サヨウナラ、ハジメマシテ
ヒロイン
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あの日、ヒロインは彼女に地下駐車場に呼び出された。理由はわかっていた。彼女がスパイであることの口止めだ。
ヒロインは、スパイはもうやめろと説得するつもりだった。
「もうこんなことはやめよう?レノが知ったら、きっと悲しむ」
レノの名前を出せば、彼女も思いとどまるだろうと思った。しかし、結果は逆効果だった。
「レノが悲しむ?元カノだか何だか知らないけど、余計なお世話なんだよ!あんたがいるからレノが――」
彼女は迷いなく引き金を引いた。その銃弾は、ヒロインの腹部に突き刺さった。
そこからは無我夢中だった。彼女がトドメの一発を撃つより早く、ヒロインは狙いを定めて引き金を二度引いた。銃弾は、真っ直ぐ彼女の心臓を貫いた。
「彼女が俺のこと疎ましく思ってたのは知ってた。でも、レノのことは本当に大切に想ってた。だから、レノの名前出したら説得できるかと思ったんだけど…」
「失敗だった、か」
「レノ、ごめんな。彼女が死んだのは俺のせいだ」
ヒロインがきつく拳を握った。
「いや、遅かれ早かれ、スパイだったならこうなってたぞ、と」
仲間を裏切って、仲間を殺そうとした。どちらが悪いかは明白だ。
「で、お前は何で死んだふりしてんだ、と」
「死んだふりって… ヒロインは死んだんだよ。あの日、この場所で」
ヒロインは楽しそうに笑った。
「鬱陶しいだろ?ずーっと見られてるの。なら、死んだことにして、第二の人生のスタート!ってな」
「その目は?」
「あぁ…」
ヒロインが軽く眼帯を押さえ、自嘲気味に笑った。
「爆破するときにミスってさ。危うく本当にあの世行きだったよ」
それから、ヒロインは今までのことを話し出した。片目で銃を撃つ練習や、その過程で請け負った裏仕事のせいで『凄腕ガンナー』の噂が立って困っていること。そして、その噂のせいでタークスやらコルネオやらが寄ってきて鬱陶しいこと。
「悪かったな、鬱陶しくて。つーか、コルネオは男もイケるのかよ」
「んなわけねーだろ。用心棒だよ。俺、どっからどう見ても男だろ」
ヒロインは胸のあたりを指差した。確かに、あの豊かな膨らみは跡形もない。なんてもったいないことを…とレノは本気で思った。
「お前、今もったいないとか思っただろ」
ジト目でヒロインがこちらを見る。間髪おかずに心を読まれたレノは、きまり悪くなって顔をそらした。
「ま、ボディスーツで押しつぶしてるだけなんだけどな。だから、たまにステージ上がってるんだぜ、俺」
レノはその一言ではっとした。先日、出てくるのを見逃したのは、男ではなく女の姿で出てきたからではないかと。
「ご明答!レノを騙せるならいけそうだな。つーことで、俺、仕事行くわ」
まるで友達と別れるような軽いノリで別れを告げられ、レノは面食らう。
もう会えないかもしれないのに――
レノが何か言うより早く、ヒロインが抱きついてきた。ヒロインの腕が首に回される。
「レノ、あんな別れ方でごめんね」
何も言わずに去ったことに対して。何も言わずに、死んでしまったことに対して。
レノはヒロインを抱きしめた。最後に触れたときと異なる感触。
「硬いな」
「なかなかいい出来だろ」
首に回していた腕を解き、レノから離れたヒロインがにやりと笑った。
「ところでさ、俺、友達いないんだよね」
「は?」
レノは素っ頓狂な声を上げた。
「ヒロインは死んだけど、よかったら俺と飲み友にならない?」
見た目は男、触り心地も男、喋り方も男、声も機械を使えば男…の元カノ。しかし、機械なしでしゃべれば女で、ボディスーツを脱げば女の身体。元の彼女を知るからこそ、男である現状に慣れない。
そして、いたずらっぽく笑う彼の顔には、彼女の面影がある。
ヒロインは死んだと言われても、受け入れるのには時間がかかりそうだ。
「まぁ、考えとくぞ、と」
「じゃあ、改めて。初めまして、レノ。俺の名前は――」
