旧拍手小説集
ヒロイン
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窓辺の彼女
63Fリフレッシュフロアのカフェテリア。窓際端のお決まりの席。
黒髪、黒縁メガネ、白いシャツを着た地味な女は、今日もそこに座って何かの本を読んでいる。
最近、任務や訓練のあとにカフェテリアに行くと、決まって彼女がいる。
不規則な時間にも関わらず、だ。
初めは偶然だと思っていた。しかし、こうも何度も続くと、何かあるのではないかと勘ぐってしまう。
自分でも自意識過剰だと思うが、気になったら確かめずにはいられない性分。
思い切って、彼女に声をかけてみることにした。
「何読んでるんだ、と」
彼女の前に立ち、当たり障りのない話を振ってみる。
が、彼女はこちらを見ようともしない。聞こえていないのか?
「おーい」
俺は彼女の向かいに座ると、彼女の視界に入るように、下から覗き込んだ。
「うわっ」
彼女は驚いて、飛び上がった。
そのとき、本のタイトルが見えた。
『戦闘オペレーターの心得』
「ちょ、いきなりなんですか!?」
ん?
どこかで聞いたような声…
――前方100m右方向、建物の影に敵二人。注意を。
――いい声してるな。どうせなら、イヤホン越しじゃなくて、直接その声聞いてみたいもんだぞ、と。
――…味方の部隊が建物を包囲します。タークスは周囲の安全確保をお願いします。
――了解、と。
「お前、オペレーターの…」
彼女の顔はみるみる真っ赤になり、ついには本で顔が隠れてしまった。
「もう…どうして…」
恥ずかしさと戸惑いと、そんな感情が乗った声が彼女の口から発せられる。人間らしい感情溢れるその声は、イヤホン越しで聞いた声よりも魅力的で、何より心地よい。
「やっぱ、いい声だぞ、と」
「か、からかわないでください…」
彼女はまだ本で顔を隠したままだ。当然、声も本に遮られ、少しくぐもっている。それが少し残念だ。
そのとき、胸ポケットに入れていた携帯が鳴った。彼女の携帯も、少し遅れて鳴った。
「任務みたいだぞ、と」
「私もです。行きましょう」
ようやく顔を上げた彼女の声は、お仕事用の無感情な声。なんとタイミングの悪いことか。
俺は小さく溜息をついた。
「今日もサポート頼むぞ、と」
「任せてください」
自信が満ちた声と表情。仕事のことになると、スイッチが入るようだ。
面白いやつ。
「…今回も、みんなが無事でありますように」
後ろを歩く彼女がぽつりと呟いた。本当に小さな声だったが、それは暖かな感情がこもった、とても優しい声だった。
思わず口元に笑みが浮かぶ。
「その声で言われたら、戻らないわけにはいかないな」
振り返ると、彼女は再び俯いていた。少し見える耳が赤くなっているのがわかった。
きっとこの任務が終わったら、彼女はまたここにいるだろう。
そのときどんな話をしようか。
退屈な任務にも楽しみができた。
さぁ、さっさと終わらせるぞ、と。
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63Fリフレッシュフロアのカフェテリア。窓際端のお決まりの席。
黒髪、黒縁メガネ、白いシャツを着た地味な女は、今日もそこに座って何かの本を読んでいる。
最近、任務や訓練のあとにカフェテリアに行くと、決まって彼女がいる。
不規則な時間にも関わらず、だ。
初めは偶然だと思っていた。しかし、こうも何度も続くと、何かあるのではないかと勘ぐってしまう。
自分でも自意識過剰だと思うが、気になったら確かめずにはいられない性分。
思い切って、彼女に声をかけてみることにした。
「何読んでるんだ、と」
彼女の前に立ち、当たり障りのない話を振ってみる。
が、彼女はこちらを見ようともしない。聞こえていないのか?
「おーい」
俺は彼女の向かいに座ると、彼女の視界に入るように、下から覗き込んだ。
「うわっ」
彼女は驚いて、飛び上がった。
そのとき、本のタイトルが見えた。
『戦闘オペレーターの心得』
「ちょ、いきなりなんですか!?」
ん?
どこかで聞いたような声…
――前方100m右方向、建物の影に敵二人。注意を。
――いい声してるな。どうせなら、イヤホン越しじゃなくて、直接その声聞いてみたいもんだぞ、と。
――…味方の部隊が建物を包囲します。タークスは周囲の安全確保をお願いします。
――了解、と。
「お前、オペレーターの…」
彼女の顔はみるみる真っ赤になり、ついには本で顔が隠れてしまった。
「もう…どうして…」
恥ずかしさと戸惑いと、そんな感情が乗った声が彼女の口から発せられる。人間らしい感情溢れるその声は、イヤホン越しで聞いた声よりも魅力的で、何より心地よい。
「やっぱ、いい声だぞ、と」
「か、からかわないでください…」
彼女はまだ本で顔を隠したままだ。当然、声も本に遮られ、少しくぐもっている。それが少し残念だ。
そのとき、胸ポケットに入れていた携帯が鳴った。彼女の携帯も、少し遅れて鳴った。
「任務みたいだぞ、と」
「私もです。行きましょう」
ようやく顔を上げた彼女の声は、お仕事用の無感情な声。なんとタイミングの悪いことか。
俺は小さく溜息をついた。
「今日もサポート頼むぞ、と」
「任せてください」
自信が満ちた声と表情。仕事のことになると、スイッチが入るようだ。
面白いやつ。
「…今回も、みんなが無事でありますように」
後ろを歩く彼女がぽつりと呟いた。本当に小さな声だったが、それは暖かな感情がこもった、とても優しい声だった。
思わず口元に笑みが浮かぶ。
「その声で言われたら、戻らないわけにはいかないな」
振り返ると、彼女は再び俯いていた。少し見える耳が赤くなっているのがわかった。
きっとこの任務が終わったら、彼女はまたここにいるだろう。
そのときどんな話をしようか。
退屈な任務にも楽しみができた。
さぁ、さっさと終わらせるぞ、と。
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