恋人契約 - 新規 -
ヒロイン
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翌日、出社したヒロインが一番最初に耳にしたのは、同じ部門の女性社員たちの話だった。レノと付き合い始めたことは既に噂になっているらしい。
これで煩わしいことから解放されるとほっと胸を撫で下ろそうとしたとき、『所詮は見た目だけのクソ女』という言葉が聞こえてきた。
自分に向けられた明確な悪意。何度も何度も陰で、または面と向かって言われ続けた自分に対する他人の評価。それは皮肉にも自分を的確に表現しているとヒロインは思っていた。
(こっちは考えてなかったな…)
同性からのやっかみ、嫉妬、悪意。レノと付き合っているフリをし始めてまだ1日も経っていないのに、既に1ヶ月分ぐらいは陰口を聞いている気分だ。それだけレノが人気者で、ファンが多いという証拠だろう。
投げつけられた悪意をいつもの場所に収めて、素知らぬ顔をしていると、同僚たちはつまらなそうな顔をして仕事に戻っていった。
あくまでレノとは付き合っているフリなので、もう会うこともないだろう。そうなれば、自然と周囲も静かになるはずだと期待したところに、レノからのメッセージが着信した。それは、今日のランチの誘いだった。
ヒロインは思わず顔をしかめたが、例の契約の件の話をしたいと付け加えられていたので、渋々それを了承した。メッセージでは気が進まないことは伝わらないだろうが。
半ば義務感でヒロインはリフレッシュフロアに向かった。レノはすぐに見つかった。遠目からでもあの赤毛は目立つ。
ヒロインは周囲からの視線を感じながら、レノに近づいた。
「レノさ…」
後ろから声をかけると、振り返ったレノが満面の笑みを浮かべた。その時点で嫌な予感を感じたヒロインは一歩後退ろうとしたが、レノの動きの方が早かった。
気づけばレノに抱きしめられ、軽く頬にキスをされた。
周囲から女性たちの小さな悲鳴が上がった。
それで我に返ったヒロインは、顔を上げてレノを睨みつけた。
「何の真似ですか?」
威嚇するように低く押さえた声を出したが、タークスには素人など脅威の数には入らないのだろう。全く意に介した様子もなく、レノはヒロインの胸元に視線を落とし、にやりと笑った。
「いい眺めだな」
二人の体の間で潰れた胸が、大きく開いた襟元から覗いていた。
「ふざけるのもいい加減に…」
ヒロインはレノの腕の中で身を捩り、右手を振り上げようとした。しかし、そこはさすがタークス。拘束から抜けたそうとした右腕は、レノによって押さえつけられた。
「おっと、契約期間中、そういうのは控えてほしいぞ、と」
みんなが見ていると耳元で囁かれ、ヒロインは苦虫を噛み潰したような顔をレノの胸元に押し付けると、レノの背に腕を回した。
「これで満足しました?」
「よくできました」
顔を上げると、レノは満面の笑みを浮かべていた。一人楽しそうにしているのが、とても腹立たしい。
「それにしても、ヒロインちゃん、女性社員に嫌われ過ぎだぞ、と」
もしその言葉を浴びせられたのが今日でなかったなら、余計なお世話だとレノを睨みつけることもできただろう。しかし、既に午前中だけで多くの悪意を向けられていたヒロインには、それをさらりと流す心の余裕がなくなっていた。
散々言われ続け、自覚していたことであっても、改めて他人の言葉で認識させられるのは堪えた。動揺した心が悲鳴を上げそうになり、ヒロインは一度上げた顔を伏せた。
「…もう、いいですか。オフィスに戻っても」
精一杯腹に力を入れ、ヒロインはなんとか言葉を絞り出した。
胸の間に手を入れ、レノの胸板を軽く押すと、簡単に二人の距離は開いた。
レノの言葉は裏表がない分、ストレートに心に響く。それが悪い方にばかり働くので、レノに悪意がなかったとしても、もう会いたくないと思うには十分だった。
ヒロインは一度深呼吸すると、いつものすました表情を作ってから顔を上げた。
そして、少し背伸びしてレノの頬に口づけた。
「ごめんなさい。午後の仕事の準備しなきゃ」
これでこのぎくしゃくした雰囲気は周囲には伝わらないだろう。
ヒロインはまともにレノの顔を見ずに、リフレッシュフロアをあとにした。
去り際、レノの口が開かれたように見えたが、ヒロインは足を止めなかった。
