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すれ違い、片思い。

ヒロイン

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ヒロイン

 同日、急な呼び出しがあったため、レノは昼から出社していた。
 社内で警報が鳴ったため、念のため調査してほしいということで、レノは警備員室で監視カメラの映像を眺めていた。
 机に頬杖を付き、欠伸を噛み殺しながらいくつかのモニターを順に見ていく。

「これ、オレ必要か?」

「いや…タークスの手を煩わす案件ではないかもしれませんが、何分規則ですので」

 一緒に画面を眺めている警備員が申し訳無さそうに言う。
 そう、規則だから仕方がない。
 レノは盛大な溜息をつき、モニターに視線を戻した。

「ん?この右上、リアルタイム映像か?」

 エレベーター前でしきりに背後を振り返っている女性が映っていた。
 表情までは見えないが、普通の様子には見えない。

「62階のリアルタイム映像ですね」

 62階、ライブラリフロア。
 レノの心臓が大きく脈打った。
 しばらくして、モニターに映る女性が何やら電話をし始めた。
 それと同時に、レノの隣にある電話が鳴った。

「警備員室だぞ、と」

『…レノ!?』

 電話越しに聞こえてきたのはヒロインの声だった。
 レノは立ち上がり、モニターを凝視した。

「追われてるのか?」

 モニターの中のヒロインが必死に何度も頷いていた。

『どうしよう…あっ、逃げなきゃ!!』

 悲鳴に近い声が電話から聞こえ、ヒロインが駆け出した。

ヒロイン!?」

 通話が途絶えた。

「おい、他のカメラは?」

 レノは62階の他のカメラもモニターに映し出すよう警備員に指示した。
 エレベーターホールからエスカレータ側に逃げるヒロインと、それを追う男性がそれぞれモニターに映った。

「オレが行くから、彼女と男の動き教えてくれ。あと、正面のエレベーター1機、最速で回してくれ」

「了解しました!」

 簡単にイヤホンの通信確認を済ませたレノは、電磁ロッドを持って警備員室を出た。
 警備員は優秀で、最寄りの上層階行きのエレベーターをすぐにレノのいるフロアに回してくれていた。
 エレベーターに飛び乗ったレノは、まず62階のボタンを押した。

『レノさん、女性はエスカレーターで下に向かってます。男もそれを追っていますが、怪我してるのか動きが鈍いので、しばらく時間が稼げるかと』

「なら、彼女が降りたタイミングで上のエスカレーター全部止めてくれ」

『了解です』

 これで少しは男の足止めができるだろう。
 しかし、気持ちが焦る。
 ヒロインの無事を祈ることしかできないのがもどかしい。
 レノはエレベーターのフロアを示す小さなモニターを見ながら、電磁ロッドをきつく握りしめた。



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