恋人契約 - 更新 -
ヒロイン
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年末も年始もいつも通り静かに過ぎていった。誰からも連絡が来ることはなく、ヒロインは家で一人、のんびりとした時間に身を任せ、だらだらと過ごしていた。
年始も数日が過ぎ、休暇も残すところあとわずかとなった頃、ヒロインはいつものようにソファでうたた寝をしていた。
そこにけたたましい着信音が鳴り響いた。
連絡など誰からも来ないと油断していたこともあり、突然の着信音に驚いてヒロインは飛び起きた。そのとき、腹の上に載っていた文庫本がぱさりと床に落ちた。
ヒロインは文庫本を拾って机に置いてから携帯を手にとった。レノからの電話だった。
「もしもし…」
寝起きのぼんやりとした声で応答すると、電話の向こうでレノが少し笑ったのがわかった。
『昼寝中だったか?起こしちまって悪かったな』
油断していたのもあったが、休みに入って気が緩んでいたようだ。ヒロインは一つ咳払いすると、ソファに座り直し、姿勢を正した。ピンと背筋を伸ばせば、普段の調子が戻ってくる。
「大丈夫。それで、何か用?」
『そんなそっけなくしなくてもいいだろ。せっかくの休みだぞ、と』
レノは電話の向こうで苦笑しているようだった。レノに指摘され、ヒロインはつんけんした態度を悔いた。どうしてこうも可愛げのない態度しか取れないのだろう。
明けましておめでとう。
無事でよかった。
お仕事お疲れ様。
レノも今日から休み?
等々、いくらでも話すことはあるのに。よりにもよって『何か用?』だ。この契約期間を楽しく過ごすために素直になろうと決めたにも関わらずこれでは、先月の二の舞になってしまう。
ヒロインは少し電話を遠ざけ、深呼吸をした。そして、素直になる、素直になる…と、自分に言い聞かせるように心の中で何度も繰り返した。
「年明け早々に『何か用?』は、その…よくなかった。ごめん」
『まぁ、そうだな。じゃあその詫びってことで、これから映画付き合ってくれよ』
電話越しでもレノがにやりと笑ったのが手にとるようにわかった。
「え、これからって…」
ヒロインは壁掛け時計に目をやった。時計は午後2時過ぎを指していた。
『そ、これから。八番街ステーションに午後3時集合だぞ、と!』
ヒロインは再び時計を見て、慌てて立ち上がった。
「ちょっと待って!そんなに早く準備なんて…」
『この時間逃すと、次の上映、夜なんだぞ、と。じゃあまたあとで』
反論の隙をヒロインに一切与えず、レノは一方的に時間を決めると電話を切ってしまった。
ヒロインは電話が切れた音を耳元で聞きながら、頭をフル回転させていた。普段なら、化粧をして出かけるまで1時間以上かかる。移動を考えるととても間に合わない。つまり、どこかの時間を削らなければならない。
「ほんっとう、強引!」
映画の上映時間が迫っているならば仕方ないが、それならば何故もっと余裕を持って連絡してこなかったのか。ヒロインは少しレノに怒りを感じながらも、待ち合わせに遅れるわけにはいかないと思い、慌てて準備に取り掛かった。
いつものようにばっちり化粧をする時間はないとふんだヒロインは、薄い化粧に合うように地味めのゆったりとしたワンピースを選んだ。化粧はいつもの半分以下の時間で見苦しくない程度に。そのおかげで、カバンと携帯を掴んで家を出るまで30分。最短記録だ。
あとは最寄り駅から電車に乗るだけだ。さすがにいつものピンヒールでは速く歩けないので、今日は近場に買い物に行くとき用のローヒールのパンプスを選んだ。
無事、時間通りに八番街ステーションに着いたものの、駅舎のガラス窓に映る自分の姿を見て、ヒロインは急激な羞恥心に襲われた。会社に行くときとは全く異なる化粧と格好。特に薄い化粧は素の自分を見ているようで直視できない。コートの下の服も地味な色合いで、自分を守る鎧が剥がされたような気分だった。
しかし、今更約束を放って帰ることもできないので、ヒロインはマフラーで顔の半分を隠し、コートのボタンをしっかりと留め、ガラス窓に映る自分から目を逸らした。
