「あー…飲みすぎたぞ、と」

　視界がぼんやり霞む中、レノは器用に人を避けながら繁華街を歩いていた。
　ふらふらと頼りない足取りでなんとか駅を目指していたが、繁華街を抜けたところで限界が来た。
　帰るのも歩くのもどうでもよくなり、流れに身を任せて意識を手放そうとしたその時、道路の向こう側で何やら揉めている男女が目に入った。

「いいから離して！」

「ここまで来て帰すわけねーだろ！ほらこっちに来い！」

　男が女の手を無理矢理引き、路地に連れ込もうとしている。
　女性は必死に抵抗しているが、男の力には敵わず、前につんのめった。
　その勢いのまま、男女は路地裏に消えた。

「ったく…」

　めんどくせえ。
　そう思ったが、見てしまったものは仕方がない。
　レノは軽く頭を振って、ほんの少し意識を現実に引き戻すと、次の睡魔の波が襲ってくる前にと足早に女性が消えた路地裏に向かった。



「いやっ！お願いやめて！」

　女性の悲鳴が聞こえた方にレノは足を向けた。
　悲鳴が近くなる。
　レノは近くに転がっていた缶をわざと蹴って音を立てた。

「誰だ！？」

　男が振り向くと同時に、レノはその顔面に鋭いパンチを叩き込んだ。さすが泥酔状態の一撃、男はよろめきつつも倒れはしなかった。

「何しやがるてめぇ！」

　お決まりのセリフを吐きながら、頭に血が上った男が拳を振り上げ、レノに向かって一歩踏み出した。
　再び睡魔に襲われたレノは、今にも閉じそうな瞼を無理矢理こじ開け、男の一撃を躱す。
　眠りに落ちる寸前でも難なく攻撃を躱せる相手だと認識すると、もう目を開けているのも限界だった。
　目を細めてなんとか焦点を合わせると、レノは最後の気力を振り絞り、男の背後に回ると、腕で男の首を締めた。

「いいからさっさと寝ろよ、と」

　しばらくは男も抵抗していたが、しばらくすると静かになった。どうやらやっと気を失ってくれたらしい。
　腕を解いたレノは、女性に目をやった。

「なぁ、あんた。一人で帰れる…か？」

　女性は気絶していた。

「マジかよ…」

　さすがにこのまま置いていくわけにも行かず、レノは女性を抱き上げると、大通りで車を拾って帰路についた。



　タクシーの中で何度も女性を起こそうとしたが、一向に目覚める気配はなく、レノはそのまま女性を家に運び込んだ。
　そして、ソファに寝かせる。

「もう限界…だぞ、と」

　レノはそのまま床に仰向けに寝転んで、意識を手放した。



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