恋人契約 - 更新 -
ヒロイン
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会社の誰かにこんな姿を見られたら――そう思うとどうにも落ち着かない。ただでさえ妬み嫉みのターゲットになりやすいのに、こんな隙だらけの姿を見られたら、厚化粧でごまかしているとバカにされるに決まっている。
ヒロインはマフラーを更に引き上げ、俯き加減でレノを待った。
「何で顔隠してるんだ?」
「っ!」
足元ばかりを見ていて、レノの接近に気づかなかったヒロインは飛び上がるほど驚いた。悲鳴は何とか飲み込んだが、心臓が大きく跳ねた。胸に手を当て、深呼吸をして心臓の鼓動を鎮めていると、レノの手がそっと頭に置かれた。
「そんなに驚くと思わなくてよ。悪かったぞ、と」
レノの手が頭から頬へと動かされる。それが少しくすぐったく、ヒロインは首を竦めた。
「可愛い顔隠してたらもったいないぞ、と」
レノの指がマフラーを下ろした。遮るものが何もなくなり、頬を寒風が撫でていく。ヒロインは首を縮こまらせた。
「これでよし」
レノはにこにこと楽しそうに笑っていたが、一方のヒロインはできるだけ周囲に顔が見えないように俯いた。
「…今日、化粧ちゃんとしてないから、顔見せるの恥ずかしいの」
素直に今の気持ちを口に出すと、ますます薄化粧の状態が恥ずかしくなってくる。耳たぶまで熱い。ヒロインは長い髪をカーテンのように垂らして顔を隠し、視線を足元に向けた。
「自信持っていいと思うぞ、と。その辺の女の100倍は可愛いからな」
「そ、そういうのは、彼女に言ってあげて」
レノの言葉は、おそらく本心だろう。だからこそ、動悸も紅潮も収まらないのだ。
「だから言ってるんだぞ、と。でもまあ、ヒロインが恥ずかしいってんなら仕方ないな」
レノが納得してくれたようだったので、ヒロインはすぐにマフラーで顔の半分を隠した。彼女ではなく、彼女のフリをしているだけだ、というのは飲み込んだ。
先程のレノの言葉がぐるぐると頭を巡る。
少し前を歩くレノの背中を見ながら、自分たちは一体どういう関係なのだろう、とヒロインは考えていた。レノは『彼女だから』と言ったが、それはあくまで仮の関係だ。だから当然、恋人同士ではないし、友達というのも少し違和感がある。そこまで近しい間柄ではない。では、同僚?それよりは少し、親しい気もする。秘密の契約を結んでいるのだから。
近いようで遠い。親しいようでそうでもない。つかず離れず。
中途半端で、でもそれが心地よいようで、物足りない関係。
きっと契約終了のバレンタインの日まで、こんな関係が続いていくのだろう。
そして、契約が終わってしまえば、二人は赤の他人。また以前のように、興味のない相手に付きまとわれるだけのつまらない日々に戻るのだろう。それが少し、寂しい気がした。
「おーい、ヒロイン。聞いてたか?」
いつのまにか足を止めて振り返ったレノにぶつかりかけ、ヒロインは慌てて足を止めた。
「ごめん。ちょっと、考え事を――」
「…今日の誘い、強引だったよな。無理させて悪――」
「ち、違う!無理はしてない!確かに、強引だったけど…私たちってどういう関係なのかなって考えてただけ」
「それは――」
レノが困ったような顔をした。おそらく、レノの中にも答えがない問いだったのだろう。
素直に話しては見たものの、映画に行く前に話すことではなかったことに気づき、ヒロインは心の中で頭を抱えた。これでは完全に空気が読めない女だ。
「あの、ごめん!その…今の関係が悪いってわけじゃないから。レノと話すのは、楽しいし…」
「そっか、ありがとな。じゃあ楽しいおしゃべりは映画のあとにするとして、少し急ぐぞ、と」
レノの『ありがとう』に嬉しさと少し恥ずかしさを感じたヒロインは、顔を上げることができず、下を向いて頷くことしかできなかった。だから、レノも少し照れた顔をしていたのには気づくことができなかった。
ヒロインは急ぐと言ったレノから伸ばされた手をとった。冬なのにその手は心も温めるぐらい優しいぬくもりがあった。ヒロインはその手を握り返し、二人は少し早足で映画館に向かった。
