恋人契約 - 新規 -
ヒロイン
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神羅ビル64階リフレッシュフロア。
クリスマスと年末という一大イベントを控えていることもあり、年末の駆け込み仕事に追われつつも、どこか浮ついた空気が社内に漂っていた。
しかし、その一角――最も入口から遠く、柱の陰になって目立たない席の周辺だけは周囲とは真逆で、険悪な雰囲気になっていた。
その二人がけの席に向かい合って座る男は相手に媚びる作り物の笑顔を浮かべていたが、対して女性――ヒロインはあからさまに不機嫌な表情をしていた。眉間に皺を刻み、目を細め、口をへの字に曲げ、それらは丁寧に施された化粧を台無しにしていた。
ヒロインは周りからどう見えているかわかった上で、その表情で男に向き合っていた。
醜いと思われればよし、そうでなくとも相手に負の感情を隠さずに向けている姿に幻滅してくれればそれでよかった。
だが男はヒロインに怯むことなく、なおも食い下がっていた。
この俺が口説いているのだから、この尻軽女が落ちないはずはない。
男の目は歪んだ自信に満ちており、それを見てヒロインは辟易した。
「遊びでもいいからさ、付き合おうぜ?」
『遊びでも』などと平気で口にするところはある意味尊敬に値する。『自分は最低です』と自己紹介をしておきながら恥じる様子を見せない上に、ヒロインの大きく開いた服の胸元から覗く谷間を凝視する恥知らずな男の行動は、最早怒りを通り越して呆れに変わっていた。
ヒロインはわざと腕で胸を寄せ、谷間を強調しながら男の方に身体を乗り出した。
男の鼻の下がはっきりとわかるぐらい伸びた。
「ねぇ」
怒りの表情から一転。ヒロインは首を傾げ、口角をわずかに上げた。猫撫で声で囁くと、男の口元がだらしなく緩んだ。
「そんなに私とヤりたい?」
殊更胸を強調し、テーブルに手をついて男に迫ると、男は壊れた人形のように何度も首を縦に振っていた。そして、男が胸を触ろうとヒロインの方に手を伸ばしたところで、ヒロインは椅子に座り直して足を組んだ。男の手は虚しく、空を切った。
男はヒロインの胸元に釘付けだった。だから男は、ヒロインがすっと目を細めたことに気づいていなかった。
「余裕のない男は嫌い。ヤりたいだけなら他当たってよ」
わずかに顎を上げ、見下したように男を見ると、みるみる男の顔が怒りで赤くなっていった。その拳が細かく震えているのが見えたが、流石に手を上げるほど落ちてはいないようだった。
「このクソ女」
男は吐き捨てるように言うと、ぶつけようのない怒りを抱えたまま、大股でリフレッシュフロアを出ていった。
ヒロインは口の端を歪めた。
「どっちがクソなんだか」
散々言われ慣れた罵倒だったので、怒りは湧かなかった。
しかし、毎年恒例ではあるが、クリスマス直前に手頃な相手を求める男をあしらうのは、いい加減疲れてきた。
寄ってくるのはただヤりたいだけの男ばかり。こちらは顔も名前も知らないのに、男たちはよく知った体でやってくる。
『簡単にヤれる、尻の軽い女』
彼らは例に漏れることなく、ヒロインの身体を上から下まで舐め回すように見る。まるで店頭に飾られている商品を値踏みするかのように。そして、彼らのお眼鏡に叶うと、一様にいやらしい笑みを浮かべ、身体に触れようと手を伸ばす。
誰も彼も皆同じ。
綺麗でスタイルのいい女を組み敷いて、自分の自尊心を満たしたいだけ。つまり、見た目のいい女なら誰でもいいのだ。
今日も不愉快な一日だったと溜息をつき、ヒロインは帰ろうと立ち上がった。
そのとき、ちょうど自分の正面の席に座っている男女の姿が目に入った。
男は派手な赤毛で、頭にゴーグルをつけている。一見して遊び人とわかった。
女はヒロインに背を向けているので容貌はわからなかったが、仕草を見ていると、随分男を誘い慣れているように見えた。
腰をくねらせ、身を乗り出し、猫撫で声を出す。
まるで先程までの自分を見ているようだった。それは、哀れな道化が必死に笑わせようとしている姿にとてもよく似ていた。
ヒロインは彼女に自分を重ね、そのあまりの滑稽さに思わず吹き出した。
そのとき、男と目が合った。
男はこちらを見てニヤリと笑うと、目の前の女性に何かを囁いた。
「最低!」
パン!と小気味いい音が響いた。
女性が手を思い切り振り上げ、男性の頬を打ったのだ。女性は、先程の男と同じように肩を怒らせ、大股で去っていった。
まるでリプレイ映像だった。
ヒロインは映画でも見ているかのような気分で、一連の出来事を見ていた。
