恋人契約 - 契約変更 -
ヒロイン
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あれから、レノからの連絡はない。しばらくはレノの辛そうな表情を思い出して怒りと罪悪感に悩まされたが、契約満了となるバレンタインが近づくにつれ、それらも薄れていった。
女が立ち直るのは早いとは、よく言ったものだ。ヒロインは自分の薄情さを笑った。
一方で、ヒロインに賭けのことを話した男たちは、ヒロインを見かけると気まずそうに逃げていった。自分たちのしたことを気にしているのだろうか。レノのこと同様、ヒロインの中では終わったことだが、彼らにとっては違うのかもしれない。それならば、ずっと気まずい思いをしていたらいいと、ヒロインは鼻で笑った。
バレンタイン当日。いつものように昼にリフレッシュフロアに向かうと、甘いチョコの香りが漂ってきた。今日はチョコを使ったメニューが多いようだ。そして、カップルも多い。互いに頬を赤らめ、恥ずかしそうに向かい合って座っているのを見ていると、こちらまで気恥ずかしくなってくる。
賭けのことを知らなかったら、ヒロインは今日、レノに想いを伝えるつもりだった。バレンタインのプレゼントも考えていた。どちらも自分らしくないことだったが、迷ったり悩んだりした時間は新鮮だった。でもやはり、似合わないことはすべきでないのだと、今回の経験から学んだ。人を想ったり、好きになるのは似合わない。
ランチを買ったときにもらった小さなチョコの包をカバンに放り込み、ヒロインは昼休憩を終えてリフレッシュフロアを出た。
オフィスにも蔓延する少し浮かれた空気をものともせず、ヒロインは定時ぴったりに仕事を終えた。帰り支度をしていたとき、珍しく同僚に声を掛けられた。
「今日、バレンタインのパーティーするんだけど、よかったらどう?」
今まで同僚から誘われたことなど一度もなかったので、ヒロインは目を丸くした。
「その、ちょっと噂に聞いてさ。ひどいよね、あいつら」
ああ、なるほど、とヒロインは頷いた。男たちが気まずそうにしていた理由がわかった。あの悪行が他の人にも知られたのだ。いい気味だと思ったが、終わったこととは言え、あの出来事が皆の知るところとなったことについては複雑だった。
「そう、ひどいよね。でも、今日は止めておく。誘ってくれて、ありがとう」
ヒロインはにこりと笑うと、素直に同僚に感謝を伝えた。断ったにも関わらず同僚は嫌な顔一つせずに、わかったと言って去っていった。誰かと健全な関係を築くのは、意外と簡単なのかもしれない。相手を思いやり、笑顔で応対することが大事なのだと、今更になって気づくなんて。レノとのことは辛い出来事だったが、このことに気づけたのはレノのおかげだ。ヒロインはほんの少しだけレノに感謝した。
会社を出ると、ヒロインは真っ直ぐジムに向かった。バレンタインの前までは女性客で混み合っていたが、今日は空いているだろうと思ってのことだった。案の定、フロアは閑散としていた。ほぼ貸切状態だ。ヒロインは着替えて化粧を落とすと、鼻歌交じりに更衣室から出た。
「偶然だな、ヒロイン」
そこでばったり出会ったのはレノだった。絶対偶然ではないと、ヒロインは確信していた。気分がよかったところに水をさされ、ヒロインはあからさまに不機嫌な顔をしてみせた。そして、何も言わずに更衣室に引き返した。
「待てって」
レノの手がヒロインの手首を掴んだ。
「離して。今すぐ離さないと警備員呼ぶから」
そう睨みつけて脅すと、レノは渋々といった感じで手を離した。
「帰るのか?」
「帰る」
「せっかく来たのに?」
「じゃあレノが帰って」
レノが両手を上げた。
「オレはフロアに入らないから、帰りに少しだけ時間くれよ」
「…考えとく」
「ありがとな」
レノは嬉しそうに笑うと、男性用更衣室に入っていった。本当に待つ気だろうか。レノに会ったことで少し気分が落ち込んだヒロインは、レノのことを忘れようといつもよりきつめのトレーニングに取り組むことにした。
