恋人契約 - 契約変更 -
ヒロイン
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ヒロインはいつもの倍以上の時間を掛けてトレーニングをし、さらに時間を掛けて身支度を整えた。これだけ遅くなれば、さすがに諦めて帰っているだろうと思っていた。しかし、ヒロインの期待に反して、レノはジムのエントランスで待っていた。コートは着ていたが、寒そうに身体を縮こまらせていた。
震えるほど寒い中わざわざ待つなんて、バカじゃないのか。氷の女王のように冷え切った心でヒロインはそう思い、白い目でレノを見た。
「まだ待ってたの?帰ればよかったのに」
「どうしてもヒロインと話したかったんだぞ、と」
レノは屈託のない笑顔を見せた。鼻の頭を赤くし、まるで無邪気な子供のようだ。そんな顔を見せられると、凍ったヒロインの心にも、多少は申し訳無さが生じるというもの。ただそれがレノの思い通りになったようで腹立たしく、ヒロインは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「前のカフェでいいか?」
「…ここでいいでしょ」
「こんな寒いところいたら湯冷めするぞ、と。ほら、行こうぜ」
長く話すつもりはないのだと意思表示したが、レノはそれを無視してさっさとジムを出てしまった。ここで帰ってもよかったのだが、何となく黙って消えてしまうのは気が引けたので、ヒロインは渋々レノについていった。
前と同じカフェの同じ席。ヒロインはそこでレノがコーヒーを持ってきてくれるのを待った。前と違うのは、これからする話が楽しいものではないことだ。
「コーヒー。ブラックでよかったよな?」
「…ありがとう」
戻ってきたレノからコーヒーを受け取り、ヒロインは一口だけ飲んだ。そして、カップをテーブルに置くと、真っ直ぐレノの目を見た。今日も前と同じように化粧はしていなかったが、今度はマフラーで顔を隠さなかった。どうせ今日で終わりなのだから、恥ずかしがる必要もないのだ。
そう吹っ切れているヒロインとは対象的に、レノは浮かない顔をしていた。こちらを見もしない。誘ってきたくせに話を始めようともしないレノにしびれを切らし、ヒロインは先に口を開いた。
「で、話って?賭けの噂広めた犯人探し?仕返し?言っておくけど、あれは私が広めたんじゃないから」
「知ってるぞ、と。オレがやった」
想像もしていなかった自白がレノから飛び出し、次に言おうとしたことが頭から飛んだ。言葉が何も出てこない。
「この件でヒロインが悪く言われるのだけは避けたかった。勝手に『被害者』にしちまったのは、その…悪かったぞ、と」
噂が広まったことと『可哀想』と思われるのは正直迷惑ではあったが、確かにレノが言う通り、この件でヒロインを悪く言う人はいない。夕方の出来事が最たる例だ。
「最初は遊び半分だった。いい女と運良くお近づきになれて、あわよくばって思ってた。それを賭け事にしたのも面白そうだったからで、まぁ最低だってのはその通り。本当は、そこで終わればよかったんだけどな」
レノが言葉を切り、視線を窓の外に向けた。ヒロインも釣られるように窓の方に視線を向けた。曇った窓ガラスにぼやけた二人の顔が映る。その中のレノがこちらを見て、微笑んだような気がした。
「賭けの勝ち負けより大事なものができた時点で、やめるか適当に終わらせるべきだったんだ。結果的に、ヒロインを傷つけることになって、本当に悪かった」
「大事なものって、何?」
窓に映るぼやけたレノの顔がはっきりと赤くなったのがわかった。少しの沈黙の後、レノが窓越しに合っていた目を逸らした。
「…ヒロイン」
確かにレノの言葉は耳から入って頭に届いたはずなのに、ヒロインの頭はその意味を理解することを拒んだ。
ずっと、騙されていたのだと思っていた。だから、怒りで心を一気に燃やし尽くし、残った灰は外に捨てた。そうやって決着をつけた心がなぜかざわざわと騒ぎ出す。