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ヒロインはマフラーを更に引き上げ、俯き加減でレノを待った。
「何で顔隠してるんだ?」
「っ!」
足元ばかりを見ていて、レノの接近に気づかなかったヒロインは飛び上がるほど驚いた。悲鳴は何とか飲み込んだが、心臓が大きく跳ねた。胸に手を当て、深呼吸をして心臓の鼓動を鎮めていると、レノの手がそっと頭に置かれた。
「そんなに驚くと思わなくてよ。悪かったぞ、と」
レノの手が頭から頬へと動かされる。それが少しくすぐったく、ヒロインは首を竦めた。
「可愛い顔隠してたらもったいないぞ、と」
レノの指がマフラーを下ろした。遮るものが何もなくなり、頬を寒風が撫でていく。ヒロインは首を縮こまらせた。
「これでよし」
レノはにこにこと楽しそうに笑っていたが、一方のヒロインはできるだけ周囲に顔が見えないように俯いた。
「…今日、化粧ちゃんとしてないから、顔見せるの恥ずかしいの」
素直に今の気持ちを口に出すと、ますます薄化粧の状態が恥ずかしくなってくる。耳たぶまで熱い。ヒロインは長い髪をカーテンのように垂らして顔を隠し、視線を足元に向けた。
「自信持っていいと思うぞ、と。その辺の女の100倍は可愛いからな」
「そ、そういうのは、彼女に言ってあげて」
レノの言葉は、おそらく本心だろう。だからこそ、動悸も紅潮も収まらないのだ。
「だから言ってるんだぞ、と。でもまあ、ヒロインが恥ずかしいってんなら仕方ないな」
レノが納得してくれたようだったので、ヒロインはすぐにマフラーで顔の半分を隠した。彼女ではなく、彼女のフリをしているだけだ、というのは飲み込んだ。
先程のレノの言葉がぐるぐると頭を巡る。
少し前を歩くレノの背中を見ながら、自分たちは一体どういう関係なのだろう、とヒロインは考えていた。レノは『彼女だから』と言ったが、それはあくまで仮の関係だ。だから当然、恋人同士ではないし、友達というのも少し違和感がある。そこまで近しい間柄ではない。では、同僚?それよりは少し、親しい気もする。秘密の契約を結んでいるのだから。
近いようで遠い。親しいようでそうでもない。つかず離れず。
中途半端で、でもそれが心地よいようで、物足りない関係。
きっと契約終了のバレンタインの日まで、こんな関係が続いていくのだろう。
そして、契約が終わってしまえば、二人は赤の他人。また以前のように、興味のない相手に付きまとわれるだけのつまらない日々に戻るのだろう。それが少し、寂しい気がした。
「おーい、ヒロイン。聞いてたか?」
いつのまにか足を止めて振り返ったレノにぶつかりかけ、ヒロインは慌てて足を止めた。
「ごめん。ちょっと、考え事を――」
「…今日の誘い、強引だったよな。無理させて悪――」
「ち、違う!無理はしてない!確かに、強引だったけど…私たちってどういう関係なのかなって考えてただけ」
「それは――」
レノが困ったような顔をした。おそらく、レノの中にも答えがない問いだったのだろう。
素直に話しては見たものの、映画に行く前に話すことではなかったことに気づき、ヒロインは心の中で頭を抱えた。これでは完全に空気が読めない女だ。
「あの、ごめん!その…今の関係が悪いってわけじゃないから。レノと話すのは、楽しいし…」
「そっか、ありがとな。じゃあ楽しいおしゃべりは映画のあとにするとして、少し急ぐぞ、と」
レノの『ありがとう』に嬉しさと少し恥ずかしさを感じたヒロインは、顔を上げることができず、下を向いて頷くことしかできなかった。だから、レノも少し照れた顔をしていたのには気づくことができなかった。
ヒロインは急ぐと言ったレノから伸ばされた手をとった。冬なのにその手は心も温めるぐらい優しいぬくもりがあった。ヒロインはその手を握り返し、二人は少し早足で映画館に向かった。
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