彼の隣、彼女の隣 2
ヒロイン
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ヒロインが作ってくれた昼食は手が込んでおり、何より美味しかった。手料理など食べたのはいつ以来だっただろうか。
料理の味を褒めると、ヒロインははにかんだように笑った。
「誰かに食べてもらうの初めてだから不安だったけど、お口に合ってよかったです」
それを聞いてレノは、もったいないと心から思った。
「これだけ美味い手料理は初めてだぞ、と」
嘘偽りのない素直な気持ちだった。下心もなく、こんな真っ直ぐな言葉を口にしたのはいつ以来か。ヒロインと話していると、自然と肩の力が抜け、本音が出てしまう。
言ってしまってから、急に恥ずかしくなり、レノはヒロインから少し視線を外した。
「あ、ありがとうございます…」
そう言ったヒロインの顔は、今日食べたトマトのように真っ赤だった。
お互いに恥ずかしくなり、まともに顔すら見ることができない。いい年した大人二人が何を照れているのか。
「そ、そうだ。お茶、淹れますね。あ、コーヒーもありますけど…」
沈黙を嫌うように、ヒロインが立ち上がって言った。
「じゃあコーヒーで」
なんとそっけない返答か!手伝うとか、気の利いた言葉が一切出てこない自分の思考回路に苛立ち、頭をかきむしりたくなる。
ヒロインはキッチンでお湯が沸くのを待っている。
何か気の利いた会話を、と考えていると、ヒロインの方から話しかけてきた。
「あの、気になってたんですけど」
ヒロインが恐る恐るといった感じで視線を向けてきた。
「ん?」
「先日くれた電話の番号、あれもレノさんの番号ですか?」
誰かに携帯のディスプレイを見られたとき、ヒロインに火の粉がかからないようにと思って、咄嗟にしたことだった。
「あれは、私用の方の携帯だぞ、と」
複数使い分けるのが面倒で、私用の携帯はほとんど使っていなかった。私用の連絡も全て社用携帯で受けていたが、今回は役に立ったのだった。
「ヒロインは、そっちに連絡くれてもいいぞ、と。お隣さん特権で」
今日一番のウィットに富んだセリフだった。
少し緊張の色を見せていたヒロインの表情も和らいだ。
「ありがとうございます」
ヤカンがお湯が湧いたことを知らせる。
少しの沈黙。
だんだんそれも心地よくなってきた。
休日に手料理を食べて、のんびりできるなんて、なんて贅沢だろう。
幸せに浸っていたレノの携帯が鳴った。
レノは携帯に手を伸ばすと、ディスプレイに表示された名前に顔をしかめた。上司のツォンだ。今日は休暇と言っていたはずだが。
とりあえず出ないとあとがうるさい。面倒だと思いつつも、通話ボタンを押した。
「ツォンさん、今日は休みだぞ、と」
プライベートと仕事は分ける主義のレノだが、ツォンからの要請内容はそうも言っていられないものだった。
レノは大きく溜息をついた。
「…30分後に本社で。あぁ、出発の準備は頼みますよ、と」
レノは通話を終えると、立ち上がった。
振り返った先には、少し寂しそうな顔をして、コーヒーカップを持ったヒロインがいた。
「悪ぃな。仕事入っちまった」
「…私のことは気にしないでください。今日は、すごく楽しかったです」
頑張って笑顔を作っているヒロインがとても健気だった。
このまま別れてしまうと、なんとなくそれきりになりそうで、レノは一つ約束をすることにした。また会うための約束を。
「ケーキ、あとで感想聞かせてくれよ。おいしかったら、また買ってくるぞ、と」
「はい、必ず。次は一緒に食べましょうね」
「あぁ」
次の休みはいつにしようか。
レノはそう考えながら、ヒロインの家をあとにした。
To be continued...?
2020/05/18
.
料理の味を褒めると、ヒロインははにかんだように笑った。
「誰かに食べてもらうの初めてだから不安だったけど、お口に合ってよかったです」
それを聞いてレノは、もったいないと心から思った。
「これだけ美味い手料理は初めてだぞ、と」
嘘偽りのない素直な気持ちだった。下心もなく、こんな真っ直ぐな言葉を口にしたのはいつ以来か。ヒロインと話していると、自然と肩の力が抜け、本音が出てしまう。
言ってしまってから、急に恥ずかしくなり、レノはヒロインから少し視線を外した。
「あ、ありがとうございます…」
そう言ったヒロインの顔は、今日食べたトマトのように真っ赤だった。
お互いに恥ずかしくなり、まともに顔すら見ることができない。いい年した大人二人が何を照れているのか。
「そ、そうだ。お茶、淹れますね。あ、コーヒーもありますけど…」
沈黙を嫌うように、ヒロインが立ち上がって言った。
「じゃあコーヒーで」
なんとそっけない返答か!手伝うとか、気の利いた言葉が一切出てこない自分の思考回路に苛立ち、頭をかきむしりたくなる。
ヒロインはキッチンでお湯が沸くのを待っている。
何か気の利いた会話を、と考えていると、ヒロインの方から話しかけてきた。
「あの、気になってたんですけど」
ヒロインが恐る恐るといった感じで視線を向けてきた。
「ん?」
「先日くれた電話の番号、あれもレノさんの番号ですか?」
誰かに携帯のディスプレイを見られたとき、ヒロインに火の粉がかからないようにと思って、咄嗟にしたことだった。
「あれは、私用の方の携帯だぞ、と」
複数使い分けるのが面倒で、私用の携帯はほとんど使っていなかった。私用の連絡も全て社用携帯で受けていたが、今回は役に立ったのだった。
「ヒロインは、そっちに連絡くれてもいいぞ、と。お隣さん特権で」
今日一番のウィットに富んだセリフだった。
少し緊張の色を見せていたヒロインの表情も和らいだ。
「ありがとうございます」
ヤカンがお湯が湧いたことを知らせる。
少しの沈黙。
だんだんそれも心地よくなってきた。
休日に手料理を食べて、のんびりできるなんて、なんて贅沢だろう。
幸せに浸っていたレノの携帯が鳴った。
レノは携帯に手を伸ばすと、ディスプレイに表示された名前に顔をしかめた。上司のツォンだ。今日は休暇と言っていたはずだが。
とりあえず出ないとあとがうるさい。面倒だと思いつつも、通話ボタンを押した。
「ツォンさん、今日は休みだぞ、と」
プライベートと仕事は分ける主義のレノだが、ツォンからの要請内容はそうも言っていられないものだった。
レノは大きく溜息をついた。
「…30分後に本社で。あぁ、出発の準備は頼みますよ、と」
レノは通話を終えると、立ち上がった。
振り返った先には、少し寂しそうな顔をして、コーヒーカップを持ったヒロインがいた。
「悪ぃな。仕事入っちまった」
「…私のことは気にしないでください。今日は、すごく楽しかったです」
頑張って笑顔を作っているヒロインがとても健気だった。
このまま別れてしまうと、なんとなくそれきりになりそうで、レノは一つ約束をすることにした。また会うための約束を。
「ケーキ、あとで感想聞かせてくれよ。おいしかったら、また買ってくるぞ、と」
「はい、必ず。次は一緒に食べましょうね」
「あぁ」
次の休みはいつにしようか。
レノはそう考えながら、ヒロインの家をあとにした。
To be continued...?
2020/05/18
.
5/5ページ