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これで煩わしいことから解放されるとほっと胸を撫で下ろそうとしたとき、『所詮は見た目だけのクソ女』という言葉が聞こえてきた。
自分に向けられた明確な悪意。何度も何度も陰で、または面と向かって言われ続けた自分に対する他人の評価。それは皮肉にも自分を的確に表現しているとヒロインは思っていた。
(こっちは考えてなかったな…)
同性からのやっかみ、嫉妬、悪意。レノと付き合っているフリをし始めてまだ1日も経っていないのに、既に1ヶ月分ぐらいは陰口を聞いている気分だ。それだけレノが人気者で、ファンが多いという証拠だろう。
投げつけられた悪意をいつもの場所に収めて、素知らぬ顔をしていると、同僚たちはつまらなそうな顔をして仕事に戻っていった。
あくまでレノとは付き合っているフリなので、もう会うこともないだろう。そうなれば、自然と周囲も静かになるはずだと期待したところに、レノからのメッセージが着信した。それは、今日のランチの誘いだった。
ヒロインは思わず顔をしかめたが、例の契約の件の話をしたいと付け加えられていたので、渋々それを了承した。メッセージでは気が進まないことは伝わらないだろうが。
半ば義務感でヒロインはリフレッシュフロアに向かった。レノはすぐに見つかった。遠目からでもあの赤毛は目立つ。
ヒロインは周囲からの視線を感じながら、レノに近づいた。
「レノさ…」
後ろから声をかけると、振り返ったレノが満面の笑みを浮かべた。その時点で嫌な予感を感じたヒロインは一歩後退ろうとしたが、レノの動きの方が早かった。
気づけばレノに抱きしめられ、軽く頬にキスをされた。
周囲から女性たちの小さな悲鳴が上がった。
それで我に返ったヒロインは、顔を上げてレノを睨みつけた。
「何の真似ですか?」
威嚇するように低く押さえた声を出したが、タークスには素人など脅威の数には入らないのだろう。全く意に介した様子もなく、レノはヒロインの胸元に視線を落とし、にやりと笑った。
「いい眺めだな」
二人の体の間で潰れた胸が、大きく開いた襟元から覗いていた。
「ふざけるのもいい加減に…」
ヒロインはレノの腕の中で身を捩り、右手を振り上げようとした。しかし、そこはさすがタークス。拘束から抜けたそうとした右腕は、レノによって押さえつけられた。
「おっと、契約期間中、そういうのは控えてほしいぞ、と」
みんなが見ていると耳元で囁かれ、ヒロインは苦虫を噛み潰したような顔をレノの胸元に押し付けると、レノの背に腕を回した。
「これで満足しました?」
「よくできました」
顔を上げると、レノは満面の笑みを浮かべていた。一人楽しそうにしているのが、とても腹立たしい。
「それにしても、ヒロインちゃん、女性社員に嫌われ過ぎだぞ、と」
もしその言葉を浴びせられたのが今日でなかったなら、余計なお世話だとレノを睨みつけることもできただろう。しかし、既に午前中だけで多くの悪意を向けられていたヒロインには、それをさらりと流す心の余裕がなくなっていた。
散々言われ続け、自覚していたことであっても、改めて他人の言葉で認識させられるのは堪えた。動揺した心が悲鳴を上げそうになり、ヒロインは一度上げた顔を伏せた。
「…もう、いいですか。オフィスに戻っても」
精一杯腹に力を入れ、ヒロインはなんとか言葉を絞り出した。
胸の間に手を入れ、レノの胸板を軽く押すと、簡単に二人の距離は開いた。
レノの言葉は裏表がない分、ストレートに心に響く。それが悪い方にばかり働くので、レノに悪意がなかったとしても、もう会いたくないと思うには十分だった。
ヒロインは一度深呼吸すると、いつものすました表情を作ってから顔を上げた。
そして、少し背伸びしてレノの頬に口づけた。
「ごめんなさい。午後の仕事の準備しなきゃ」
これでこのぎくしゃくした雰囲気は周囲には伝わらないだろう。
ヒロインはまともにレノの顔を見ずに、リフレッシュフロアをあとにした。
去り際、レノの口が開かれたように見えたが、ヒロインは足を止めなかった。
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