恋人契約 - 破棄 -
ヒロイン
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「何やってるんだよ!」
店を出てすぐ、追ってきたレノに腕を掴まれた。昨日男に掴まれたのと同じ場所だった。しかし、レノに掴まれた腕は痛くなかった。少し強めに腕を引くと、すぐにレノの手は離れていった。
「何って、男、誘ってたの」
ヒロインが薄笑いを浮かべると、レノの顔が悲しげに歪んだ。どうせ、悲しんでいるフリだろうと、酒で思考力が低下した頭の中に笑い声が響く。それに勢いづいたヒロインは、思いつくがまま言葉を振るった。
「そっちこそ、何でここにいるの?もしかして、新しい賭けでもしてる?次は、私と仲直りできるか?それとも、セックスできるか?」
ヒロインは一歩レノに近づくと、レノの首に腕を回し、わずかに背伸びして顔を近づけた。
「レノは、何に賭けたの?今度は勝たせてあげるから、私に教えてよ」
互いの吐息がかかる距離。唇が触れ合うまであと少し。焦らすように少しレノの唇に触れてみたが、レノは誘いに乗ってこなかった。ならば、こちらから攻めてやろうとヒロインが顔をさらに近づけたとき、レノの口が開いた。
「もうやめろ、ヒロイン」
その声はとても苦しそうで、ヒロインは腕を解いてレノから離れた。沈痛な面持ちをしたレノは、とても演技をしているように見えなかった。しかしそれがヒロインの怒りに再び火をつけた。どうして傷つけた側がそんな顔をしているのか。どす黒い感情が全身を巡る。苛立ちが収まらず、ヒロインはそれをすべて口から吐き出した。
「その傷ついたって顔!見てるとイライラする!傷つけたのはどっち!?ご機嫌取りも、優しくしたのも、全部私とヤッて賭けに勝つためで、私のことなんか見てなかった!ねえ、私のこと笑いものにして楽しかった?レノが言ってくれたことに喜んだり、楽しんだりしてたの見て笑ってたんでしょ?あのとき、恋人のフリをするなんてバカなこと、同意するんじゃなかった!そしたら、こんな――こんなっ――」
まだまだ言いたいことはたくさんあるはずなのに、言葉が出てこなかった。アルコールで消したつもりになっていた楽しかった記憶が蘇り、怒りで見えなかった素直な気持ちが溢れてくる。言えば楽になる。でも、言いたくない。知られたくない。葛藤するヒロインの心が限界を告げ、一筋の涙が頬を伝った。
心が悲鳴を上げている。絶対に言うまいと押し込めていた想いが、大粒の涙とともに溢れた。
「契約の延長も、映画に誘ってくれたのも、食事もホテルでのことも、全部賭けのため?私、好きになってた…レノのこと。でも――」
レノの手が頬を伝う涙を拭おうと伸ばされた。しかし、ヒロインはそれを払い除けた。
「もう、信用できない。無理なの…一緒に、いたくない」
ヒロインは乱暴に手の甲で涙を拭うと、一歩二歩と後退り、レノの手が届かない距離まで下がった。どちらかが歩み寄れば届く距離だったが、二人は氷漬けになったかのようにその場から一歩も動かなかった。
「ヒロイン、オレは――」
「いい。謝らなくても。こういうの、慣れてる」
前にも同じことをレノに言った。そのときはこれほど苦しくはなかった。違うのは心に刺さって抜けない、楽しかった思い出。これがなくなれば、楽になれるだろうか。
ヒロインは涙でぼろぼろになった顔を上げ、レノの目を見つめた。
「一緒に過ごして、楽しかった時間。全部嘘で、賭けに勝つためだったって、そう言って」
ヒロインはいつもしてきたように作り笑いを必死に浮かべた。
「そしたら、いつもと同じ終わりになる」
時間が経てば忘れて、過去の一つになって、そして、また寄ってくる男を追い払って、気が向いたら欲を満たす、つまらない日々に戻れる。
ヒロインはじっと黙ってレノを見つめ、聞きたい言葉を口に出してくれるのを待った。だが、レノはその言葉を口にしてはくれなかった。悲しげな表情のままこちらを見つめている。当初はレノの言葉を待つつもりだったが、寒空の下、寒風にさらされているせいか、鎮痛剤で押さえていた頭痛がひどくなってきていた。ヒロインは顔をしかめて頭を押さえた。
「言いたくないならいい。どうせ、もうすぐ契約終わりだから」
ヒロインは少し早口で告げると、駅に向かって歩き出した。レノは追ってこなかった。もしかしたらと、ほんの僅か、バカな期待を抱いた愚かな自分を笑った。
To be continued...?
