真紅、純白のち漆黒
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ヒロインはチャペルの椅子に横になっていた。服はあちこち裂け、血が滲み出している。顔にも裂傷があり、右瞼の上は特にひどい出血で、顔の右半分が赤くなっていた。
「生きてるか?」
「半分」
ヒロインの声は今にも消えそうなぐらい小さかった。
「爆弾、読めてたんだけどな…威力は計算外。この状態は、奇跡かな」
少しだけヒロインの口元に笑みが浮かんだ。そして、左目が真っ直ぐこちらを見た。
「もし、彼女を殺したことが憎いなら、このまま立ち去って。たぶん、30分ぐらいで死ねると思うから」
もう疲れた、とヒロインが言った。
「死にたいのか?」
「あんたがこのままなら、死んだほうがまし」
ヒロインの右頬の一筋分だけ赤色が薄れた。
「調査始めてから、私の顔見た?ねえ、私、どんな顔してたか覚えてる?」
半分だけ赤い顔。
そういえば、こいつ、どんな顔をしていたんだったか。
「ううん、付き合い始めてからずっと。知らないでしょ?私のこと」
ヒロインの表情が長い髪で隠れた。
「今日、あんたの元カノを殺せて清々した。煩わしいったらなかった!」
ヒロインが本気で言っているのか、オレにはわからなかった。理解できるほど、深い付き合いをしてこなかった。
オレは、一体何を見てきたのだろう。
少なくとも、ヒロインはオレの中にいない。元カノが死んだ今も、その前からも。
目の前で死にかけているのに、彼女に対して何の情も湧かない。
恐れも、悲しみも、寂しさも、何もない。
知らない人を見ているような気分だった。
「…救護班、呼んでくるぞ、と」
オレは、自分のためにヒロインの命を繋いだ。
いつか後悔することを恐れて。
「やっぱり、あんたを撃てばよかった」
チャペルを出る寸前、ヒロインが言った。
ヒロインはあのときの怪我が元で、タークスを引退した。
通常、死ぬ以外に除隊はできないルールだったが、ツォンさんが手を回したらしい。今は、軍の教官をしていると聞いた。
毎年この季節が来るたびに思い出す。
憎々しげな表情で、しかし真っ直ぐにこちらを見る二人の女性を。
一人は死に、一人は去り、オレは一人になった。
ヒロインがタークスを去ってしばらくして、ヒロインが結婚するのだと風の噂で聞いた。
ただ、彼女が幸せになれることを祈った。
END
2020/06/09
.
「生きてるか?」
「半分」
ヒロインの声は今にも消えそうなぐらい小さかった。
「爆弾、読めてたんだけどな…威力は計算外。この状態は、奇跡かな」
少しだけヒロインの口元に笑みが浮かんだ。そして、左目が真っ直ぐこちらを見た。
「もし、彼女を殺したことが憎いなら、このまま立ち去って。たぶん、30分ぐらいで死ねると思うから」
もう疲れた、とヒロインが言った。
「死にたいのか?」
「あんたがこのままなら、死んだほうがまし」
ヒロインの右頬の一筋分だけ赤色が薄れた。
「調査始めてから、私の顔見た?ねえ、私、どんな顔してたか覚えてる?」
半分だけ赤い顔。
そういえば、こいつ、どんな顔をしていたんだったか。
「ううん、付き合い始めてからずっと。知らないでしょ?私のこと」
ヒロインの表情が長い髪で隠れた。
「今日、あんたの元カノを殺せて清々した。煩わしいったらなかった!」
ヒロインが本気で言っているのか、オレにはわからなかった。理解できるほど、深い付き合いをしてこなかった。
オレは、一体何を見てきたのだろう。
少なくとも、ヒロインはオレの中にいない。元カノが死んだ今も、その前からも。
目の前で死にかけているのに、彼女に対して何の情も湧かない。
恐れも、悲しみも、寂しさも、何もない。
知らない人を見ているような気分だった。
「…救護班、呼んでくるぞ、と」
オレは、自分のためにヒロインの命を繋いだ。
いつか後悔することを恐れて。
「やっぱり、あんたを撃てばよかった」
チャペルを出る寸前、ヒロインが言った。
ヒロインはあのときの怪我が元で、タークスを引退した。
通常、死ぬ以外に除隊はできないルールだったが、ツォンさんが手を回したらしい。今は、軍の教官をしていると聞いた。
毎年この季節が来るたびに思い出す。
憎々しげな表情で、しかし真っ直ぐにこちらを見る二人の女性を。
一人は死に、一人は去り、オレは一人になった。
ヒロインがタークスを去ってしばらくして、ヒロインが結婚するのだと風の噂で聞いた。
ただ、彼女が幸せになれることを祈った。
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