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年始も数日が過ぎ、休暇も残すところあとわずかとなった頃、ヒロインはいつものようにソファでうたた寝をしていた。
そこにけたたましい着信音が鳴り響いた。
連絡など誰からも来ないと油断していたこともあり、突然の着信音に驚いてヒロインは飛び起きた。そのとき、腹の上に載っていた文庫本がぱさりと床に落ちた。
ヒロインは文庫本を拾って机に置いてから携帯を手にとった。レノからの電話だった。
「もしもし…」
寝起きのぼんやりとした声で応答すると、電話の向こうでレノが少し笑ったのがわかった。
『昼寝中だったか?起こしちまって悪かったな』
油断していたのもあったが、休みに入って気が緩んでいたようだ。ヒロインは一つ咳払いすると、ソファに座り直し、姿勢を正した。ピンと背筋を伸ばせば、普段の調子が戻ってくる。
「大丈夫。それで、何か用?」
『そんなそっけなくしなくてもいいだろ。せっかくの休みだぞ、と』
レノは電話の向こうで苦笑しているようだった。レノに指摘され、ヒロインはつんけんした態度を悔いた。どうしてこうも可愛げのない態度しか取れないのだろう。
明けましておめでとう。
無事でよかった。
お仕事お疲れ様。
レノも今日から休み?
等々、いくらでも話すことはあるのに。よりにもよって『何か用?』だ。この契約期間を楽しく過ごすために素直になろうと決めたにも関わらずこれでは、先月の二の舞になってしまう。
ヒロインは少し電話を遠ざけ、深呼吸をした。そして、素直になる、素直になる…と、自分に言い聞かせるように心の中で何度も繰り返した。
「年明け早々に『何か用?』は、その…よくなかった。ごめん」
『まぁ、そうだな。じゃあその詫びってことで、これから映画付き合ってくれよ』
電話越しでもレノがにやりと笑ったのが手にとるようにわかった。
「え、これからって…」
ヒロインは壁掛け時計に目をやった。時計は午後2時過ぎを指していた。
『そ、これから。八番街ステーションに午後3時集合だぞ、と!』
ヒロインは再び時計を見て、慌てて立ち上がった。
「ちょっと待って!そんなに早く準備なんて…」
『この時間逃すと、次の上映、夜なんだぞ、と。じゃあまたあとで』
反論の隙をヒロインに一切与えず、レノは一方的に時間を決めると電話を切ってしまった。
ヒロインは電話が切れた音を耳元で聞きながら、頭をフル回転させていた。普段なら、化粧をして出かけるまで1時間以上かかる。移動を考えるととても間に合わない。つまり、どこかの時間を削らなければならない。
「ほんっとう、強引!」
映画の上映時間が迫っているならば仕方ないが、それならば何故もっと余裕を持って連絡してこなかったのか。ヒロインは少しレノに怒りを感じながらも、待ち合わせに遅れるわけにはいかないと思い、慌てて準備に取り掛かった。
いつものようにばっちり化粧をする時間はないとふんだヒロインは、薄い化粧に合うように地味めのゆったりとしたワンピースを選んだ。化粧はいつもの半分以下の時間で見苦しくない程度に。そのおかげで、カバンと携帯を掴んで家を出るまで30分。最短記録だ。
あとは最寄り駅から電車に乗るだけだ。さすがにいつものピンヒールでは速く歩けないので、今日は近場に買い物に行くとき用のローヒールのパンプスを選んだ。
無事、時間通りに八番街ステーションに着いたものの、駅舎のガラス窓に映る自分の姿を見て、ヒロインは急激な羞恥心に襲われた。会社に行くときとは全く異なる化粧と格好。特に薄い化粧は素の自分を見ているようで直視できない。コートの下の服も地味な色合いで、自分を守る鎧が剥がされたような気分だった。
しかし、今更約束を放って帰ることもできないので、ヒロインはマフラーで顔の半分を隠し、コートのボタンをしっかりと留め、ガラス窓に映る自分から目を逸らした。
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