恋人契約 - 更新 -
ヒロイン
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「最後までハラハラしたね。主人公が背中にテープで銃貼り付けてたところなんて、バレないか私までヒヤヒヤしちゃった!」
映画が終わり、二人は小洒落たレストランにいた。レノの贔屓の店ということもあり、混んでいたにも関わらず、二人はすぐに個室に案内された。案内された部屋は横並びで座る、いわゆるカップル席だった。ヒロインは少し躊躇したが、レノが『契約期間中だ』と意地悪く笑ったので、渋々席についた。
初めは落ち着かなかったが、レノに映画の感想を聞かれると、ヒロインは堰を切ったように話し始めた。身振り手振りを交え、あのシーンがよかった、迫力があった、格好良かったとひたすら話し続けた。そして、少し興奮が収まったところで、レノが楽しそうにこちらを見ていることに気づき、ヒロインははっとして口を押さえた。
「あの、ごめんなさい。一方的に話しちゃって…映画、誰かと見るの久しぶりだったから、つい…」
「いや、楽しんでくれてよかったぞ、と」
それから二人は軽くお酒を飲みながら、好きな映画の話に興じた。レノは話を聞くのが上手く、ヒロインはついつい自分の好きな映画や俳優、監督について話してしまった。本来、自分のことを誰かに話すのは好きではない。自分のことを知られるのは嫌だったし、知ってもらいたいとも思わなかった。それがレノの前だと何でも話せた。何か聞かれても嫌だと思わなかったし、何よりレノが自分に関心を持ってくれているようでうれしかった。
だから、隣に座るレノの手が遠慮がちに自分の手に触れたときも拒まなかった。このあとどうなるかもわかった上で、ヒロインは少しレノとの距離を詰めた。
その意図はレノにも伝わったようで、レノも距離を縮めてくる。あとは拳一つ分の距離を残すのみ。触れ合ったレノの長い指がヒロインの細い指を絡め取る。レノのもう一方の手がヒロインの腰に回された。ぐっと引き寄せられたヒロインは、鼻先が触れる距離でレノと見つめ合った。
いつもは自信満々のくせに、今のレノの目に見えるのは動揺だった。その瞳の奥に映る自分も、迷っているように見えた。
恋人でもない、友人でもない男と関係を持つのは初めてではない。過去、この状況で迷ったこともない。さらにお酒が入っていれば、お互いにここで止まるなどありえないはずなのに。互いの吐息を感じる状況でありながら、ヒロインは最後の一歩を踏み出せなかった。
『簡単にヤれる、尻の軽い女』。
その噂通りの姿をレノに見せたくなかった。過去の自分の行いが招いた結果ゆえの噂だとしても、今の自分は違うのだと示したかった。
ヒロインは軽く唇を噛み、レノの視線から逃れるように顔を背けた。
「ごめんなさ…」
最後まで言い切る前に、レノの唇が言葉を飲み込んでいった。
「ヒロインのこと、帰したくなくなった」
一瞬だけ解放された唇から熱い吐息が漏れた。が、すぐにそれも飲み込まれていく。軽い音を立てて触れ合う唇。焦らすように繰り返されるそれは、容易くヒロインの心を変えた。もっと激しくしてほしいのに、もどかしい。深く口づけさせてもらえないヒロイン自身もじれったさを感じ始めていた。
ヒロインは空いていた手をそっとレノの背に回した。
二人はレストランを出てホテルに向かうと、部屋に入るなり激しくキスを交わした。舌が、唾液が絡み合い、境界線があやふやになっていく。
ヒロインは身体の底から湧き上がる欲望に突き動かされるままレノを求めた。浴室で、ベッドで、何度も身体を重ね合った。
行為自体が久しぶりだったこともあり、何度目かの絶頂のあと、ヒロインは意識を手放した。
しばらくしてヒロインは目を覚ました。隣ではレノが眠っていた。普段の隙のない彼であれば、こうも無防備に眠りに落ちないだろう。しかし、こうやって眠っているということは、少しは気を許してくれているのだろうか。
そうだったら嬉しいと思いつつも、ヒロインの心は晴れなかった。誘いに乗って身体を許したことで、噂通りの軽い女だと思ったかもしれない。そう考えると、きゅっと胸が締め付けられるように苦しい。いつもなら、相手がどう思おうと気にしないのに、レノが自分のことをどう思っているのか気になって仕方がない。
「好きになるなんて…」
それは、もしかしたら身体の関係を持ってしまったが故の一時的な感情かもしれない。今、想いを告げたところで、レノはきっとそう思うだろう。きっとそんな女性をたくさん見てきたはずだ。自分がそうであったように。
この思いが一時的だろうが、そうでなかろうが、契約期間はあと一ヶ月半。その先に二人の未来はない。しかし、今だけは恋人の真似事をすることができる。
ヒロインは身体を起こすと、レノの唇に軽くキスをした。
レノが目覚めなかったことに安堵しつつ、ヒロインはレノに背を向けて目を閉じた。
END?