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クリスマスと年末という一大イベントを控えていることもあり、年末の駆け込み仕事に追われつつも、どこか浮ついた空気が社内に漂っていた。
しかし、その一角――最も入口から遠く、柱の陰になって目立たない席の周辺だけは周囲とは真逆で、険悪な雰囲気になっていた。
その二人がけの席に向かい合って座る男は相手に媚びる作り物の笑顔を浮かべていたが、対して女性――ヒロインはあからさまに不機嫌な表情をしていた。眉間に皺を刻み、目を細め、口をへの字に曲げ、それらは丁寧に施された化粧を台無しにしていた。
ヒロインは周りからどう見えているかわかった上で、その表情で男に向き合っていた。
醜いと思われればよし、そうでなくとも相手に負の感情を隠さずに向けている姿に幻滅してくれればそれでよかった。
だが男はヒロインに怯むことなく、なおも食い下がっていた。
この俺が口説いているのだから、この尻軽女が落ちないはずはない。
男の目は歪んだ自信に満ちており、それを見てヒロインは辟易した。
「遊びでもいいからさ、付き合おうぜ?」
『遊びでも』などと平気で口にするところはある意味尊敬に値する。『自分は最低です』と自己紹介をしておきながら恥じる様子を見せない上に、ヒロインの大きく開いた服の胸元から覗く谷間を凝視する恥知らずな男の行動は、最早怒りを通り越して呆れに変わっていた。
ヒロインはわざと腕で胸を寄せ、谷間を強調しながら男の方に身体を乗り出した。
男の鼻の下がはっきりとわかるぐらい伸びた。
「ねぇ」
怒りの表情から一転。ヒロインは首を傾げ、口角をわずかに上げた。猫撫で声で囁くと、男の口元がだらしなく緩んだ。
「そんなに私とヤりたい?」
殊更胸を強調し、テーブルに手をついて男に迫ると、男は壊れた人形のように何度も首を縦に振っていた。そして、男が胸を触ろうとヒロインの方に手を伸ばしたところで、ヒロインは椅子に座り直して足を組んだ。男の手は虚しく、空を切った。
男はヒロインの胸元に釘付けだった。だから男は、ヒロインがすっと目を細めたことに気づいていなかった。
「余裕のない男は嫌い。ヤりたいだけなら他当たってよ」
わずかに顎を上げ、見下したように男を見ると、みるみる男の顔が怒りで赤くなっていった。その拳が細かく震えているのが見えたが、流石に手を上げるほど落ちてはいないようだった。
「このクソ女」
男は吐き捨てるように言うと、ぶつけようのない怒りを抱えたまま、大股でリフレッシュフロアを出ていった。
ヒロインは口の端を歪めた。
「どっちがクソなんだか」
散々言われ慣れた罵倒だったので、怒りは湧かなかった。
しかし、毎年恒例ではあるが、クリスマス直前に手頃な相手を求める男をあしらうのは、いい加減疲れてきた。
寄ってくるのはただヤりたいだけの男ばかり。こちらは顔も名前も知らないのに、男たちはよく知った体でやってくる。
『簡単にヤれる、尻の軽い女』
彼らは例に漏れることなく、ヒロインの身体を上から下まで舐め回すように見る。まるで店頭に飾られている商品を値踏みするかのように。そして、彼らのお眼鏡に叶うと、一様にいやらしい笑みを浮かべ、身体に触れようと手を伸ばす。
誰も彼も皆同じ。
綺麗でスタイルのいい女を組み敷いて、自分の自尊心を満たしたいだけ。つまり、見た目のいい女なら誰でもいいのだ。
今日も不愉快な一日だったと溜息をつき、ヒロインは帰ろうと立ち上がった。
そのとき、ちょうど自分の正面の席に座っている男女の姿が目に入った。
男は派手な赤毛で、頭にゴーグルをつけている。一見して遊び人とわかった。
女はヒロインに背を向けているので容貌はわからなかったが、仕草を見ていると、随分男を誘い慣れているように見えた。
腰をくねらせ、身を乗り出し、猫撫で声を出す。
まるで先程までの自分を見ているようだった。それは、哀れな道化が必死に笑わせようとしている姿にとてもよく似ていた。
ヒロインは彼女に自分を重ね、そのあまりの滑稽さに思わず吹き出した。
そのとき、男と目が合った。
男はこちらを見てニヤリと笑うと、目の前の女性に何かを囁いた。
「最低!」
パン!と小気味いい音が響いた。
女性が手を思い切り振り上げ、男性の頬を打ったのだ。女性は、先程の男と同じように肩を怒らせ、大股で去っていった。
まるでリプレイ映像だった。
ヒロインは映画でも見ているかのような気分で、一連の出来事を見ていた。
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