すれ違い、片思い。
ヒロイン
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警備員からヒロインの現在位置を聞き、レノはエスカレーターホールの方へ走った。
人のいない静まり返った59階のエスカレーターホールに、人を殴るような鈍い音が響いた。
倒れているヒロインに馬乗りになった男が拳を振り上げている。
レノはすぐさま駆け寄ると、今振り下ろされようとした男の腕を掴み、思い切り捻り上げた。
「ぎゃああああ!」
レノは男の腕を離すと、今度はスーツの襟元を掴み、力任せに引いた。
男が床に転がり、レノはそれを見下ろした。
「おっと、動くなよ。死にたくなかったらな」
レノは電磁ロッドを男の喉元に突きつけた。
「あー、男は確保したぞ、と。悪ぃけど、59階エスカレーターホールに応援頼む」
警備員に連絡を入れたレノは、床に倒れたままのヒロインをそっと抱き起こした。
男に殴られたのだろう、腕が赤く腫れていた。
足には靴もなく、ストッキングも破れていた。
それだけ逃げるのに必死だったのだろう。
しかし、命に別状がないのは、不幸中の幸いだった。
「怖かったな。もう大丈夫だぞ、と」
ゆっくりと頭を撫でてやると、ヒロインが声を押し殺して泣いた。
「あいつ引き渡したら医務室に連れてくから、もう少しだけ我慢してくれ」
ヒロインが頷いたのを確認し、レノはヒロインを抱き上げ、男と距離を取った。
この状態で男が反撃してくることはないだろうが、何より男からヒロインを遠ざけたかった。
レノは監視を兼ねて、男を改めてよく見た。
至って普通の男だった。
(ん?あいつ、昨日の――)
忘れたい記憶が俄に蘇る。今、目の前にいる男は、ヒロインにキスしていたあの男だった。
昨日は二人が付き合うことになったのだと思ったが、この状況は――
「レノさん、ご協力ありがとうございました。あとはこちらで」
「ん、あぁ、頼むぞ、と」
やってきた警備員に声をかけられ、レノの思考が現実に引き戻される。
考えるのは後回しだ。
「ヒロイン、待たせて悪かったな。怪我、見てもらいに行くぞ、と」
「…はい」
ヒロインが顔を伏せたまま頷いた。
レノはヒロインを抱き上げ、医務室へと向かった。
「あんたは外で待つように」
医務室にいたのは、レノが最も苦手なベテランの医師だった。
怪我をするたびに、動きが悪いだの、唾をつけときゃ治るだの、散々小言を言われるからだ。
レノはベッドにヒロインを寝かせると、肩を竦め、言われたとおりに医務室の外で待った。
待つこと30分、医務室の扉が開いた。
「ああ、よかった。待っててくれて」
現れたのはヒロインだった。
あちこちに湿布と包帯が巻かれている痛々しい姿だったが、その顔には笑顔が戻っていた。
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人のいない静まり返った59階のエスカレーターホールに、人を殴るような鈍い音が響いた。
倒れているヒロインに馬乗りになった男が拳を振り上げている。
レノはすぐさま駆け寄ると、今振り下ろされようとした男の腕を掴み、思い切り捻り上げた。
「ぎゃああああ!」
レノは男の腕を離すと、今度はスーツの襟元を掴み、力任せに引いた。
男が床に転がり、レノはそれを見下ろした。
「おっと、動くなよ。死にたくなかったらな」
レノは電磁ロッドを男の喉元に突きつけた。
「あー、男は確保したぞ、と。悪ぃけど、59階エスカレーターホールに応援頼む」
警備員に連絡を入れたレノは、床に倒れたままのヒロインをそっと抱き起こした。
男に殴られたのだろう、腕が赤く腫れていた。
足には靴もなく、ストッキングも破れていた。
それだけ逃げるのに必死だったのだろう。
しかし、命に別状がないのは、不幸中の幸いだった。
「怖かったな。もう大丈夫だぞ、と」
ゆっくりと頭を撫でてやると、ヒロインが声を押し殺して泣いた。
「あいつ引き渡したら医務室に連れてくから、もう少しだけ我慢してくれ」
ヒロインが頷いたのを確認し、レノはヒロインを抱き上げ、男と距離を取った。
この状態で男が反撃してくることはないだろうが、何より男からヒロインを遠ざけたかった。
レノは監視を兼ねて、男を改めてよく見た。
至って普通の男だった。
(ん?あいつ、昨日の――)
忘れたい記憶が俄に蘇る。今、目の前にいる男は、ヒロインにキスしていたあの男だった。
昨日は二人が付き合うことになったのだと思ったが、この状況は――
「レノさん、ご協力ありがとうございました。あとはこちらで」
「ん、あぁ、頼むぞ、と」
やってきた警備員に声をかけられ、レノの思考が現実に引き戻される。
考えるのは後回しだ。
「ヒロイン、待たせて悪かったな。怪我、見てもらいに行くぞ、と」
「…はい」
ヒロインが顔を伏せたまま頷いた。
レノはヒロインを抱き上げ、医務室へと向かった。
「あんたは外で待つように」
医務室にいたのは、レノが最も苦手なベテランの医師だった。
怪我をするたびに、動きが悪いだの、唾をつけときゃ治るだの、散々小言を言われるからだ。
レノはベッドにヒロインを寝かせると、肩を竦め、言われたとおりに医務室の外で待った。
待つこと30分、医務室の扉が開いた。
「ああ、よかった。待っててくれて」
現れたのはヒロインだった。
あちこちに湿布と包帯が巻かれている痛々しい姿だったが、その顔には笑顔が戻っていた。
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