「あいつらに教えたくなかったんだ、ヒロインとのこと。笑ったり、楽しそうにしてたり――そういうの、見せたくなかった。独り占めしたいって、思ってた。好きなんだ、ヒロインのことが」
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震えるほど寒い中わざわざ待つなんて、バカじゃないのか。氷の女王のように冷え切った心でヒロインはそう思い、白い目でレノを見た。
「まだ待ってたの?帰ればよかったのに」
「どうしてもヒロインと話したかったんだぞ、と」
レノは屈託のない笑顔を見せた。鼻の頭を赤くし、まるで無邪気な子供のようだ。そんな顔を見せられると、凍ったヒロインの心にも、多少は申し訳無さが生じるというもの。ただそれがレノの思い通りになったようで腹立たしく、ヒロインは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「前のカフェでいいか?」
「…ここでいいでしょ」
「こんな寒いところいたら湯冷めするぞ、と。ほら、行こうぜ」
長く話すつもりはないのだと意思表示したが、レノはそれを無視してさっさとジムを出てしまった。ここで帰ってもよかったのだが、何となく黙って消えてしまうのは気が引けたので、ヒロインは渋々レノについていった。
前と同じカフェの同じ席。ヒロインはそこでレノがコーヒーを持ってきてくれるのを待った。前と違うのは、これからする話が楽しいものではないことだ。
「コーヒー。ブラックでよかったよな?」
「…ありがとう」
戻ってきたレノからコーヒーを受け取り、ヒロインは一口だけ飲んだ。そして、カップをテーブルに置くと、真っ直ぐレノの目を見た。今日も前と同じように化粧はしていなかったが、今度はマフラーで顔を隠さなかった。どうせ今日で終わりなのだから、恥ずかしがる必要もないのだ。
そう吹っ切れているヒロインとは対象的に、レノは浮かない顔をしていた。こちらを見もしない。誘ってきたくせに話を始めようともしないレノにしびれを切らし、ヒロインは先に口を開いた。
「で、話って?賭けの噂広めた犯人探し?仕返し?言っておくけど、あれは私が広めたんじゃないから」
「知ってるぞ、と。オレがやった」
想像もしていなかった自白がレノから飛び出し、次に言おうとしたことが頭から飛んだ。言葉が何も出てこない。
「この件でヒロインが悪く言われるのだけは避けたかった。勝手に『被害者』にしちまったのは、その…悪かったぞ、と」
噂が広まったことと『可哀想』と思われるのは正直迷惑ではあったが、確かにレノが言う通り、この件でヒロインを悪く言う人はいない。夕方の出来事が最たる例だ。
「最初は遊び半分だった。いい女と運良くお近づきになれて、あわよくばって思ってた。それを賭け事にしたのも面白そうだったからで、まぁ最低だってのはその通り。本当は、そこで終わればよかったんだけどな」
レノが言葉を切り、視線を窓の外に向けた。ヒロインも釣られるように窓の方に視線を向けた。曇った窓ガラスにぼやけた二人の顔が映る。その中のレノがこちらを見て、微笑んだような気がした。
「賭けの勝ち負けより大事なものができた時点で、やめるか適当に終わらせるべきだったんだ。結果的に、ヒロインを傷つけることになって、本当に悪かった」
「大事なものって、何?」
窓に映るぼやけたレノの顔がはっきりと赤くなったのがわかった。少しの沈黙の後、レノが窓越しに合っていた目を逸らした。
「…ヒロイン」
確かにレノの言葉は耳から入って頭に届いたはずなのに、ヒロインの頭はその意味を理解することを拒んだ。
ずっと、騙されていたのだと思っていた。だから、怒りで心を一気に燃やし尽くし、残った灰は外に捨てた。そうやって決着をつけた心がなぜかざわざわと騒ぎ出す。
「あいつらに教えたくなかったんだ、ヒロインとのこと。笑ったり、楽しそうにしてたり――そういうの、見せたくなかった。独り占めしたいって、思ってた。好きなんだ、ヒロインのことが」
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