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女が立ち直るのは早いとは、よく言ったものだ。ヒロインは自分の薄情さを笑った。
一方で、ヒロインに賭けのことを話した男たちは、ヒロインを見かけると気まずそうに逃げていった。自分たちのしたことを気にしているのだろうか。レノのこと同様、ヒロインの中では終わったことだが、彼らにとっては違うのかもしれない。それならば、ずっと気まずい思いをしていたらいいと、ヒロインは鼻で笑った。
バレンタイン当日。いつものように昼にリフレッシュフロアに向かうと、甘いチョコの香りが漂ってきた。今日はチョコを使ったメニューが多いようだ。そして、カップルも多い。互いに頬を赤らめ、恥ずかしそうに向かい合って座っているのを見ていると、こちらまで気恥ずかしくなってくる。
賭けのことを知らなかったら、ヒロインは今日、レノに想いを伝えるつもりだった。バレンタインのプレゼントも考えていた。どちらも自分らしくないことだったが、迷ったり悩んだりした時間は新鮮だった。でもやはり、似合わないことはすべきでないのだと、今回の経験から学んだ。人を想ったり、好きになるのは似合わない。
ランチを買ったときにもらった小さなチョコの包をカバンに放り込み、ヒロインは昼休憩を終えてリフレッシュフロアを出た。
オフィスにも蔓延する少し浮かれた空気をものともせず、ヒロインは定時ぴったりに仕事を終えた。帰り支度をしていたとき、珍しく同僚に声を掛けられた。
「今日、バレンタインのパーティーするんだけど、よかったらどう?」
今まで同僚から誘われたことなど一度もなかったので、ヒロインは目を丸くした。
「その、ちょっと噂に聞いてさ。ひどいよね、あいつら」
ああ、なるほど、とヒロインは頷いた。男たちが気まずそうにしていた理由がわかった。あの悪行が他の人にも知られたのだ。いい気味だと思ったが、終わったこととは言え、あの出来事が皆の知るところとなったことについては複雑だった。
「そう、ひどいよね。でも、今日は止めておく。誘ってくれて、ありがとう」
ヒロインはにこりと笑うと、素直に同僚に感謝を伝えた。断ったにも関わらず同僚は嫌な顔一つせずに、わかったと言って去っていった。誰かと健全な関係を築くのは、意外と簡単なのかもしれない。相手を思いやり、笑顔で応対することが大事なのだと、今更になって気づくなんて。レノとのことは辛い出来事だったが、このことに気づけたのはレノのおかげだ。ヒロインはほんの少しだけレノに感謝した。
会社を出ると、ヒロインは真っ直ぐジムに向かった。バレンタインの前までは女性客で混み合っていたが、今日は空いているだろうと思ってのことだった。案の定、フロアは閑散としていた。ほぼ貸切状態だ。ヒロインは着替えて化粧を落とすと、鼻歌交じりに更衣室から出た。
「偶然だな、ヒロイン」
そこでばったり出会ったのはレノだった。絶対偶然ではないと、ヒロインは確信していた。気分がよかったところに水をさされ、ヒロインはあからさまに不機嫌な顔をしてみせた。そして、何も言わずに更衣室に引き返した。
「待てって」
レノの手がヒロインの手首を掴んだ。
「離して。今すぐ離さないと警備員呼ぶから」
そう睨みつけて脅すと、レノは渋々といった感じで手を離した。
「帰るのか?」
「帰る」
「せっかく来たのに?」
「じゃあレノが帰って」
レノが両手を上げた。
「オレはフロアに入らないから、帰りに少しだけ時間くれよ」
「…考えとく」
「ありがとな」
レノは嬉しそうに笑うと、男性用更衣室に入っていった。本当に待つ気だろうか。レノに会ったことで少し気分が落ち込んだヒロインは、レノのことを忘れようといつもよりきつめのトレーニングに取り組むことにした。
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