やさしい殺人
ヒロイン
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終電前の駅のホームで、彼女に会ったのは偶然だった。
何の感情もない表情で、彼女はぼんやりと線路の方を見ていた。
職業柄、人を観察するのは得意だ。
彼女はきっと、終電に飛び込むだろう。
オレは立ち上がると、彼女が前に一歩踏み出したと同時に手を掴み、無理矢理自分の方に引き寄せた。
電車は無事に駅に到着し、ホームにいた本日最後の客たちを乗せて出発した。
「どうして…」
彼女はその場に座り込むと、両手で顔を覆って泣き出した。
「…あんたが飛び込んだら、電車止まっちまうだろ、と」
帰れなくなるのは困る、と付け加えてから、自分が終電に乗りそびれたことに気づいた。
「ま、止まっても止まらなくても、帰れなくなっちまったけどな」
しばらくして駅員がやってきた。駅を閉めるから出てくれとのことだった。
駅員が来ると、彼女は涙をこらえて立ち上がった。
まだ危なっかしい彼女の手を引き、オレたちは深夜の駅前に出た。
終電が行ってしまった駅前は人もまばらだった。
(さて、どうすっかな…)
彼女は泣き止んではいたが、顔は伏せたままだ。
言ってしまえば赤の他人。
ここで手を放して、深夜の駅前に放り出すのは容易いのだが、この後、死なれたのでは目覚めが悪い。
我ながら面倒なものを背負い込んだと溜息をつきつつ、オレは彼女に話しかけた。
「何で電車に飛び込もうとしたんだ、と」
「…仕事が、嫌になって」
よくありがちな話だ。
「死ぬぐらい辛いなら、辞めたらいいだろ。辞めても、まぁ案外生きていけるもんだぞ、と」
たぶん。
オレは仕事を辞めたことがないから、まぁ憶測だが。
「…私には、家族も、頼れる人もいません。それに、簡単に辞められる仕事ではないので」
タークスも辞められる仕事ではないが、一見普通に見える彼女も、そういった特殊な職業に就いているのだろうか。
全くそうは見えないが。
「何の仕事してるんだ?」
「ある会社の、社長秘書、です」
あぁ、なるほど。
彼女は、我らが神羅カンパニーの社長、プレジデント神羅の秘書、兼、愛人ということか。
秘書課の女性は、ほぼ社長と関係を持ったことがあると噂には聞いていたが、彼女もその一人ということだ。
よくよく彼女を見ると、少し服が乱れている。
何が嫌になったのかは聞かなくてもわかった。
「まだ、死にたいか?」
ここで初めて、彼女が顔を上げた。
丁寧にしていただろう化粧が涙で乱れていた。
潤んだ瞳から一筋こぼれた涙を拭ってやりながら、再度問う。
「それとも、まだ生きたいか?」
「私は――」
.
何の感情もない表情で、彼女はぼんやりと線路の方を見ていた。
職業柄、人を観察するのは得意だ。
彼女はきっと、終電に飛び込むだろう。
オレは立ち上がると、彼女が前に一歩踏み出したと同時に手を掴み、無理矢理自分の方に引き寄せた。
電車は無事に駅に到着し、ホームにいた本日最後の客たちを乗せて出発した。
「どうして…」
彼女はその場に座り込むと、両手で顔を覆って泣き出した。
「…あんたが飛び込んだら、電車止まっちまうだろ、と」
帰れなくなるのは困る、と付け加えてから、自分が終電に乗りそびれたことに気づいた。
「ま、止まっても止まらなくても、帰れなくなっちまったけどな」
しばらくして駅員がやってきた。駅を閉めるから出てくれとのことだった。
駅員が来ると、彼女は涙をこらえて立ち上がった。
まだ危なっかしい彼女の手を引き、オレたちは深夜の駅前に出た。
終電が行ってしまった駅前は人もまばらだった。
(さて、どうすっかな…)
彼女は泣き止んではいたが、顔は伏せたままだ。
言ってしまえば赤の他人。
ここで手を放して、深夜の駅前に放り出すのは容易いのだが、この後、死なれたのでは目覚めが悪い。
我ながら面倒なものを背負い込んだと溜息をつきつつ、オレは彼女に話しかけた。
「何で電車に飛び込もうとしたんだ、と」
「…仕事が、嫌になって」
よくありがちな話だ。
「死ぬぐらい辛いなら、辞めたらいいだろ。辞めても、まぁ案外生きていけるもんだぞ、と」
たぶん。
オレは仕事を辞めたことがないから、まぁ憶測だが。
「…私には、家族も、頼れる人もいません。それに、簡単に辞められる仕事ではないので」
タークスも辞められる仕事ではないが、一見普通に見える彼女も、そういった特殊な職業に就いているのだろうか。
全くそうは見えないが。
「何の仕事してるんだ?」
「ある会社の、社長秘書、です」
あぁ、なるほど。
彼女は、我らが神羅カンパニーの社長、プレジデント神羅の秘書、兼、愛人ということか。
秘書課の女性は、ほぼ社長と関係を持ったことがあると噂には聞いていたが、彼女もその一人ということだ。
よくよく彼女を見ると、少し服が乱れている。
何が嫌になったのかは聞かなくてもわかった。
「まだ、死にたいか?」
ここで初めて、彼女が顔を上げた。
丁寧にしていただろう化粧が涙で乱れていた。
潤んだ瞳から一筋こぼれた涙を拭ってやりながら、再度問う。
「それとも、まだ生きたいか?」
「私は――」
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