END
2020/04/27
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ヒロインは、スパイはもうやめろと説得するつもりだった。
「もうこんなことはやめよう?レノが知ったら、きっと悲しむ」
レノの名前を出せば、彼女も思いとどまるだろうと思った。しかし、結果は逆効果だった。
「レノが悲しむ?元カノだか何だか知らないけど、余計なお世話なんだよ!あんたがいるからレノが――」
彼女は迷いなく引き金を引いた。その銃弾は、ヒロインの腹部に突き刺さった。
そこからは無我夢中だった。彼女がトドメの一発を撃つより早く、ヒロインは狙いを定めて引き金を二度引いた。銃弾は、真っ直ぐ彼女の心臓を貫いた。
「彼女が俺のこと疎ましく思ってたのは知ってた。でも、レノのことは本当に大切に想ってた。だから、レノの名前出したら説得できるかと思ったんだけど…」
「失敗だった、か」
「レノ、ごめんな。彼女が死んだのは俺のせいだ」
ヒロインがきつく拳を握った。
「いや、遅かれ早かれ、スパイだったならこうなってたぞ、と」
仲間を裏切って、仲間を殺そうとした。どちらが悪いかは明白だ。
「で、お前は何で死んだふりしてんだ、と」
「死んだふりって… ヒロインは死んだんだよ。あの日、この場所で」
ヒロインは楽しそうに笑った。
「鬱陶しいだろ?ずーっと見られてるの。なら、死んだことにして、第二の人生のスタート!ってな」
「その目は?」
「あぁ…」
ヒロインが軽く眼帯を押さえ、自嘲気味に笑った。
「爆破するときにミスってさ。危うく本当にあの世行きだったよ」
それから、ヒロインは今までのことを話し出した。片目で銃を撃つ練習や、その過程で請け負った裏仕事のせいで『凄腕ガンナー』の噂が立って困っていること。そして、その噂のせいでタークスやらコルネオやらが寄ってきて鬱陶しいこと。
「悪かったな、鬱陶しくて。つーか、コルネオは男もイケるのかよ」
「んなわけねーだろ。用心棒だよ。俺、どっからどう見ても男だろ」
ヒロインは胸のあたりを指差した。確かに、あの豊かな膨らみは跡形もない。なんてもったいないことを…とレノは本気で思った。
「お前、今もったいないとか思っただろ」
ジト目でヒロインがこちらを見る。間髪おかずに心を読まれたレノは、きまり悪くなって顔をそらした。
「ま、ボディスーツで押しつぶしてるだけなんだけどな。だから、たまにステージ上がってるんだぜ、俺」
レノはその一言ではっとした。先日、出てくるのを見逃したのは、男ではなく女の姿で出てきたからではないかと。
「ご明答!レノを騙せるならいけそうだな。つーことで、俺、仕事行くわ」
まるで友達と別れるような軽いノリで別れを告げられ、レノは面食らう。
もう会えないかもしれないのに――
レノが何か言うより早く、ヒロインが抱きついてきた。ヒロインの腕が首に回される。
「レノ、あんな別れ方でごめんね」
何も言わずに去ったことに対して。何も言わずに、死んでしまったことに対して。
レノはヒロインを抱きしめた。最後に触れたときと異なる感触。
「硬いな」
「なかなかいい出来だろ」
首に回していた腕を解き、レノから離れたヒロインがにやりと笑った。
「ところでさ、俺、友達いないんだよね」
「は?」
レノは素っ頓狂な声を上げた。
「ヒロインは死んだけど、よかったら俺と飲み友にならない?」
見た目は男、触り心地も男、喋り方も男、声も機械を使えば男…の元カノ。しかし、機械なしでしゃべれば女で、ボディスーツを脱げば女の身体。元の彼女を知るからこそ、男である現状に慣れない。
そして、いたずらっぽく笑う彼の顔には、彼女の面影がある。
ヒロインは死んだと言われても、受け入れるのには時間がかかりそうだ。
「まぁ、考えとくぞ、と」
「じゃあ、改めて。初めまして、レノ。俺の名前は――」
END
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