2021/02/01
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店を出てすぐ、追ってきたレノに腕を掴まれた。昨日男に掴まれたのと同じ場所だった。しかし、レノに掴まれた腕は痛くなかった。少し強めに腕を引くと、すぐにレノの手は離れていった。
「何って、男、誘ってたの」
ヒロインが薄笑いを浮かべると、レノの顔が悲しげに歪んだ。どうせ、悲しんでいるフリだろうと、酒で思考力が低下した頭の中に笑い声が響く。それに勢いづいたヒロインは、思いつくがまま言葉を振るった。
「そっちこそ、何でここにいるの?もしかして、新しい賭けでもしてる?次は、私と仲直りできるか?それとも、セックスできるか?」
ヒロインは一歩レノに近づくと、レノの首に腕を回し、わずかに背伸びして顔を近づけた。
「レノは、何に賭けたの?今度は勝たせてあげるから、私に教えてよ」
互いの吐息がかかる距離。唇が触れ合うまであと少し。焦らすように少しレノの唇に触れてみたが、レノは誘いに乗ってこなかった。ならば、こちらから攻めてやろうとヒロインが顔をさらに近づけたとき、レノの口が開いた。
「もうやめろ、ヒロイン」
その声はとても苦しそうで、ヒロインは腕を解いてレノから離れた。沈痛な面持ちをしたレノは、とても演技をしているように見えなかった。しかしそれがヒロインの怒りに再び火をつけた。どうして傷つけた側がそんな顔をしているのか。どす黒い感情が全身を巡る。苛立ちが収まらず、ヒロインはそれをすべて口から吐き出した。
「その傷ついたって顔!見てるとイライラする!傷つけたのはどっち!?ご機嫌取りも、優しくしたのも、全部私とヤッて賭けに勝つためで、私のことなんか見てなかった!ねえ、私のこと笑いものにして楽しかった?レノが言ってくれたことに喜んだり、楽しんだりしてたの見て笑ってたんでしょ?あのとき、恋人のフリをするなんてバカなこと、同意するんじゃなかった!そしたら、こんな――こんなっ――」
まだまだ言いたいことはたくさんあるはずなのに、言葉が出てこなかった。アルコールで消したつもりになっていた楽しかった記憶が蘇り、怒りで見えなかった素直な気持ちが溢れてくる。言えば楽になる。でも、言いたくない。知られたくない。葛藤するヒロインの心が限界を告げ、一筋の涙が頬を伝った。
心が悲鳴を上げている。絶対に言うまいと押し込めていた想いが、大粒の涙とともに溢れた。
「契約の延長も、映画に誘ってくれたのも、食事もホテルでのことも、全部賭けのため?私、好きになってた…レノのこと。でも――」
レノの手が頬を伝う涙を拭おうと伸ばされた。しかし、ヒロインはそれを払い除けた。
「もう、信用できない。無理なの…一緒に、いたくない」
ヒロインは乱暴に手の甲で涙を拭うと、一歩二歩と後退り、レノの手が届かない距離まで下がった。どちらかが歩み寄れば届く距離だったが、二人は氷漬けになったかのようにその場から一歩も動かなかった。
「ヒロイン、オレは――」
「いい。謝らなくても。こういうの、慣れてる」
前にも同じことをレノに言った。そのときはこれほど苦しくはなかった。違うのは心に刺さって抜けない、楽しかった思い出。これがなくなれば、楽になれるだろうか。
ヒロインは涙でぼろぼろになった顔を上げ、レノの目を見つめた。
「一緒に過ごして、楽しかった時間。全部嘘で、賭けに勝つためだったって、そう言って」
ヒロインはいつもしてきたように作り笑いを必死に浮かべた。
「そしたら、いつもと同じ終わりになる」
時間が経てば忘れて、過去の一つになって、そして、また寄ってくる男を追い払って、気が向いたら欲を満たす、つまらない日々に戻れる。
ヒロインはじっと黙ってレノを見つめ、聞きたい言葉を口に出してくれるのを待った。だが、レノはその言葉を口にしてはくれなかった。悲しげな表情のままこちらを見つめている。当初はレノの言葉を待つつもりだったが、寒空の下、寒風にさらされているせいか、鎮痛剤で押さえていた頭痛がひどくなってきていた。ヒロインは顔をしかめて頭を押さえた。
「言いたくないならいい。どうせ、もうすぐ契約終わりだから」
ヒロインは少し早口で告げると、駅に向かって歩き出した。レノは追ってこなかった。もしかしたらと、ほんの僅か、バカな期待を抱いた愚かな自分を笑った。
To be continued...?
2021/02/01
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