち。もうヒロインには関わらない。期限は今日から1ヶ月、でどうだ?」
レノの顔には自信が満ち溢れていた。どこからそんな自信が湧いてくるのか、ヒロインには不思議だった。今のままではレノに到底勝ち目はないというのに。
「勝算、あるの?」
「さぁな。やってみないとわからないぞ、と」
レノが肩を竦めた。口ではわからないといいつつも、自信があるとその顔に書いてあった。
「いいよ、その賭けのってあげる」
駆け引きは嫌いじゃない。それに、ヒロインにも勝つ自信があった。圧倒的にこちらが有利な状況で、レノにそれをひっくり返すほどの手札はない。勝ちはほぼ決まりと言っていい状況だが、レノがそれをどう覆そうとしているのかは興味があった。
久しぶりに胸が躍った。
ヒロインはふと今日の昼にもらったチョコの包を思い出し、カバンから取り出すと、それをレノの前に置いた。
「私から最初で最後のバレンタインのプレゼント。もらいものだけど。1ヶ月後、お返し待ってるから。そのときに賭けの結果も教えてあげる」
「もう一度、オレのこと好きになってもらうぞ、と」
今回は手加減しないとレノが笑う。
「受けて立つよ」
あと1ヶ月ですっきりと終われるなら、賭けも悪くない。できるものならやってみろと、ヒロインも強気で応じた。
To be continued...?
2021/02/13
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