恋人契約 - 新規 -
ヒロイン
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定時は過ぎてしまったが、なんとか当日中に仕事を終わらせたヒロインは、いつもより遅い時間ではあったが、日課のジムに向かっていた。
神羅ビルから少し離れたところにあるジムは、神羅社員が少ないのでヒロインのお気に入りの場所だった。
いつものようにロッカールームで着替えて化粧を落とした。そのとき現れた顔は、なんとも冴えない表情をしていた。昼間のことが原因なのは間違いなかった。
ただ男の誘いを断っただけ。その他大勢にしてきたのと同じなのに、どうしても罪悪感が拭えなかった。
自分が傷ついたから、仕返しただけ。
今日一日そう何度も言い聞かせて、自分の行動を正当化しようとした。しかし、一向に気分は晴れなかった。まるで雨が降る寸前の曇天のようだった。
ジムで身体を動かせば、今の沈んだ心もすっきりするかと思ったが、真っ黒だったのが濃い灰色になったぐらいで、さして効果はなかった。相変わらず、鏡に写った顔は憂い一色だった。
運動がダメならば、あとはもう時間しか頼るものがない。きっと、レノとの契約が終わり、お互いに関係がなくなって時間が経てば、この沈んだ心もいつもの調子を取り戻してくれるに違いない。そう信じて、ヒロインは鏡に写った自分の顔に無理矢理笑顔を浮かべて見せた。
「悲しんだり笑ったり、忙しいな」
突然降ってきた声に、ヒロインは弾かれたように振り返った。そこにいたのは、ヒロインの憂いの原因でもあるレノだった。
どうしてここにいるのか。
すぐそこまで出かかった言葉をなんとか飲み込んだ。
「驚かせて悪かったな。あんたがあんまり落ち込んでたみたいだったから、つい、な」
ヒロインはレノにはわからない程度に首を傾げた。もしかして、レノは自分が『ヒロイン』だと気づいていないのではないかと。気づいていたら、レノなら名前を呼んだだろう。
それならば、気づかれる前に去るだけだ。ヒロインは気にしないでくれと、いつもより高めの声で言うと、口元に笑みを浮かべてレノの横を通り過ぎようとした。
そのとき、レノが眉をひそめたのが見えた。
「ん?あんた、どこかで――」
ヒロインは冷静を装って、足の速さは変えずにロッカールームに向かった。しかし、それが間違いだった。
素早く前に回り込み、ヒロインの歩みを遮ったレノが、頭から爪先まで視線を走らせた。そして、ニヤリと笑った。
「逃げようったってそうはいかないぞ、と。ヒロインちゃん?」
すっぴんにも関わらず、正体を言い当てたレノの観察眼に舌を巻きつつも、絶対に会いたくなかった人物の到来にヒロインは顔を曇らせた。
「…何でわかったんですか?」
「スタイルと、あとは――その、作り笑いだな」
ヒロインはタオルで口元を隠し、顔を背けた。しかし、レノの視線が追ってくる。逃げても逃げても、どこまでも。きっと、逃してはくれないだろう。それならば今ここで終わらせてしまおうと、ヒロインは腹をくくった。
「話、聞きますよ」
「じゃあ、着替えたあとに入口集合だぞ、と」
「え、あの…ちょっと!」
ヒロインとしては今ここで話をしたかったのだが、レノは勝手に決めると、さっさとロッカールームに引き上げていった。取り残されたヒロインは大きな溜息をついた。
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神羅ビルから少し離れたところにあるジムは、神羅社員が少ないのでヒロインのお気に入りの場所だった。
いつものようにロッカールームで着替えて化粧を落とした。そのとき現れた顔は、なんとも冴えない表情をしていた。昼間のことが原因なのは間違いなかった。
ただ男の誘いを断っただけ。その他大勢にしてきたのと同じなのに、どうしても罪悪感が拭えなかった。
自分が傷ついたから、仕返しただけ。
今日一日そう何度も言い聞かせて、自分の行動を正当化しようとした。しかし、一向に気分は晴れなかった。まるで雨が降る寸前の曇天のようだった。
ジムで身体を動かせば、今の沈んだ心もすっきりするかと思ったが、真っ黒だったのが濃い灰色になったぐらいで、さして効果はなかった。相変わらず、鏡に写った顔は憂い一色だった。
運動がダメならば、あとはもう時間しか頼るものがない。きっと、レノとの契約が終わり、お互いに関係がなくなって時間が経てば、この沈んだ心もいつもの調子を取り戻してくれるに違いない。そう信じて、ヒロインは鏡に写った自分の顔に無理矢理笑顔を浮かべて見せた。
「悲しんだり笑ったり、忙しいな」
突然降ってきた声に、ヒロインは弾かれたように振り返った。そこにいたのは、ヒロインの憂いの原因でもあるレノだった。
どうしてここにいるのか。
すぐそこまで出かかった言葉をなんとか飲み込んだ。
「驚かせて悪かったな。あんたがあんまり落ち込んでたみたいだったから、つい、な」
ヒロインはレノにはわからない程度に首を傾げた。もしかして、レノは自分が『ヒロイン』だと気づいていないのではないかと。気づいていたら、レノなら名前を呼んだだろう。
それならば、気づかれる前に去るだけだ。ヒロインは気にしないでくれと、いつもより高めの声で言うと、口元に笑みを浮かべてレノの横を通り過ぎようとした。
そのとき、レノが眉をひそめたのが見えた。
「ん?あんた、どこかで――」
ヒロインは冷静を装って、足の速さは変えずにロッカールームに向かった。しかし、それが間違いだった。
素早く前に回り込み、ヒロインの歩みを遮ったレノが、頭から爪先まで視線を走らせた。そして、ニヤリと笑った。
「逃げようったってそうはいかないぞ、と。ヒロインちゃん?」
すっぴんにも関わらず、正体を言い当てたレノの観察眼に舌を巻きつつも、絶対に会いたくなかった人物の到来にヒロインは顔を曇らせた。
「…何でわかったんですか?」
「スタイルと、あとは――その、作り笑いだな」
ヒロインはタオルで口元を隠し、顔を背けた。しかし、レノの視線が追ってくる。逃げても逃げても、どこまでも。きっと、逃してはくれないだろう。それならば今ここで終わらせてしまおうと、ヒロインは腹をくくった。
「話、聞きますよ」
「じゃあ、着替えたあとに入口集合だぞ、と」
「え、あの…ちょっと!」
ヒロインとしては今ここで話をしたかったのだが、レノは勝手に決めると、さっさとロッカールームに引き上げていった。取り残されたヒロインは大きな溜息をついた。
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