レノとランチの約束をして別れ、同僚の元へ戻ると、同僚以外に数人の女性社員が待ち構えていた。同僚以外は知らない人ばかりで、ヒロインは警戒しながら近づいた。

「あんた、レノとどういう関係！？」

　戻って掛けられた第一声。ヒロインは状況がつかめず、言葉に詰まった。
　相手は派手な化粧と格好の、ヒロインが最も苦手とするタイプだった。そのせいでより萎縮してしまい、それがまた相手を苛立たせた。

「黙ってたらわかんないでしょ！？」

「き、昨日、助けてくださったので…その、お礼を…」

　なんとか声を絞り出す。すると今度は一緒にいた同僚が心無い言葉を吐いた。

「え、昨日レノさんが助けてくれたの！？いいなぁ、私も襲われたところ助けてもらいたい！」

　その言葉は、ヒロインの心にぐさりと刺さった。さらに昨日の恐怖がぶり返し、立っているのも辛いぐらいの目眩がする。

（どれだけ怖かったか、知らないくせに…）

　ヒロインは俯いたまま、必死で涙を堪えた。
　周りは好き勝手に話をしている。
　誰もヒロインのことなど考えない。

　レノが彼女と別れたらしい。
　次は私と付き合ってくれないか。
　前の彼女はレノにふさわしくなかった。
　私の方が――

（どうして私がこんな――）

　この状況の原因とも言えるレノに対して、黒い感情が溢れ出しそうになる。
　こんなことなら、いっそ助けてなど――





　先程レノに頭を叩かれた後輩は、昼休憩でリフレッシュフロアに来ていた。
　空いている席を探していると、何やら少し人だかりができている場所があった。
　ちらりとそちらの方に意識を向けると、『レノ』と先輩の名が聞こえてきた。

（また女と揉めてんのか）

　からかってやろうと後輩は足早に人だかりに近づいた。
　しかし、そこにレノの姿はなく、いたのは派手な女性数人と地味な格好の女性だった。派手な女性が何やら地味な女性を詰問している。

「あんたがレノと関わるなんて、レノの時間の無駄よ！」

　後輩はその発言にドン引きした。

（あれ新しい女かよ…趣味悪すぎだろ）

　女癖も悪ければ、女の趣味も悪いレノがなぜモテるのか、後輩は心底疑問に思った。
　それはそうと、地味な方の女性だ。
　彼女はなにやらレノと関わりがあり、派手な方の女性に理不尽な理由で責められているようだった。

（胸糞悪ぃな）

　思ったら即行動。後輩は後先考えず、地味な方の女性の手を引いた。

「こんな性悪女に付き合うことないだろ。行こうぜ」

　顔を上げた女性の目には涙が浮かんでいた。

「は？あんた誰よ！？」

　後輩は女性たちを見回し、嘲笑った。

「お前らがご執心のレノの同僚だよ」

　派手な女性たちの顔が少し青ざめるのを見て、後輩はいい気味だと思った。

　手を引かれた女性は大人しくついてきた。
　リフレッシュフロアを出たところで立ち止まって、手を離した。

「大丈夫か？」

「はい、ありがとうございました…私、仕事があるので、これで」

　彼女は簡潔に礼を言うと、一度もこちらの顔を見ることなく足早に去っていった。
　もう関わり合いになりたくないとばかりに。



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