担当は金曜日
ヒロイン
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Saturday 5:50
「お疲れさん。よく頑張ったな」
ヒロインはがばっと起き上がり、声のした方に顔を向けた。
「レノ…?」
「ひどい顔だな」
レノが苦笑し、手を伸ばしてくる。
その細く長い指が頬を伝う涙を拭った。
「誰のせいだと思って…」
ヒロインは鋭くレノを睨んだ。
「オレのせい、だよな。まさか周りがあんなふうに噂してたとは知らなくてよ。本当に悪かった」
「噂って…」
ヒロインは眉をひそめた。
「昨日の夜、ここで話してただろ。ヒロインの同僚が」
「え」
昨日、ここで。
ヒロインは目を瞬かせた。
「あれ聞いたときはぶん殴ってやろうかと思ったぞ、と」
レノはサーバが止まった文句を言いに来ていたらしい。
残業している上、仕事が進まなくなってイライラしていたところにあの話を聞き、危うくオフィスを血まみれにするところだったと、レノは明るく言ってのけた。
「そこまでするのは、少し可哀想な気がするけど…」
「やっぱり、ヒロインは優しいな。そういうとこ、好きだぞ、と」
『好き』。
そのたった一言に敏感に反応したヒロインは顔が熱くなるのを感じた。
「強気な態度取ってても、本当は優しくて繊細で――だから、傷ついたのも、傷つけたのもわかってる。これからは、一緒にいる時間増やそうな」
レノの顔が近づき、唇が触れ合った。
「頑張ったヒロインにご褒美だぞ、と」
甘い言葉も、キスも、別にこれが初めてというわけではないのに、レノの言葉、一挙手一投足に胸が高鳴る。
それだけ、レノは特別だった
帰る準備をすると言って、レノはオフィスを出ていった。
ヒロインはまだドキドキと早鐘を打つ心臓を押さえながら、大きく深呼吸した。
今日は土曜日。
いつもは寂しかったこの日も、今日はいい日になる予感がした。
Saturday 6:15 - Supplement -
正面玄関で待っていると、レノが車でやってきた。
ヒロインは助手席に乗り込んだ。
どこに行きたいかを聞かれたので、ヒロインは正直にお腹が空いたと言った。
すると、レノがオススメの店があると言うので、郊外にあるというその店に向かうことにした。
その道中、ヒロインはどうしても気になっていたことを勇気を出して聞いてみることにした。
「ねえ、前に言ってた『会うのは金曜』って、あれってどういうことだったの?」
レノにとっては不意打ちだったのか、一瞬その横顔が引きつった。
すぐに飄々としたいつものレノに戻ったが、ヒロインは目を細め、レノの表情の変化を少しも見逃すまいと、その横顔に視線を向け続けた。
「この車かこの後行くどこかで流血沙汰起こしたくなかったら、今素直に言うべきだと思うな」
しばらくはお互い無言だったが、根負けしたレノが溜息とともに白状し始めた。
「他の女との関係、精算してたんだよ」
「…土曜から木曜の女を?」
「そうそう。で、一昨日無事、全部きれいさっぱりしたから、昨日こそヒロインとエッチするぞ!って思ってたんだけどなー」
ヒロインは冷めた顔でレノを見た。
「じゃあ、金曜の女を選んだ理由は?」
「そりゃ、毎回飲むたびにエロい下着つけてきてくれるような可愛い子が好きだからだぞ、と」
悪びれもせず、満面の笑みでレノが言う。
ヒロインは、恥ずかしさで今すぐ車を飛び降りたい衝動とレノをぶん殴りたい衝動に駆られた。
「っていうのは冗談で、ヒロインと一緒にいるときが一番楽しいって気づいたからだぞ、と。だから、好きだって言ってくれたときは、本当にうれしかった」
赤信号で車が止まった。
そして、レノが真剣な顔で、真っ直ぐこちらを見て言った。
「ヒロイン、オレにはお前だけだ。誰よりも大切にするぞ、と」
「信じてる」
横断歩道を渡る人と一瞬目が合ったような気がしたが、ヒロインは身を乗り出してレノに深く口付けた。
END
2020/09/30
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