2021/01/21
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映画が終わり、二人は小洒落たレストランにいた。レノの贔屓の店ということもあり、混んでいたにも関わらず、二人はすぐに個室に案内された。案内された部屋は横並びで座る、いわゆるカップル席だった。ヒロインは少し躊躇したが、レノが『契約期間中だ』と意地悪く笑ったので、渋々席についた。
初めは落ち着かなかったが、レノに映画の感想を聞かれると、ヒロインは堰を切ったように話し始めた。身振り手振りを交え、あのシーンがよかった、迫力があった、格好良かったとひたすら話し続けた。そして、少し興奮が収まったところで、レノが楽しそうにこちらを見ていることに気づき、ヒロインははっとして口を押さえた。
「あの、ごめんなさい。一方的に話しちゃって…映画、誰かと見るの久しぶりだったから、つい…」
「いや、楽しんでくれてよかったぞ、と」
それから二人は軽くお酒を飲みながら、好きな映画の話に興じた。レノは話を聞くのが上手く、ヒロインはついつい自分の好きな映画や俳優、監督について話してしまった。本来、自分のことを誰かに話すのは好きではない。自分のことを知られるのは嫌だったし、知ってもらいたいとも思わなかった。それがレノの前だと何でも話せた。何か聞かれても嫌だと思わなかったし、何よりレノが自分に関心を持ってくれているようでうれしかった。
だから、隣に座るレノの手が遠慮がちに自分の手に触れたときも拒まなかった。このあとどうなるかもわかった上で、ヒロインは少しレノとの距離を詰めた。
その意図はレノにも伝わったようで、レノも距離を縮めてくる。あとは拳一つ分の距離を残すのみ。触れ合ったレノの長い指がヒロインの細い指を絡め取る。レノのもう一方の手がヒロインの腰に回された。ぐっと引き寄せられたヒロインは、鼻先が触れる距離でレノと見つめ合った。
いつもは自信満々のくせに、今のレノの目に見えるのは動揺だった。その瞳の奥に映る自分も、迷っているように見えた。
恋人でもない、友人でもない男と関係を持つのは初めてではない。過去、この状況で迷ったこともない。さらにお酒が入っていれば、お互いにここで止まるなどありえないはずなのに。互いの吐息を感じる状況でありながら、ヒロインは最後の一歩を踏み出せなかった。
『簡単にヤれる、尻の軽い女』。
その噂通りの姿をレノに見せたくなかった。過去の自分の行いが招いた結果ゆえの噂だとしても、今の自分は違うのだと示したかった。
ヒロインは軽く唇を噛み、レノの視線から逃れるように顔を背けた。
「ごめんなさ…」
最後まで言い切る前に、レノの唇が言葉を飲み込んでいった。
「ヒロインのこと、帰したくなくなった」
一瞬だけ解放された唇から熱い吐息が漏れた。が、すぐにそれも飲み込まれていく。軽い音を立てて触れ合う唇。焦らすように繰り返されるそれは、容易くヒロインの心を変えた。もっと激しくしてほしいのに、もどかしい。深く口づけさせてもらえないヒロイン自身もじれったさを感じ始めていた。
ヒロインは空いていた手をそっとレノの背に回した。
二人はレストランを出てホテルに向かうと、部屋に入るなり激しくキスを交わした。舌が、唾液が絡み合い、境界線があやふやになっていく。
ヒロインは身体の底から湧き上がる欲望に突き動かされるままレノを求めた。浴室で、ベッドで、何度も身体を重ね合った。
行為自体が久しぶりだったこともあり、何度目かの絶頂のあと、ヒロインは意識を手放した。
しばらくしてヒロインは目を覚ました。隣ではレノが眠っていた。普段の隙のない彼であれば、こうも無防備に眠りに落ちないだろう。しかし、こうやって眠っているということは、少しは気を許してくれているのだろうか。
そうだったら嬉しいと思いつつも、ヒロインの心は晴れなかった。誘いに乗って身体を許したことで、噂通りの軽い女だと思ったかもしれない。そう考えると、きゅっと胸が締め付けられるように苦しい。いつもなら、相手がどう思おうと気にしないのに、レノが自分のことをどう思っているのか気になって仕方がない。
「好きになるなんて…」
それは、もしかしたら身体の関係を持ってしまったが故の一時的な感情かもしれない。今、想いを告げたところで、レノはきっとそう思うだろう。きっとそんな女性をたくさん見てきたはずだ。自分がそうであったように。
この思いが一時的だろうが、そうでなかろうが、契約期間はあと一ヶ月半。その先に二人の未来はない。しかし、今だけは恋人の真似事をすることができる。
ヒロインは身体を起こすと、レノの唇に軽くキスをした。
レノが目覚めなかったことに安堵しつつ、ヒロインはレノに背を向けて目を閉じた。
END?
2021/01/21
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